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デザート
「もういいかな?もう広がったかな?」
指が性急に増やされて、だんだん違和感だけじゃない痛みを訴え始める。それなのにベルトを緩めようとしている天城を見て、俺は焦って首を振った。
「まだ無理」
「でも、もう指3本入ってる」
「痛い、から……」
「大丈夫だよ。愛由の精液だけじゃなくて、ローションもたっぷり塗ってあるから」
これ以上どう言えば待ってくれるのか分からなくて首を振るばかりの俺はすっかり無視されて、天城はスラックスを下ろした。目を逸らしたくなる程に盛り上がっている下着も下ろすと、凶器みたいな大きさの性器がピンと上を向いていた。
「や……そんな大きいの、入らない……!」
恐ろしさに禍々しいそれから目を逸らせない。だってあんなの、太さも長さも入る筈ない!
「AVみたいなセリフ。俺を喜ばせようとしてるの?」
「ちがう……!本当に、無理、」
「俺もう我慢できないよ。大丈夫。すぐ気持ちよくなるから……」
怖い………!
足を抱え上げられる頃には、俺は啜り泣いていたけど、天城は意に返さない。
みちみちと、腰を進められる度にそこが無理に拡げられていく。穴は痛いし、内臓がせりあげられるみたいな圧迫感がある。
目を閉じて息を殺して脂汗を流しながら少し耐えていると、はぁぁぁ、と大きなため息が聞こえた。
「気持ちよすぎるよ愛由……」
そう言った天城がどさりと俺の上に倒れ込んできた。身体を両腕でぎゅうと挟まれて、足の付け根から上が全部密着する。
苦しい程に抱き締められているし重たいけど、動かないでいてくれるならこの方が楽だ。
でも、入っちゃったんだ。絶対無理だと思ってたのに、案外あっけない。ここだけは頑なに守られてきた割に………。
「動いていい?」
耳元に熱い吐息がかかる。せっかく今の位置で慣れたのに、きっと動いたらまた痛くて苦しい。俺はまた慌てて首を振ったけど、天城の質問は形式的な物だったのか、俺の答えなんて無視して腰を振り始めた。
「よすぎてすぐイっちゃいそう……」
「はっはぁ……う、うぅ……」
痛い………。苦しい………。
呼吸が荒いのも、声が出てしまうのも苦痛からなのに、天城は「気持ちいい?」と嬉しそうに聞いてくる。首を振ったってどうせ無視されるんだと思うとその意思表示すらするのが嫌で、俺は目をぎゅっと瞑った。
暫く耐えていると、イク、と小さく呻いた天城が動きを止めたから、終わったんだと思った。でも、ほっとする間もなくすぐに身体が揺さぶられる。
「抜かずにまた勃つなんて初めてだよ。愛由が好きすぎるから……」
じゅぶじゅぶとさっきよりも粘っこい水音が高い。
中まで汚されて、もう失うものなんて本当に何もないなあと静かに絶望する。
「愛由、好きだよ。大好き」
また、身体をぎゅうと抱き締められた。耳や髪や頬に沢山のキスが降ってくる。
「愛由も言って」
……なに、を……?
