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逃れられない

「愛由、俺の誘い断ろうとした?」 さっきまでとは打って変わって怒りを隠すことのない天城の口調の冷たさにゾッとする。 「ち……がう。本当に、バイトあるから……」 「そうだとしても!」 ガンッと天城がハンドルを叩いたから、肩がビクッと震える。 「そうだとしても、休めばいいだろう!愛由は俺とバイトとどっちが大事なんだ!?」 どっちがって………。 「でも、俺働かないと食って行けないし……」 「そういう事を聞いてるんじゃない!」 また天城がハンドルをガンガン叩く。怖い………。天城が望む答えを、言わないと…………。 「宗ちゃん……が、だいじ………」 「じゃあ電話して」 「え……」 「バイト!休むって電話しろ!」 俺は、そうせざるを得なかった。もう普通に食べてるし力もあるし頭も働いているのに、怒鳴られる度に無気力になっていく。抵抗しても無駄だ。逃げられる訳ない。だったら痛いことや酷いことをされない様に、自分を守ることが一番なのだ、と。 「俺が愛由の為にどれだけ本職を休んだと思ってる!そのせいでこの1週間俺がどれだけ忙しかったか……!!」 言う通りにしたというのにまだ俺に腹を立てているらしい天城は、運転中もずっと怒鳴りながら文句を言っている。怒りに比例するようにスピードがどんどん上がって行くから、天城自身も相当怖いのに、事故りそうで別の意味でも怖い。どうか落ち着いてくれと思っても、何を言っても逆上させそうで、黙っていることしかできない。 ようやくスピードが緩やかになって車が入って行ったのは、高そうなマンションの駐車場だった。 「俺の家」 短く説明されて、車を降りる様に促される。従って、とぼとぼと天城の後を着いて行く自分に「バカじゃないのか」と思う。自ら密室に着いて行くなんて、本当にバカだ。 「どうした?」 立ち止まった俺に、天城の声色は人目を気にしてか車内にいた時よりも優しい。けど、目付きはとても鋭い。俺の足は勝手に動く。自分を守るため何が賢明か、を思い出して。 「大きな声上げるなよ。防音とか、多分あんまり考えられてないから」 部屋に入りつくなり玄関で天城はそう言って、俺の頬を立て続けに3回ビンタした。 「バイトの事もだけど、今後あいつらとあんまり喋るな」 あいつら………。 「土佐と由信だよ。あんまり仲良いとこ見せつけられたら、俺、ヤキモチであいつらの単位落としちゃいそう」 ………は?――――ふざけんな! 「あいつらは関係ないだろ!」 久しぶりに食って掛かったら、案の定、 また頬を叩かれた。 「……っ!」 「口の聞き方に気を付けろ」 「……………」 「愛由は黙って俺の言うことを聞いてればいいんだ。あいつらとは必要最低限の付き合いしかしない。これはもう決定事項。分かったか?」 黙って俯いていたら、頭に強い衝撃があって、身体ごとタイルに薙ぎ倒された。 「………ったか?」 耳辺りをを叩かれたせいで、左耳がキーンと鳴っていて、天城の声が籠って聞こえずらい。 見上げると、仁王立ちした天城の手には分厚いレザーケースが握られていて、あれで殴られたんだと理解した。多分中には書類の他に本なんかも入っていると思う。だって凄く重くて硬かったし、こめかみがかなり痛い。 「分かったかと聞いてるんだ!」 「わかった……!」 天城が怒鳴ってレザーケースを振り上げたから、慌てて返事をした。それでも殴られるんじゃないかと思って、衝撃に備えて頭を竦めて目をぎゅっと瞑った。 ダンッ! 鈍い音がしたのは、俺が倒れ込んでいるすぐ隣からだ。恐る恐る目を開けると、そこには中身が散乱したレザーケースが落ちていた。天城が、振り上げた勢いに任せてレザーケースを投げつけたのだ。ケースの端か中身の本が腕に当たったのだろうか。今になってジンジン痛む。 「あんまり俺を怒らせるなよ」 「ごめんなさい………」 反射の様に謝った俺の頭に、天城の手が乗っかる。 お願いもう叩かないで……。 その祈りが通じたのか、天城の手は優しく俺の頭を撫でた。 ほっとした所で腕を持ち上げられて立たされて、導かれるがままついていった先は、寝室だった。シーツがあの別荘の部屋と同じ色味で、嫌でもあの監禁生活が生々しく思い出される。 ああ………この雰囲気は………。 「ねえ愛由、俺と離れて寂しかった?寂しかったよね。俺も凄く寂しかったし、凄く会いたかった。だから、今日までに溜まってた仕事ぜーんぶ片付けてきたんだよ」 顎をくいっと上げられ、唇が落とされる。 すぐに舌が奥まで入ってきて、歯の裏まで舐められた後に舌を捕えられた。