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ドキドキライフ

今更だけど、及川と一緒に寝起きする生活は、ドキドキの連続だ。それもこれも、及川の女より綺麗な容姿のせいだというのに、そのお陰で男二人で生活している割にむさ苦しさが微塵もない。寧ろ、ソファで眠る及川を朝眺める度に、「あれ、ここ何処のお城だっけ?」って気にさせられる。合皮張りの安いソファが、突然高級品に見えて、それどころかリビング全体に優雅な雰囲気が流れる。本当に綺麗な奴って、場所を選ばないんだなあと感心しつつ、可愛い寝顔を眺める事は忘れない。 俺達は1日おきに寝床をベッドとソファで交換している。及川はずっとソファでいいって物凄く遠慮していたけど、俺がそれで押し通した。ソファで毎日寝るんじゃあ疲れが取れないだろうし、及川にはできるだけ快適に過ごして貰いたいから。 そう言えば及川が家を追い出される前に元々使ってた布団とか荷物の行方が気になっていたけど、及川が言うには全部捨てられたらしい。家賃格安の裏には、そんな横暴な大家がいた様だ。よく考えれば普通家賃1ヶ月滞納くらいで追い出されたりしなさそうな物だが、及川はつくづく運がない。 「……んー……。………はよ………」 及川が起きる直前、身動ぎし出したら、俺はすかさず視線を逸らすから、寝起き直後の及川に「何見てんだよ」と冷たい視線を向けられる様なヘマはしない。けど、寝てる姿も可愛いけど、寝起きのものすっごい無防備な及川の姿は可愛い過ぎて、舌ったらずのおはようも、眠そうに目を擦る仕草ももう可愛いくて、その思いの丈を、俺はついつい口にしてしまう。 「………バカじゃねーの」 今日も頂きました、及川のツン。 でも、「うーん」と伸びをしながら言われても可愛いだけだし、俺の貸してる部屋着のTシャツがブカブカなのもツボ抑えてるし、寝癖ついてるし、また目擦ってるし可愛いし。 口に出すのはなるだけ我慢してるけど、つい言ってしまうのだ。「お前ほんっと可愛いな」って。 まだソファの上でボーッとしてる及川の、ピョンと立った寝癖が気になって手を伸ばして押さえつけてみる。及川の髪の毛は柔らかいのにハリがあって絡みにくくてサラサラで、一言で言うなら素晴らしい。手を離したらまたピョンと立ったから、今度は手櫛をかけてみる。 ここまで及川は大人しくされるがままだ。まだ目覚めきっていないせいもあるけど、そもそもこんなに触られてんのにまだ眠いって時点で俺に触られるのを何とも思わないくらい俺に心を許している証拠だ。 「まじヤバイなー、お前」 こうして一緒に住む前までは、及川が可愛い事もヤバイ事も、口に出してなるものかって思ってたけど、一度言ってしまったら、もう認めようって思った。 だって及川は可愛い。ヤバイ。女じゃないし、大切な友達だけど、女より可愛いんじゃ、仕方ない。けど、大切な友達だから、「可愛い」って言うだけ。スキンシップも、変な意味は込めない。これは堅く心に決めている。だからこそ、可愛いって思いを口に出して、俺はフラストレーションを発散させてるのかもしれない。 それに、その後に貰う及川からの呆れた台詞や態度も、俺にはちょっとしたご褒美なのだ。いや、今更本気でキモがられてたら俺だって傷付くけど、意外や意外、及川はその辺調度いいツン具合で柔軟に対応してくれる。 最近の及川は弱り過ぎててしおらしい事が多いから、ちょっとくらい猫っぽい感じが見たいってのもある。及川には、俺の前であまり萎縮しないでいつも通り自由気儘でいて欲しいのだ。 そして、及川はヤバ可愛いだけに留まらない。 今年は例年になく猛暑だ。クーラーをつけていたとしても、風呂上がりなんかは汗が吹き出る程暑い。だから、理解はできる。服を着たくない気持ちは。 「あっちぃ……」 朝のシャワーを浴びてきた及川が、手で顔を扇ぎながら脱衣所から出てきた。上半身剥き出しのまま。 実際俺も、結構な確率でそんな格好でウロウロしてしまうけど、及川、お前はダメだろ。こいつは、自分が大抵の女子より綺麗で可愛いって事を自覚しているんだろうか………いや、絶対にしてない………。 しかも、相変わらずパーソナルスペースが機能していない及川は、ソファに座って必死に及川を見ないように努力してた俺のすぐ隣に座ってガシガシ頭を拭いている。 いや、確かにここが一番テレビ見やすいし、クーラーの風も当たって快適だけどさ。 おいお前、誘ってんのか?ってたまに聞いてみたくなる事があるけど、聞くまでもなく及川に限ってそれは無いだろう。俺に対する恥じらいとか皆無だし、やっぱり色気があるのに全然ないし。 何はともあれ、そんな感じで朝から無自覚にエロくて可愛い及川に悩殺されて始まる一日は、ドキドキするけど充実している。 あんまり露出されたり傍に寄られ過ぎると半端なく緊張して困るけど、普段の姿はまあ控え目に言っても見ているだけで目の保養になる。ずっと見てられるってこういう事だなって思う。よく、美人は3日で飽きるとか言われてるけど、全然だ。見る度にその造形の美しさに感心させられてるんだから。 今やバイト先も一緒だし、及川が慣れるまではシフトも同じにして貰ってるから、朝から晩までずっと一緒って事もザラだ。けど、全然苦じゃない。 サークルの仲間とか友達とか彼女からは、最近付き合い悪いって文句を言われるけど、仕方ねーじゃんって思う。だって及川といる方を、俺の本心が求めてるんだから。

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