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駄目
目を覚まして見る光景は、殆ど昨日と同じだった。ただひとつだけ違うのは、広いベッドに横たわっているのが俺だけではないということ。
昨日は朝ごはんを食べてヤって、昼ごはんを食べてヤって、夜ご飯を食べた後もヤった。
腰から下がまだ怠くて、あまり柔らかくない足をヤる度に広げられて押さえつけられる為か、股関節辺りは軋むような痛みを伴っている。
怠い……。身体を起こすのも一苦労だし、強いて言うなら意識があるというだけで疲れる。
お腹減ったなあ……。
デザートを与えられたのは初日だけで、毎食お粥しか食べていない。起きてても食べ物ばっかり頭に浮かんできて、でも食べられなくて辛いだけだし、また眠ってしまおうかな。そんな事をぼんやりと考えていた。
「おはよう愛由」
いつの間に起きていたのか、隣から声がかかる。
「おはよ……」
少しテンポが遅れた俺の返事に優しく笑った天城の唇が頬に触れる。
「今朝は早起きだったんだね」
「目が、覚めちゃって……」
「そっか。愛由の顔、すっかり綺麗になった」
何の事だろう……?
初めは本気で分からなかった。けど、頬に手を触れられて、撫で擦られて、漸く思い出した。俺、こいつにボコボコにされた―――。
パシッ!
………無意識だった。無意識に、俺は天城の手を強く払い除けていた。逃げ出す気力も、戦う体力も残っていないのに。
「どうしたの愛由?手、叩いたら痛いよ?」
天城は笑っている。
「ねえ愛由、どういう事?説明して?」
笑っているけど、笑ってない。笑いの形になっているのは口の端だけで、本当は怒ってる。だってこの目は、あの時の。俺を何度も何度も殴り付けた時の目だから……。
「ごめん、なさい……」
怖くて目が見れない。天城が何も言わない数十秒の間、どんな処分が下されるのだろうとビクビク震えていた。
「分かったならいいよ。次から気を付けてね」
言われて顔を上げると、天城が笑ってない顔で笑っていた。慌ててまた視線を下げると、前髪の上から額に口づけられた。
「昨日もいっぱいしたけど、まだし足りないな……」
額から耳、首と唇を移動させながら言われた言葉にゾッとした。身体が怠くて、足の付け根が痛くて、今日はしたくない。
「あの、宗、ちゃん……」
唇を重ねられる直前、天城の肩を押した。そして、機嫌を損ねない様に、天城が言わせたがる昔のあだ名で呼ぶ。
「なあに、愛由?」
天城の目は、優しく細められている。さっきまでの目とは違う。聞いてくれるかも……。
「身体……足、とか……痛くて。今日は……休みたい、な……」
天城は黙った。沈黙が怖い。今どんな目をしているんだろう……。
「駄目」
祈るように待った答えは余りに短くて一方的だった。
無意識に肌に掛けた布団を胸元で握りしめていた手を無情に剥がされると、邪魔だと言わんばかりに布団を勢いよく捲られた。
「……っ!」
強く乳首を摘ままれて捻られる。愛撫するというより、痛めつけるようなやり方で。
「俺と愛由は恋人同士だよね?」
「い、たい……ッ」
痛みを訴えたら、抗議したら、黙れとばかりに更に強く捻られた。
「恋人がしたいって言ったらするのが当然だよね?愛由は拒絶される側の気持ちって、考えたことある?」
「ごめん……ごめんなさい!する、から……っ!」
―――もう痛いのはいやだ……!
「愛由はいつもそう!昨日は可愛くキスをねだった癖に!俺がこんなに好きなのに、こんなに愛してるのに、愛由はいつもいつも俺の事を……ッ!!」
―――――!!
反抗してない。寧ろもう既に降伏すらしていたというのに、俺は頬をビンタされた。左右の頬に1発ずつ。
俺の顔は衝撃で横を向いたまま動けない。またボコボコにされるのか。そしてまたこの顔が『見れるツラ』になるまであの部屋に放置されるのか。食事も与えられず、トイレも行けず………。
「ごめんなさい……。もう、ゆるして………」
そんなの嫌で、怖くて堪らなくて、歯がカチカチなって涙がポロポロ溢れ出た。
俺が悪いんだ。ちょっと足が痛いくらいで、ちょっと身体が怠いくらいで………。
「ごめ、……さい………ごめん、………い………」
何度も何度も謝ったけど、何も言って貰えない。怖くて横を向いたままだから、涙が枕に染みてどんどん冷たくなっていく。
「謝る以外にどうすれば許して貰えると思う?」
漸く聞けた声色はまだ冷たい。答えをひとつでも間違えば、きっとまた殴られる……。
「だ……だい、て……ください………」
「それだけ?」
「……そう、ちゃん……好き………だい、すき………」
「俺も大好きだよ、愛由」
声のトーンが優しくなった。俺、許して貰えた……?
恐る恐る正面を向くと、すぐに唇が下りてきた。優しいキスだ。口の中を這い回る舌の動きも優しい。
期待に応えようとして、懸命に舌を絡ませる。そして、いつも言われてからするのを先回りして、首に手を回した。
合わさる唇から、天城の唇が笑みの形に変わったのが解って、心底ほっとした。
だんだん、口づけが深くなる。優しいばっかりだった舌の動きも少し乱暴になって。
長いキスだった。いつもならそろそろ熱くなる頃なのに、どうしてこんな冷めたままなんだろう……。
手が身体中を這う。唇も、身体中に。
早く熱くなって、気持ちいいってしか感じなくなりたいのに、ちっともそうならない。
「フェラして」
言われて、俺は身体を起こす。フラフラしたけど、手で踏ん張って、仰向けに寝そべった天城の下腹部に顔を埋める。
「そうそう、大分仕込まれてるね、悔しいけど」
―――もう忘れてると思った。けど、覚えていた。忘れられる筈なかった。
初めは甘いシロップを舐め取らされてた。けど、だんだんそんなオマケはつかなくなって、喉の奥まで突っ込まれる様になって、噎せては下手くそと罵倒され、最悪殴られる。シリコンなのかパールなのか知らないけど、ぼこぼこしたのが入ってるおじさんのが一番きつかった。ぼこぼこが出っ張って大きいのも嫌だったし、容赦なく奥まで突かれるのも。そして、何よりもあのおじさんは、俺の事をよく殴った………。
「もういいよ」
頭の方から声がかかって、性器から口を離して顔を上げる。まだイかせてないのに。下手くそだったのかな。怒られるのかな……。
でも、その不安は的中しなかった。相手は「気持ち良すぎてイっちゃうよ」と笑っているから。
「出すのは愛由のもっと深くがいい」
今度は俺がベッドに仰向けにされて、死んだ蛙みたいな体勢になる。そして解すのもそこそこに挿入された。
「愛由のここ、もう俺の形になってきてる……」
ハァハァと荒い息が顔にかかって気持ち悪いし、後ろの穴は痛い。
何でだろう。昨日はあんなにむずむずして気持ちよかったのに、今日はあんまり………。
「なんだ愛由、アレが必要なの?」
天城の手が、反応してない俺の性器をむにむに握りながら面白くなさそうに言う。
「あ、れ……?」
「こっちの話」
何だろう……。
少し考えたけど、すぐやめた。そんな事より、俺は痛いのとか気持ち悪いっていうのを顔に出さない様にすることでいっぱいいっぱいだった。下半身の生理的な反応はどうしようもないけど、これ以上天城の機嫌を損ねたくなかったから。
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