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恋人の証

「随分とゆっくりだったね」 脱衣所から出た俺を天城が迎えて、リビングのソファまで手を引かれた。 ローテーブルには湯気を立てるお茶が用意されていて、当然のようにそれを勧められる。 「長湯の後には少し熱いかな?」 食べていないせいか、ずっと身体が冷えている。たっぷりお湯に当たってきた後だというのに、もう既に肌寒い気がしていたから、温かい飲み物は素直に嬉しかった。 ありがとうと受け取って口を付ける俺を見て、天城は嬉しそうに笑う。 凄く機嫌が良さそうだ。前、俺をボコボコに殴ったのとは別人みたいに。この調子だと、デザートを貰えるのもきっとすぐだ。 「まだ濡れてる……」 デザートって何だろう。早く食べたいな。そう考えていた俺の髪に指が絡む。 ―――空気が変わった。 でも俺はそれに気づかないフリをして、何度も何度もお茶を啜る。 「んー……いい匂い……」 首元に鼻を埋められてもずっと気づかないフリをしていたら、遂にお茶を取り上げられてしまう。ローテーブルに置かれる湯飲みの行方をずっと追っていたけど、それ以上目を逸らすのは無理だった。当然の様に伸し掛かってきた天城に、後ろに倒されてしまったから。 「な、に……」 「何って、俺達恋人だろう?」 有無を言わさない天城の唇が下りてきた。もう無視できる状態じゃないし、逃げられない。 無意識に唇を固く閉じていると、下唇を甘噛みされる。開けという合図だ。これ以上嫌がれずに緩んだ口の中に、天城の舌が侵入する。 嫌だ……でも、耐えないと。いい子でいないと、デザートが食べられない……。 口の中を掻き回されると、下になっている俺の口の中が唾液だらけになる。天城が舌を動かす度に、俺の舌や唇に吸い付く度にピチャピチャと水音がする。溢してはいけない気がして必死に唾液を飲み込んでいたけど、口の中を翻弄される内に間に合わなくなってついに口の端からダラダラ零れだした。 長い口づけをようやくやめて顔をあげた天城に、顎に伝った唾液を舐め取られる。されるがままの俺を見てにっこり笑った天城は、ついさっき着たばかりのシャツのボタンに手を伸ばす。 「デザート、は……?」 無情に外されるボタンをひとつふたつ見送ってから、堪らず尋ねる。空腹感でお腹が切ない。キスは頑張ったから、もうデザートが欲しい……。 「まだだよ。ちゃんと最後までいい子にしてたらあげる」 「さいご……まで……」 「あ、そうだ。この間返事貰ってなかったから聞かせて。愛由はちゃんとまだ処女?」 ……その言い方は気持ち悪い。けど、今更はぐらかしたり嫌がってみせても、もう逃げられはしない。でも、目線を合わせる事はどうしてもできなくて、視線を逸らして微かに頷く。 「そう……そうか。嬉しいな。俺がハジメテになるんだ……。愛由の事、守ってきた甲斐があったな……」 天城の声は静かだけど、隠しきれない程に弾んでいる。 ああ、俺、ヤラレルんだ。ご飯を食べちゃったから。デザートが欲しいから。その代わりにやられちゃうんだ……。 気づいたら涙が溢れていた。その涙を、天城の舌が辿る。 「恋人の証を、俺にちょうだいね」 残りのボタンに手が掛かる。前が開かれて、今度は袖を摘ままれた。シャツを抜こうとしているのだ。俺は、頭の中を空っぽにして背中を浮かせて腕を引いた。身体から離れたシャツが、ハラリと床に落ちた。 「綺麗………」 天城の手が、俺の浮き出た肋骨や腰骨を撫で擦る。 緊張でなのか怖いからなのか、動悸が凄い。そのお陰なのか、ざわざわした肌寒さがなくなった。その代わりに、撫でられる部分が妙にゾワゾワして、身体が熱い。 