角度が変わる度に口付けが深くなって、くちゅくちゅといやらしい音も高くなる。 「ん……んん……」 気持ちは冷めているのに、条件反射みたいに身体がむずむずする。もう俺は監禁されてないし、毎日異常な数のセックスをしてる訳でもない。あの頃は空腹故に深く物事を考えられず、目先の快楽に流されただけ。だからもうあんな風にはならない。そう思ってたのに………どうして俺の身体はまたあの頃と同じ反応をしてるの……。 服を脱がされながら縺れる様にベッドに押し倒され、胸の突起を舐められると火が付いたみたく身体が熱くなった。 「もうこんなにしちゃって。エッチな愛由は、俺に抱いて欲しくて堪らなかったんだね」 「や……あ……っ」 下も脱がされて暴かれた性器を握り込まれ、期待していた快感を得られた身体が悦ぶ。 「あ……ああっ………」 性器にはローションを垂らされてねちっこく扱かれ、乳首は舐められこねられて、絶頂しそうになる。けどその度に寸止めをくらう。それを何度も何度も繰り返される内に、性器じゃない別の部分が疼き出して……。 「愛由、ここだけじゃ物足りないんじゃない?」 「そんな……ちが………っ」 後ろの穴の入り口を、天城の指がつつく。その刺激だけで期待に高まった身体はビクビク震えた。 「ウソつき。愛由のここの穴、ひくひくしてるじゃないか」 言われる通りだ。そこが無意識に蠢いて、天城の指を誘う様に収縮を繰り返している。 「や……だ、とまん、な……っ」 「欲しいんでしょ?」 ああ。奥が。身体の奥が切ない。 「ここにぶっといのぶちこまれて、滅茶苦茶に掻き回されたいんでしょ?」 天城の囁きが甘い。そうされる事を想像するだけで、絶頂しそうな程に昂る。苦しい。イキたい………。 「愛由のここ、いっぱい涎垂らしてイヤらしいなあ。欲しいって認めたら?ちゃんとくださいって言わないと、ずっとあげないよ?」 欲しい……。満たされたい……。満たされて、疼いてる所いっぱい突かれて気持ちよくなりたい………。 「くだ、さい……、うしろに……いっぱい………」 「うん?欲しいの?何が欲しい?指?」 違う。もう指なんかじゃ足りない。もっと太くて大きいの………。 「ちが、う。アレ……が………」 「アレ?アレじゃわかんないなあ。愛由はここに何をぶちこまれたいの?」 「………宗ちゃんの、………が欲しい……っ」 「やらしいなあ、愛由。仕方ないからあげるよ。これだけエロくなってれば、もう………いらないね……」 「あ……あ……」 望み通りに組み敷かれ、入ってきた大きな質量が気持ちよすぎて、天城の腰が進む度に性器から精液が飛び出た。 「だらしないなあ愛由。もうイってるの?そんなに俺のちんちんが欲しかった?」 「あ……ああ……っ、ち……が………ッ」 「こんなにしてるのに、どこが違うの?」 違う。したくなんかなかった。でも、この身体の反応は、天城の言う通りとしか……。 「俺といるとすぐエッチな気持ちになっちゃうのはね、愛由が俺の事好きだからなんだよ」 違う。俺は天城が怖い。ただただ怖いだけ。なのに………。 「あ、ああっ………い、く……ッ」 「ほーらまたイった。身体は素直だねえ、愛由。1週間前までは毎日沢山してたのに、こんなにお預け食わせてごめんね。これからは、また毎日沢山してあげるよ。まず今日は1週間溜めてた分、いっぱい出しあっこしようね………」 あんな毎日、俺は望んではいなかったのに……………。 * 「出しあっこ」の言葉の通り、何度イッたか分からないくらいイかされて、中にも何回出されたか分からない。身体の中も外も白いものでドロドロになって、ようやくセックスが終わった。 「愛由、今日は気を失わなかったね」 隣に寝そべる宗ちゃんが俺の髪に指を通しながら言う。 言われてみれば確かにそうだった。これまではお粥を食べて少し動けるようになったらすぐ激しいセックスをして、でも少ししか食べてないからすぐ体力が空っぽになって意識をなくしていたんだ。 でも………その方が楽だった。だって今日はこれまで以上に激しかったし、体位も何度も変わって責められて、一体いつになったら終わるんだろうって何度も思った。それに、与えられる快楽に悦ぶ身体とは裏腹に、気持ちの面ではずっと、ずっと嫌だった。 あの頃は頭もボーッとしてたから、色んな事考えずに済んでよかった。あの頃の空腹感も辛かったけど、今も苦しい。 「愛してるよ、愛由」 「………俺も……」 心を殺して応えなきゃいけないのが苦しい。何でこうなった……。 俺、どうすればここから抜け出せるのかな……。

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