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第9話

まず天子は本屋に入り、店内をぐるっと一周して店を出る。その後はケーキ屋に寄るも、何も要求せずに店を出た。それから暫く歩き、たどり着いたのはスーパーマーケット。 「はい。持って」  差しされた買い物かごを受け取り、どうしてスーパーなのか首を傾げながら天子の横を歩く。入り口付近には特売品コーナーが設置され、天子はレタスとサラダ菜を手に取り数秒じっと見つめると、レタスをかごの中に入れる。その次は赤と黄色のパプリカ。鮮魚コーナーでしらすを手に取り、今度は精肉コーナーへ。 「茂木くん。料理できる?」  それは俺に料理しろと言ってるんだろうか。いや、これまでの展開から察するにそうなんだろう。 「インスタントラーメンぐらいしか、作った事無いけど……」  さすがの天子もこういえば引くだろ。誰だって不味い物は食べたくない。 「インスタントか……。じゃ、パスタでいいや」  そう言った天子はレトルトのパスタソースをかごに入れた後、飲み物を数本俺に買わせて店を出た。  両腕にずっしりとくる買い物袋を運びながら、数歩先を歩く天子の様子を伺う。これから天子は俺に食事を作らせて一緒に食べるんだろう。正直、天子の行動に違和感がある。もしかして、天子は俺を嫌ってはいないんじゃないだろうか。  俺が天子に抱いてる思いを茶化してはきたが、嫌悪感は感じて無かった気がする。それに映画を見てた時も平気で俺にくっついてきた。飲み物の事だってそうだ。  ストーカー紛いの事をしてきた俺に、普通あんな事をするだろうか。家に呼んだりするんだろうか。 「天子、あの……」 「なに?」  俺の事が好きなんですか?なんて言えるわけもない。俺だって面と向かって好きだなんて言えないし、勘違いだったら死ぬレベルだ。 「いや、なんでもない」  こんな分不相応な考えをした事を今すぐあの河川に飛び込んで水に流したい。 「変なの。あ、お茶ちょうだい」  天子がペットボトルを取り出した事で微かに軽くなったスーパーの袋を、思わずよっこいしょと言いたくなる気持ちでキッチンに置く。ひと先ずカウンターに袋の中身を並べ、背後では天子がパスタや鍋、調理器具一式を戸棚から取り出していた。 「じゃ、後はよろしくね」  よろしくと言われても、パスタは兎も角。この野菜をどうしたらいいのか分からない。そもそも、このシラスはなんのためにあるんだろう。天子に聞きたいが、本人はリビングでテレビを見始めてしまった。仕方なく俺はお湯を沸かし、野菜はとりあえず切って混ぜてみた。 「うん。パスタの茹で加減ちょうどいいし、サラダは形歪だけど、まあ、いいんじゃない?」  フォークに刺したパプリカの破片を見てクスリと笑う天子に、及第点は貰えたようだ。とは言え、レトルトのソースをかけただけのパスタと市販のドレッシングをかけたサラダでは失敗しようもなんだけど。

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