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第4話
気温の低下が及ぼす影響はあっという間に林の姿を変える。下生えの草は勢いを無くし、緑から黄緑色、そして茶褐色に色を変えていく。
木々の葉は黄色く変わり、僅かの風でハラハラと舞うようになった。
斜めに立つ一本の白樺。真夏には真っ白に輝き眩しいくらいの樹皮だが、陽射しの衰えとともに白灰色のパサついた肌に変わってしまう。この白樺には何の種類かわからない蔦が複雑に絡み、幹と枝に纏わりついている。この林の中で最初に紅く変わるのが、この蔦の葉だ。真夏の白樺に紅色は映えるだろう、しかし煙ったような樹皮の上で紅々と風に揺れるこれも悪くない。
隣の柏の木はてっぺんから中ほどにかけて、山葡萄とコクワのツルがドレッドヘアーのように束になって垂れ落ちている。山葡萄の葉は紅く染まり、コクワは黄色、柏の葉は最後まで濃い緑色を保ち続けるので、隣の白樺よりカラフルで存在感がある。
白樺と柏の後ろにびっしり立っているカラマツの木は針葉樹でありながら冬には葉を落す。冬が近づくにつれ、どんどん色を失う景色。
縮んでいく雑草。
惰性で飛んでいるような紋白蝶。
チッチビービービー
小雀(コガラ)はその名のとおりとても小さい身体なのに鳴き声は随分大きく響く。灰色の羽と小さな頭に黒い帽子をかぶったように見えるのが見分けるコツだ。
四十雀も黒い帽子をかぶっているが、灰色に見える羽は光を捉えると綺麗な黄緑色に輝く。そして胸に一筋の黒い模様がありネクタイをしているように見える。
五十雀は流線型の体型で灰色の羽、頭部も灰色で帽子はなし。黒い筋が黒いくちばしから目を越えて羽の手前まで伸びている。スリムなサングラスをかけているようで少し不良っぽい。
窓の外を眺めながら、黒田はヒマワリの種をやっていないことを思い出した。
鳥籠の中に何も入っていないと、鳥たちは黒田が座るところに一番近い窓にやってきて窓の枠にとまってガラスをつつきだす。
コツコツコツ、強請っているのか、ただそうしたいのか、その判断ができないまま野鳥たちの行動を見ると黒田は鳥籠にヒマワリの種を入れてしまう。一日にやる量をきめれば3kgなんていう、一人暮らしの男の米並みのひヒマワリの種が消えるはずがないのは百も承知だ。
黒田はそれでいいと考えている。自分の素性をしらず、知りたいと望むこともないだろう野鳥に懐かれるのも悪くはない。
野鳥たちにとっては餌の自動補給機としか見えていなくてもだ。秋から冬、そして春がくるまでの厳しい季節をヒマワリの種によって命を繋ぐ野鳥が1羽でも増えれば、それでいい。
か細い僅か2年にみたない寿命には儚さを感じることができるというのに・・・黒田はそこまで考えて可笑しくなった。自らの手によって命を断ち切ることになった人間に対して罪の意識がないというのに、野鳥の面倒をみて心配している。
チッチビービービー
チッチビービー
コツコツコツ・・・・コツコツコツ
「しょうがないな、今いれてやるよ。」
黒田は野鳥の命を長らえるために立ち上がった。
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