俺は目を瞑った。何も考えない様に。感じない様に。 やがて天城の手は、胸の突起を弄り始める。初めてじゃない感覚に記憶が呼び起こされそうになって、俺は慌てて目を開いた。 「そう。ちゃんと誰にやられてるか見てないと……」 天城の顔が胸元に伏せられて、濡れた感触がそこを焦らす様に絶妙にずれて行き交う。 「………あ……ッ」 漸く舌に掠められたそこは、自分でも驚くくらい敏感になっていた。 「愛由はえっちだ……」 満足そうに笑った天城が、今度はそこをダイレクトに口に含んだ。舌先で転がされ、甘噛みされる度に、そこと腰がじんわり痺れて身体が揺れる。 『子供の癖にここの感度だけは一人前だな』 嘲笑と共に投げつけられた言葉が頭の中で響いて胸を抉る。こんな反応、したくない……。 「大丈夫だよ……」 舌が、また目尻を這った。俺はまた泣いているみたいだ。 怖くないよ。そう呟いた天城の手が、そろそろと下の方に伸びていく。そして………。 「勃ってる」 天城が嬉しそうに言う。自分の身体なんだから、言われなくても知ってる。ただ乳首を弄られ、舐められただけでこうなった事も。 「可愛いね……」 勃ち上がったそこを緩やかに扱かれる。ずっとむず痒かったそこを直接触って貰えて俺の身体は勝手にもっと、と腰を動かしてしまう。 「エッチな愛由。こうするともっと気持ちよくなるよ」 気持ちいいそこに、ヒヤリとした液体がかけられた。扱く手はさっきよりもスムーズに動いて、俺のそこはひっかかる様な嫌な摩擦がなくなって気持ちいいばっかりになった。 「本当に可愛いなあ、愛由は」 伸び上がってきた天城に頬にキスをされる。そして、唇にも。 「ンん……は……ぁ……」 口内を舌でなぞられる度に、刺激されている下がまだまだゾクゾクする。 どうしよう、何これ……。 気づけば逃げることも忘れ、自ら天城の舌に自分の物を絡めていた。 気持ちいい。溶けちゃいそう。もっと早く動かして……。 ねだるように腰を擦り付けると、期待通りに手の動きが早くなる。 「ん……んん……」 気持ちいい。もうイっちゃう。でも、キスが離れないから教えられない……。 「ンっ……ああ……ッ」 もう我慢できなくて、俺は天城の手と自分の腹を白濁で汚してしまった。溶けてしまったと思った唇はちゃんと離れていって、残渣を搾り取る様にまだ動く天城の手に、下半身は未だ翻弄されている。 「も、……ぃや………」 敏感なそこを触られ続けるのは辛くて、その手を緩く押し退けた。 「ごめんね。愛由があんまり可愛くて感動してるんだ……」 天城はようやく手を離すと、俺の腹に飛んだ精液を手で掬い取った。 「いっぱい出たね」 眼前で見せつけられてとてつもなく恥ずかしくて、俺は視線を逸らして俯く。 「本当に可愛いね……。今度はこっちを可愛がろうかな……」 片手で股を割られる。反射的に閉じようとするけど、馬鹿みたいに強い力はびくともしない。 ………違う。天城が馬鹿力なんじゃなくて、俺が非力なのだ。力が全然入らない。またガス欠だ。デザート、早く欲しい……。 唯一まだ誰にも触れられて来なかった後ろに、ベタベタするものが塗られる。多分、さっき見せつけられたもの。 「今慣らすから、力抜いててね」 「う……」 力なんてわざわざ抜かなくても入らないけど、自分の意思とは関係なしに固く締まったそこを無理矢理抉じ開けられるのは、痛みよりは鈍いが強い違和感がある。 「誰も入った事ない愛由の中……凄く狭い……」 「は……ぁ……はぁ……」 内蔵の奥を掻き回されて勝手に息が上がる。指を抜き差ししているだけの天城の息遣いは、それ以上に荒い。

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