昨日まで2人で5連勤してたから、今日は久々の休みだ。しかも、明日は店の定休日だから、2連休。 及川は、俺がたまたま持ってた古いノートパソコンでレポートを書いたり、漫画を読んだりして過ごしていた。俺は、そんな及川を横目にレポートしたり、テレビ見たり、まったりのんびり過ごした。 夕食後には、及川誘ってテレビに繋がってる据置型ゲーム機で一緒に対戦ゲームをした。及川はあまり上手くなくて、すぐに負ける。それが悔しかったのか、「ちょっとひとりでやらせろ」って熱心にコンピューターと対戦する姿が妙に可愛くて、微笑ましく見守っていた時、珍しく及川のスマホが鳴った。 ちょっと上達した及川が、コンピューターをやっつけてからそれを確認して、「由信だ」って呟いた。 俺は思った。よっしー、今更何の用だ。及川の事、見捨てた癖にって。 「よっしー、何だって？」 俺はそんな気持ちを隠して及川に尋ねる。 「………寂しい………会いたい………だって」 及川は眉を寄せて言った。 俺は、よっしーつくづく身勝手だなって思ってしまう。自分で美咲さんを選んでおいて、及川振り回すなよって。 及川はすぐに返信をしている様だ。その表情は、「由信、辛い思いさせてごめん」って所か。及川は全然悪くねーのに。 「あのさ……由信、ここに呼んだらだめか………？」 暫くのやり取りの後、及川が言いにくそうに口を開いた。俺は、「由信の所に戻る」って言われるんじゃねーかなと最悪の自体を想定していたから、及川の言った内容を理解するのにほんの少し時間がかかった。 「やっぱだめか………」 必然的に黙ってしまった俺は、渋っている様に見えたのだろう。及川は下を向いた。 「いや、いーぜ別に。呼べよ」 言うと、及川の表情がぱーっと晴れた。よっしーの期待に応えるのが、そんなに嬉しいのかよ。ちょっと虚しい気持ちになったのを隠して、地下鉄の駅まで迎えに行く段取りまですると、及川はまた嬉しそうに「ありがとう」と言った。あーあ、俺も及川の事言えねーな。及川の喜ぶ顔が見たくて、本心隠してよっしーの事受け入れようとしてんだからさ……。 ＊ よっしーからの突然ごめんねとかの挨拶は、地下鉄から家までの間で聞いた。ついでに、手土産も貰った。及川の好物のアイスだ。これには俺もよっしーよくやったと思った。金欠で甘いものも全然食べてないから、及川はきっと喜ぶ。 「あゆ君……」 家で待つ及川の顔を見た途端、よっしーの声色は甘えたような、泣きそうなものに変わった。 「由信、元気だ……」 「あゆ君っ！」 気丈に応対しようとしていた及川に、よっしーが駆け寄って抱きついた。泣きそうってか、完全にもう泣いてる声で、何度も「ごめんね」と謝っている。 「由信は悪くねえから………」 初めはびっくりしていた及川も、泣きじゃくるよっしーの頭を宥めるように撫でて優しく呟く。 ………やっぱこいつら相思相愛……ってげんなりしたから、俺は然り気無くよっしーを及川から引き剥がしにかかる。 「よしよし、もう大丈夫だって。この通り及川は全然怒ってねーし。な、中入ろーぜ」 玄関先で抱き合うなっての。 無理矢理二人を引き剥がして中に入らせると、よっしーも我に返って少し恥ずかしくなったのか、涙を拭いてちょこんとローテーブルの前に座った。 「これ、よっしーからお土産。溶ける前に食おーぜ」 箱を開くとポーションアイスが3つ入っていた。マシュマロとチョコのやつに、ナッツのやつに、パチパチ………って、全部及川の好きな奴じゃん。 「土佐から選んで」 一応家主の俺宛の土産ってことになってるけど、多分よっしー、及川の事ばっか考えながら選んだな………。 「んじゃー俺これ」 俺がナッツのを選んだら、次に勧められた及川は少し考えてからマシュマロとチョコの奴を取った。多分、よっしーがパチパチ好きなのを知ってるから。 3人で暫く無言でアイスを食べる。 「………あゆ君、どう？」 「ん……美味しいよ」 思ったより及川の反応が薄くて、よっしーは些か残念そうだ。俺も。まーでもアイスに罪はない。フツーに旨いし。 「由信、何かあった？……美咲さんと喧嘩したとか……？」 淡々とアイスを食べ進めながら及川が尋ねる。及川は、泣き出すまでしたよっしーの事が心配で、アイスどころでない気持ちなのかもしれない。うん、きっとそうだ。優しい及川らしい。 「……ううん、みさちゃんとは、凄くうまくいってるよ」 「そっか、よかった……」 「でも、やっぱりあゆ君に会えないのは寂しくて……」 「……俺は、由信と会わないなんて言わないけど………美咲さんに怒られるんじゃねえの……？」 「うん………。でも今日、みさちゃん地方に出張してるから……」 ん……？………っておいおいちょっと待てよっしー。 「みさちゃんに内緒でなら、会えるなって思って………」 オイ！ 「………由信がそれでいいなら、俺はいいけど………」 まじか……。及川、そんな愛人みたいな扱いでいいのかよ………。 てかよっしー失礼過ぎる。それ、美咲さんのことも及川の事も裏切ることになるってわかってんのかよ………。 俺は心の中で思うことは山程あったけど、敢えて口には出さなかった。 及川とよっしーの間には互いに特別な思いがあるって事を知っているから。悲しいかな、そこに俺の入る隙はなくて、俺が何を言っても無駄なのだ。