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躾
浴室でのセックスの途中で気を失ってしまった愛由の身体の水滴を丁寧に拭いてベッドに横たえる。
興奮剤をいつもの3倍与えたせいではあったが、それでも先程の愛由の乱れ様に未だ興奮は冷めやらない。
思い出すとまた欲望が頭をもたげてくる。
だが、我慢しなければ。今朝は立て続けに2回した上に薬も大量に使った。愛由の体力の消耗が激しいはずだから、少し休ませないと。常にヘロヘロな状態でいて貰いたいとは思うが、加減を誤りまた死なせかける訳にはいかない。
リビングへ戻り、鍵のかかる金庫から自分のものではないスマホを取り出した。こういう気の進まない事こそ、時間のある時に優先的に片付けておいた方がいい。
落としておいた電源を入れると、耳障りな短い着信音が何度も響いた。通知の主のLINEを起動して、まずは未読メッセージの多い「由信」のトークから確認する。
『あゆくんのノート、ちゃんと取ってあるよ』『具合はどう?』『やっぱりお見舞い行きたいな』『心配だよ』
「土佐健」からは、1通だ。
『よっしー死にそう』
数日に1回愛由に成り代わり返信していると言うのに、返信の度にメッセージを送ってくる。
個人的にLINEのやり取りをするだけ親しいのはこの二人だけというのは俺の目論み通りだけど、それにしても面倒なのが傍に残ったなと思う。
由信に至っては返信しなくても毎日の様にメッセージを送ってくるし、愛由を監禁してちょうど1週間経った日には、あんなに何度も家に来るなと言っていたのにも関わらず愛由の家に行ってひと騒動起こした。
そんなこともあり、愛由は風邪を拗らせ肺炎を起こし入院した事になっている。
『弱った姿は見せたくないからごめん。心配しなくて大丈夫』
少し悩んで、結局由信にも土佐健(とさたける)にも同じ文面を送った。
由信とは別の意味で土佐健は扱いにくい。まずLINEの文面が由信と違い単純じゃないから返信しずらい。内容を考えるのが面倒で大体由信と同じ文面を返しているが、試されている様な嫌な感じがするのだ。
それに、俺の用意したトラップを悉く交わしてきたのもこの男だった。実際に接触した分では、ノリのいい普通の大学生といった感じで、寧ろ由信よりも取っ付き易い印象だったが………。
送ってすぐだというのに、またピコンピコンうるさいスマホの電源を落として金庫に放り込む。
気晴らしがしたくて無意識に足が寝室に向いたが、愛由が目を覚ます様子は流石にまだない。
仕方なしに書斎に入り、パソコンを開く。これまで録り貯めた動画のチェックをするためだ。
浴室を含む全ての部屋に監視カメラを仕掛けておいてよかったなと思う。
小型で隠せる事を優先して設置したので画質は最高級ではないが、それなりによく録れている。
ハードディスクの要領がいっぱいになる前に、必要な分だけデータを取り出しておかなければ。
初めて抱いた時の映像や、愛由に初めてキスを求められたものもいい。でも、中でも一番お気に入りなのはやはり先程の浴室での、今までで一番乱れた姿だ。おかしくなると言って身体くねらせる愛由は最高に官能的だった……。
作業と観賞を終えると、もう正午を過ぎていた。
愛由を起こして、また野菜スープを沢山飲ませてあげよう。観賞で昂った自身を、生身の愛由に慰めて貰わなければ……。
「くくく……」
愛由との情事を想像するだけで愉快で興奮して笑いが込み上げてくる。
「愛由、もう昼だよ」
先程寝かせた時と変わりない体勢で目を瞑る愛由の肩を揺さぶる。
暫く揺さぶって漸く目を開けた愛由は、俺の顔をぼーっと見た後に、いきなり思い出した様に顔を真っ赤にさせた。可愛い反応だ。
「よく眠れた?」
あまりに可愛くて、唇に軽くキスをしてから言うと、愛由は恥ずかしそうに視線を逸らして頷いた。
「昼ごはん、食べようか」
『ご飯』というご褒美のワードを聞かせただけで、愛由の表情が期待の色にくるっと変わる。一言一句逃すまいという様に、俺の顔をじっと見つめるその一生懸命さも可愛らしい。
「またスープはお代わり自由だよ」
俺が立ち上がると、それを合図に愛由もモゾモゾと身体を起こしてシーツを手繰り寄せた。それを身体に巻き付ける動作すらきつそうなぐらい体力がないのに、もう既に身体の隅々まで知られてしまっていると言うのに、それでも恥じらいを捨てない所が何ともいじらしい。
愛由は俺の目論見通りいつもフラフラだ。元々細くて蓄えも殆どないのに、入ってくる栄養が極端に少ないから。
手を差し出すと、素直にそれにすがってくる。ここに連れてきた初日から見たら考えられない程、愛由は俺に服従している。その姿だけを見れば躾は順調に進んでいると言えるが、まだ洗脳は完璧じゃない。
問題なのは、愛由をここから解放した時だ。父に新たな躾場所は頼んでおいたけれど、恐らくすぐには用意できまい。
まあ、その時の為の既成事実と証拠動画なのだが………。
「あの……宗、ちゃん」
ダイニングの椅子に掛けた愛由が、上目遣いにこちらを見ている。
「なあに?」
「俺、もう結構、体力……ついたし、普通のご飯、食べたい」
「何言ってるんだ愛由。まだまだここまで一人で歩く事もできない癖に」
「それ、多分、食べてないから……。ちゃんと食べたら、普通に歩ける様に……」
「愛由はいつから医者になったの?」
「え……」
「俺がこのままでいいって言ってるんだから、お前は黙って従っていればいいんだ!」
机を叩いて恫喝すると、愛由はビクッと肩を震わせ俯いた。
「俺に意見するなんて100年早い!」
「ごめんなさい………」
愛由は殆ど泣きそうな声で降伏した。
大事なのは、支配者が誰であるかを分からせる事だ。それが、躾……心理学的に言えば洗脳の本質とも言える。俺に逆らってはいけないという事を、ここにいられる間に骨の髄に染み込むまで身につけさせなければならない。
「分かればいいんだよ」
頭を撫でてやろうと手を伸ばすと、愛由はぎゅっと目を瞑って頭を竦めた。どうやら殴られると思ったらしい。
「いい子にしてれば殴られないし、美味しいご飯も貰えるよ。だから、いい子にしているんだよ、愛由」
頭を撫でながら言うと、下を向いたままの愛由が小さく分かったと返事をした。
そう、アメとムチが大事なのだ。とは言え、愛由への想いが強すぎて感情的にムチを与えすぎる事もしばしばだが………。
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