「俺の事好きって」
何を言われているのか分からなかった。でも、少ししてから思いだした。俺、コイビトになるって言ったんだ。ご飯が食べたくて、そう言ったんだった。そして、デザートが欲しくて今身体を明け渡しているんだった。俺って安いなぁ……。今に始まった事じゃ、ないけど………。
「ン……す、き……っ」
「俺も好きだよ、愛由」
首に手を回して……。昔みたいに俺の名前呼んで……。
次々とされる新しい要求に、俺は従う。いい子にしていないと。もし機嫌を損ねてご褒美が貰えなかったら、何のためにこうしてるのかわからないから。
「す、き……そう、ちゃん」
「俺も、大好きだよ、愛由」
そのまま恭しく口付けをされて、優しく舌を吸われる。抱き合って、繋がって、キスを交わして、本当に恋人同士になったみたいだと思った。それがいいのか悪いのかという無駄な事は考えない。そもそも、頭がうまく働かない。
舌を絡められる度、口の粘膜をなぞられる度に、穿たれている所がもやもやする。何だろこれ……。何で俺……。
「愛由、勃ってるよ」
「や……ぁッ……」
そこを握られて目敏く指摘されて、恥ずかしさに顔が熱くなる。この快感は、そこを直接触られているだけのものじゃなくて、身体の奥を突かれる度にじわりと生じていて……。
「気持ちよくなってきた?」
顔を覗き込まれて、あまりの恥ずかしさに泣きそうになる。
「泣かないで、俺の可愛い愛由……」
一緒に気持ちよくなろうね。
追い上げる様に、そこを擦る手の動きが速くなる。同時に、後ろを突く腰遣いも荒々しくなって、俺の内部に誤魔化し様のない疼きを刻み付けていく。
「あ……ああっ……い、く……でちゃ……ッ!」
目の前で火花が弾けて、胸元まで飛沫が飛ぶ。これまで味わった事がない種類の感覚に、頭がバカになるんじゃないかと思った。
同時に動きを止めた天城が中から出ていくその刺激にすら、ぶるりと身体が震える。
「気持ちよかったね……」
手足を投げ出して余韻に浸っている俺の身体にキスの雨が降る。最後に唇にキスしてきた天城は、愛してるよと言ってソファから立ち上がった。
残された俺には、もう起き上がる気力も残されていない。腕を伸ばして床に落ちていたシャツを拾って身体にかけるだけでヘトヘトだ。
まだ腰の辺りがジンジンしているのが気にかかる。今まで自分で触った事も、触られた事もなかった内側が、だ。
気持ち、よかったなんて……。俺、変だ………。
「愛由、身体起こせる?」
ソファの前のローテーブルにコトリと皿が置かれる。その上には三角形にカットされたパイが乗っている。
視覚に遅れて、バターのいい香りが鼻をついたから、少しの間忘れていた空腹感がまた再来した。
「危ないよ」
無理に身体を起こそうとしてふらついた所を、がっしりとした腕に背中を支えられる。
「ありがと……」
言った瞬間抱き締められて、弾みでせっかくかけたシャツが膝の上に落ちた。自力で身体を支える事すらままならない俺はぐったりと天城に寄り掛かかるしかない。
「支えててあげる」
今度は体勢を入れ換えて後ろから抱き締められる。裸同然の身体だから別の意味で心許ない部分はあるけど、座る姿勢は確かに安定した。
「食べられる?」
天城の問いに頷くと、皿に手を伸ばす。ただの薄い皿が驚く程重く感じられたけど、取り落としたりはしない。俺が、身体を差し出して手に入れたデザートだ。大事に食べないと。
アップルパイ……かな。あまり食べたことないけど、ともかくなんて美味しそうなんだろう……。
「美味しい……」
フォークで一口サイズにして口に運んだら、サクサクのパイはバターの風味が濃厚で、温かいリンゴは柔らかくてとろけるくらい甘かった。
あまりに美味しくてまた泣きそうだ。好物は何って聞かれたら、俺は今迷いなくこれと答えるだろう。だって今まで食べてきたどの食べ物より美味しい。
「本当はアイスクリームを添えてあげたかったんだけど、身体を冷やしちゃうのはよくないと思って」
アイスクリーム、と聞いて卑しい俺はまた涎を増やしてしまう。特別好きでなかったアップルパイがこんなに美味しいんだから、アイスなんてどれだけ美味しいんだろう……。
「こらこら物欲しそうな顔しないの。今日はこれでおしまい」
天城の物言いに、貰えないのかと落胆する。アップルパイももうあと一口でなくなる。まだまだこんなにお腹が減っているというのに……。
「愛由は本当にアイスクリームが好きだね」
今度もう少し体力がついたら食べさせてあげるよ。そう言われて、その日はいつになるんだろうと期待するのをやめられない。
その時貰えるのが、あのチェーン店のアイスだったりしたら、尚嬉しいな。高校生の時、由信と土佐に連れていって貰って初めて知って感動したあの味。特に、ナッツの沢山入ったのが好きなんだ。あと、マシュマロとチョコのもいいし、パチパチ口の中で弾けるあれも。
―――あれ?何で天城はアイスの事………。
「皿、片付けてくるから、横になって休んでて」
そっと身体を横たえられた途端、一気に睡魔に襲われた。抗えずに目を閉じると、急速に意識が遠退いていく………。
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