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第2話
「もーぎーくん。かーえーろうっ!」
心なしかいつも以上に明るい天子の声に、放課後になったのだと気がついた。
しまった、逃げ損ねた。
「あの、ホントに、お礼とか。そう言うの、気にしなくていいから……」
今日一日、授業を受けながら天子と一緒に帰れる期待感と罪悪感に押しつぶされそうに過ごした。
「僕と一緒に帰るの嫌?」
くりっとした瞳が俺を見つめて、首を傾げる。
「そう、じゃ。ないけど……」
天子に近づけるのは嬉しい。けれど、今までしてきた事が。この感情がバレたらと思うと恐怖でしかない。
「なら一緒に帰ろう。茂木くんと一緒に行きたいとこあるんだー」
「行きたい、ところ……?」
「うん。ほら、行こう」
そう言って天子に掴まれた手首が暑い。馬鹿みたいにそこだけがヒリヒリとしてじっとりと汗をかいていた。
「茂木くんとは、ゆっくり話ししてみたかったんだよね」
上履きをスニーカーに履き替え床を軽く蹴る天子の髪がふわりと揺れ、どことなくいい香りがしたような気がする。
「そう、なんだ……」
「僕ね。茂木くんに聞きたいことがいっぱいあるんだ」
「聞きたい、こと……?」
「うん。どうして茂木くんは僕と話す時、いつも下向いてるのかな?とか。本当は僕の事苦手なのかな?とか……」
指折り数える天子にそうじゃないと、その逆だと伝えたれたらどんなに楽なんだろう。
「それとね。どうして茂木くんは、僕の物を盗むのかな?って……」
「え……?」
今、天子はなんて言った?
「前からおかしいなって思ってたんだよね。だから、わざと机の上に置いて帰ってたんだけど……あのシャーペン、茂木くんが持ってたんだよね?」
すうっと血の気が引く音がする。周りには何人もの生徒が居て、笑ったり話したりしながら俺たちを追い越しているはずなのに、まるで誰もいないかのように音が聞こえない。
「昨日もハンカチ、盗もうとしてたんでしょ?」
バレていた?ずっと前から?目の前に居る天子から笑顔が消え。ただじっと俺を見上げている。
「盗人には罰を与えなきゃ……」
ボソリと呟かれた天子の声。天子の事が好きで、俺みたいな人間が天子に近づける訳もなく。それでも何か、天子に近づきたくて初めてしまった事。
「天子、ごめ……」
「認めるんだ?なら、罰を受けて」
凛とした天子の声が鼓膜に突き刺さる。
「これから僕が言うことに絶対従って。茂木くんに拒否権はないから」
足がカタカタと震えて、全身に嫌な汗が吹き出ていく。
俺はこれからどんな事をされるんだろう。
「茂木くん、はいは?」
「……はい……」
「じゃ、行こう」
いつもと変わらない笑顔が恐怖でしかなかった。
「はい……」
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