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第28話

その日の夜、俺は由莉亜の家を訪ねた。 相変わらずの豪邸ではあるが、庭の手入れがされておらず、管理が行き届いていない印象を受けた。 草木が君島の今現在の状況を考えて、ただの見栄で住んでいるとしか思えない。 この家を売却すれば多少は楽になるだろうに… かつての栄光にしがみついているのだと由莉亜が言っていたがその通りだった。 「総一郎様、お待ちしておりました。」 「やぁ、向井君。」 「ご案内致します。お嬢様がお待ちです。」 向井君に連れられ由莉亜の部屋に通された。 「よく来てくれたわね、総一郎。驚いたでしょう?使用人も雇えないせいでこの広すぎる家の管理が出来ないのよ。」 「少し驚いたけれど、由莉亜から事前に話を聞いていたのでね、それ程でもないよ。次に由莉亜がこちらに帰って来た時に叔父様と話すと約束したからね。」 「貴方が律儀な人で良かったわ。」 「君と俺のどちらのプラスにもならない事を片付けに来ただけだよ。」 「あらあら、貴方は相変わらず照れ屋さんね。」 「由莉亜、行くよ。」 「待って、総一郎。…ネクタイが曲がっているわ。貴方にしては、珍しいわね。」 由莉亜が俺の前に立ちネクタイを直した。 そして、由莉亜と並んで応接間に向かった。 向井君が扉を開くと叔父様と叔母様が待っていた。 「やぁ、総一郎君、待っていたよ。」 「よくいらしてくれましたわね。」 おじ様とおば様は立ち上がり俺を見た。 その姿は昔とはかけ離れていた。 「おじ様、おば様、ご無沙汰しております。」 俺が頭を下げるとおじ様とおば様が慌てた。 「か、顔を上げてくれたまえよ、総一郎君。」 「ささ、お掛けになって、総一郎さん。ほら、由莉亜ちゃんも。」 おば様に促され俺と由莉亜は席に着いた。 此処に来るまでの間、何度も脳内でシミュレーションした。 しかし、いざおじ様とおば様を前にすると中々難しいものだ。 そんな俺に痺れを切らした由莉亜が口を開いた。 「お父様、お母様、今日は何故総一郎さんがわざわざこうして足を運んでくださったかお分かりですよね?」 「…」 由莉亜の言葉におじ様とおば様は無言だった。 俺が上手くやらなければ由莉亜に自由はない。 そのように自分に言い聞かせた。 「おじ様、おば様…」 「なにも言わないでくれ、総一郎君…」 「そういうわけにはいきません。聞いていただけなければ、僕も由莉亜さんも困ります。」 「何も言うなと言っているんだ!」 おじ様が声を荒上げた。 「貴方、落ち着いてください。」 「…すまないね、取り乱した…」 「…いえ…」 「…総一郎君と由莉亜の結婚は私の希望なんだよ…」 おじ様の声はとても弱々しかった。 「…叔父様、お気持ちはお察しします。けれど、僕と由莉亜さんは結婚する事は出来ません。」 「そんな事を言わないでくれ、総一郎君…」 「僕と由莉亜さんが結婚したところで、誰のプラスにもなりません。もしも由莉亜さんと結婚したとしてもその生活は長くは続かないと思います。」 「でも由莉亜と総一郎君は交際していた仲ではないか。」 「おじ様は何時の話をしていらっしゃるのですか?もう何年も前の話です。交際すら長く続かなかった僕達が結婚などしたところで、上手くやってはいけない事くらい、おじ様もお分かりでしょう?それに、叔父様は父がどういった人間だかよくご存知ですよね?」 「それは…」 「失礼を承知で、正直に申し上げます。父はもうおじ様の会社にも君島の家柄にも興味がないのです。僕が由莉亜さんと結婚したからと言って、再建に協力する事もないでしょう。」 「…ッ…」 「父はシビアな人です。見込みのない者に投資はしない。もちろん、僕が父に頼み込んだとしても、無駄だと思います。父は僕には興味がないですから…」 おじ様は下を向いてしまった。 少し言い過ぎてしまったのかもしれない。 そのようなおじ様の姿見て心が痛んだ。 「お父様お願い、認めてちょうだい。私も他に大切に思っている人が居ますし、総一郎さんだってそうだわ。このような状態では結婚してもお互いに幸せにはなれないのよ。お父様にもなんのメリットもないわ。」 「おじ様、会社の事と僕達の事はもう別の問題なのです。…もう由莉亜さんも僕も子どもではありません。自由にしてはいただけませんか?」 「お父様、私、今のままでは嫌なの。まるで親子の縁を切る様な形で海外へ行ってしまったけれど、日本に戻ってきても実家に帰り難いような関係のままでは居たくはないわ。」 「由莉亜…」 「お願い、お父様…」 由莉亜の目には涙が浮かんでいた。 口では強がっていても由莉亜も女性なのだ。 「…由莉亜にそのように頼まれては…なにも言えないじゃないか…」 おじ様は小さく溜息をついた。

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