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第3話

電車を乗り継ぎ、連れてこられたのはゲームセンター。天子はいくつかのクレーンゲームを覗いては歩いていく。 「茂木くん、あれ取って」  そう言って天子が指さしたのは何かのアニメキャラなのか、緩い表情でくったりとしたクッションがイケメンに抱き抱えられている。 「取れるまで、辞めちゃだめだから」 「わか、った……」  手持ちの小銭が尽き、何枚の野口英世が消えたか分からない。 「もうちょっと右!違う!右だってば!」 「えっ?やってる……」  天子の指示通りにアームを動かしているのに、一向に取れる気配のないぬいぐるみ。 「はいっ!もう一回!」  操作盤に置かれた百円玉が、天子の手によって無慈悲にも機械に吸い込まれていく。 「次はちゃんと取ってよね?」 「わ、わかったよ……」  指示出しが悪いと言ったら、きっと天子の機嫌を損ねる。だから、ただ従うしかなかった。 「もう!行き過ぎ!」 「ごめん」  それから何度も天子に怒られながら悪戦苦闘し、もうまもなく俺の財布の中身は空になろうとしている。 「待って!ストップ!ストップ!」 「え?」  天子に無造作に腕を掴まれた事でクレーンゲームのアームがガクリと揺れ、そのまま下に降りていく。 「あっ!ああー!」  取れるはずが無い。そう思っていたのに、ぬいぐるみはアームに頭を押されて落下した。 「も、茂木くん!茂木くんっ……!」  俺の手を掴む天子は、俺を脅迫してるとは思えない程に嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねて俺の名前を呼ぶ。 「うん。取れた……」  ずっと摘みあげようとしてたけど、押して落とす方法があるなんて思いもよらなかった。  落ちてきたぬいぐるみを天子に渡すと、天子はまた嬉しそうに笑い、ぬいぐるみを抱きしめる。その姿が天使の様に可愛くて、これなら脅され続けても良い様な気がした。 「ありがとう」 「いや……」 「さて、ぬいぐるみも取れた事だし。僕、お腹すいちゃった」  少し甘えた声を出す天子は言わずもがな、奢れと言う事だろう。しかし俺にそんな余力は残ってない。 「もしかして、お金無い?」 「あ、や……」  俺を射貫く様な視線に目を泳がせても、現実は変わらない。 「なら貸してあげる。駅前のファミレスでいいよね?」  何かを含んだ天子の笑顔。俺は何倍にして返さなければいけないんだろう。そう思いながら天子の後を追う。

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