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第6話
『ぬいぐるみありがとう。また明日学校でね』
天子から送られてきた一通のメッセージ。アイコンもあのぬいぐるみに変わってる。
「さっきまでのアイコン、スクショしとけばよかった……」
こういう考えが天子を嫌な気分にさせているのに、俺は全く反省してない。これ以上、天子に嫌な思いをさせちゃいけないのに、目を閉じれば天子と過ごした時間が鮮明に映し出されていく。幸せな気持ちで心が満たされていく。きっかけや理由はどうあれ、好きな子と一緒に過ごせた。俺にとってはすごい事だと思う。ゲーセンに行って、ファミレスで食事をして、まるで仲のいい友達みたいじゃないか。けれど天子はそんな風に思って欲しくて行動したわけじゃない。今日の事を戒めとして記憶し、自分に尽くせと言っている。
「ダメだ……」
気持ちが安定しない。嬉しさと自己嫌悪。その狭間でひたすら寝返りを打ってはなんと返信しようか悩んでいた。
『おはよう』
天子に返信できないまま朝を迎え、眠い目でぼおっとネットニュースを眺めていた画面にアプリの通知が届く。
『おはよう』
そう返すとすぐに親指を立てたキャラクターが送られてくる。
『昨日なんで無視したの?茂木くん自分の立場分かってる?』
無視した訳では無い。
『メッセージ見たかどうかこっちで分かるんだからね』
言われてみれば、さっき送ったメッセージの横に既読と書かれている。また天子の機嫌を損ねてしまった。
『ごめん』
ただそれだけを打ち送信する。
『既読スルーとか、信じられない』
天子の返信は早い。色々な表情や行動をするキャラクターを交えながらどんどん話が進んでいく。
「えっと……」
天子になんて言い訳するか悩んでいたら電車は目的地へと到達してしまう。また、無視する結果になってしまった。
学校に到着すると天子は既に登校してて、いつもと同じようにクラスメイトと話をしている。
「……今朝、天子のアイコン変わってたけど、あれなに?」
「んー?ちょっとね。嬉しかったから写真撮ったんだよねー」
天子の言葉にピクリと耳が動く。俺に金を使わせた事がそんなにも嬉しかったのか。
「ホントだ!なんだこれ?」
「マジブサイク!」
クラスメイト達がスマホを眺めながらケラケラと笑う。
「そうかな?可愛いと思うけど」
「これが可愛いとか、天子趣味悪すぎ」
「そうかもね……」
そう言った天子はスマホを口元に当て、俺を見る。天子が肯定した言葉の意味はきっと俺だ。ストーカー紛いの事をしていた俺に対する皮肉。そして、これからも俺に仕返しをすると言う意味なんだろう。
そんな視線を持て余した俺は、きょどりながらカバンから勉強道具を一式、机に移動させる。天子からいつ連絡が入っても良いようにスマホはポケットにしまい、休み時間はこまめにチェックをしていたが、学校にいる間はメッセージが送られてくることは無く、朝や夜にたわいのない挨拶が送られてくる。それが逆に怖かった。いつ天子に金を返せばいいのか。今度は何をすればいいのか。どんどんと気分は滅入っていく。
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