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第52話
ゆっくりとした動作で唇を離し、蹴人を見ると何故か不愉快そうな表情をしていた。
「それ、止めろ…」
「何故だい?」
「…ガキ扱いされてるみたいで腹立つからだ。」
蹴人は他にも何か言いたげだった。
「それだけかい?」
「それ、…多分お前の口癖だから…」
「なるほど、言われてみればそうかもしれないね。」
「…だから、腹立つ。」
「気に入らない?」
「…腹立つ。」
「何故?」
「…口癖…だからだ…」
「これは、困ったね…」
「なにがだよ…」
「…部屋まで待てない程に、君が欲しくなってしまった。」
「いや、待て!!待て待て待て待てッ!!」
俺の下で蹴人の抵抗は再開された。
無理もない。
抵抗の原因は今俺が蹴人に求めている事にある。
車内でセックスをしたいと言われて二つ返事をする人は多くはない筈だ。
けれど、どんなに抵抗されたとしても逃す気はない。
「暴れてはいけないと言ったばかりだけれど?」
「あ、暴れるに決まってるだろ!」
「動くと余計に目立ってしまうよ?」
「…ッ…」
その言葉に蹴人は大人しくなった。
俺を睨み付けるその表情に興奮すら覚える。
まるで煽られているようで…
「君のその顔は俺を煽るだけなのだと、いつになれば覚えるのだろうね?…」
「…知るか。」
「けれど、覚えなくてもよいよ。君は永遠にそうして俺を煽り続けていれば…」
「なんだそ…ッ…」
最後まで言い終わらぬ内にその唇を塞いだ。
舌先で半ば強引に唇を開かせ舌を絡め、キスをしたまま指先を蹴人の身体に這わせた。
唇を離すと物足らないとでも言うかの様に俺の唇を追い強請る…
なんて…
可愛らしい…
俺の唇を捕まえて満足気にしながら激しく噛み付くように求めるだなんて…
蹴人は…
とても狡い…
こんなにも求めてきてくれているのにも関わら車内での行為は全力で拒否をする。
「…蹴人、どうしても嫌かい?」
「嫌に決まってるだろ!」
「仕方がない、諦めるよ。あまり嫌がる事をしたくはないからね。…蹴人、降りるよ。」
あまり強要する事は気が引ける。
俺は早々に諦め蹴人から離れてキーを抜き車を降りた。
蹴人も後ろから付いて来た。
「…」
蹴人は黙ったままだ。
俺と少し距離を置いている。
早々に諦めたてもりでいたが、蹴人はしつこいと感じたのだろうか…
「蹴人、もう少し近くにおいで。」
「な、何でだ。」
「離れて歩く理由はないでしょう?」
蹴人は警戒している。
俺は肩が触れ合う程の位置まで蹴人を引き寄せ、少し細めの腰に手を回した。
「…離せ…」
口だけだという事は理解している。
蹴人は本当に嫌ならば何としてでも逃げ出すようなタイプの子だ。
「嫌だ…と言ったら?」
試すような発言だ。
俺はこのように意地の悪い人間だっただろうか。
「…逃す気、ないんだろ?」
「もちろんだよ。」
腰に回していた手をスルスルと滑らせお尻を撫でた。
「お、おい…」
「これくらいは許して…」
部屋に入ったらすぐに繋がりたい。
その為には少しでも蹴人をその気にさせておかなくてはならない。
本来ならば今すぐにでも繋がりたいところだ。
蹴人のお尻を撫でながらエレベーターに乗り込んだ。
そして揉みしだく。
まるで鷲掴みにするように。
このまま少し悪戯をするつもりだった。
しかしエレベーターは1Fで止まってしまった。
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