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第40話
蹴人は何かを考え込むように静かだ。
「なぁ…」
「うん?」
「…」
「どうしたのだい?蹴人。」
「…」
蹴人は緊張した面持ちで黙ったままだ。
「…蹴人?」
「…………きだ…」
「え?」
「……………。」
思わず掛け布団を剥いで勢いよく起きあがった。
全身に鳥肌が立つような感覚に襲われた。
人間は、嬉しくても鳥肌が立つらしい。
このような感覚は初めてだ。
顔中…
いや、全身が熱くなっていく。
俺は今…
とても人に見せる事の出来ないような顔をしているだろう。
蚊の泣くような…
いや、それよりも小さな声てはあったけれど…
蹴人は間違いなく"好き"だと言ったのだ。
「ちょっと、待って、え?それは、俺に背中向けて言う事なのかい!?」
酷い人だ…
俺が待ち望んでいた言葉なのに…
蹴人は今、俺と同じ感覚なのだろうか…
俺と同じような顔をしているのだろうか…
顔を見られてしまう事はとても恥ずかしい。
けれど、晒け出さなければ蹴人の可愛らしい顔を見る事は出来ない。
蹴人の表情は例えどのようなものであっても全て見ておきたい。
全て知りたい…
「顔なんか見られるわけないだろ…」
蹴人は掛け布団の中に隠れて丸まってしまった。
なんて…
可愛らしい…
「駄目だよ、とても大切な事なのだから。きちんと向き合って目を見て言ってくれないと…」
蹴人がどれ程必死に抵抗をしても聞き入れるつもりはない。
俺は蹴人を隠す掛け布団を剥ぎ取った。
蹴人の可愛らしい抵抗は続いた。
うつ伏せになり顔を隠したのだ。
「…嫌だ…」
「蹴人、恥ずかしがる事ではないよ。俺も、正直なところ今の顔を見られたくはない。」
「…」
「嬉しくて…どうにかなってしまいそうだ…。大の大人のそのような顔を見られたいわけがないでしょう?…」
ようやく蹴人は顔を上げてくれた。
その表情は堪らなく可愛らしい…
俺と同じ表情をしていた。
実際自分の表情を見たわけではない。
ただ、蹴人の表情を見た時に直感した。
恥ずかしくて…
格好悪くて…
とても見せらたものではない。
蹴人だけに見せる…
蹴人の為だけの表情だ。
「お前、なんて顔して…」
「…格好悪いかい?…けれど、聞きたかった言葉だ…ずっと…」
「そんな顔、他で晒すな…」
「…蹴人、君は意外と嫉妬深いのかい?」
「ッ…知るか!」
「大丈夫、安心してよいよ。俺がこのような顔を見せるのは蹴人だけだよ。それにね、俺をこのような顔にさせるのは、君だけだ…」
「こっ恥ずかしいヤツだな、お前は。」
「蹴人、もう一度聞かせてくれるかい?」
「…嫌だ。」
「今度は、俺の目を見て、きちんと聞きたい。」
蹴人は、昨日無理をさせたしんどいであろう身体を起こし俺を見た。
「…………」
「蹴人…」
「……ッ…」
「好きだよ、蹴人。」
「…………俺も…」
「…俺も?」
「…………好きだ…」
あぁ…
俺はこの言葉を聞く為に今まで生きてきたのだ。
そのように思えてしまう程幸せな瞬間だった。
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