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愛の鞭 1
ぎこちなく歩く愛由を乱暴に車に押し込み、苛立ちのままに赤い頬をぶった。
「勝手な事を!」
「ごめ、なさい………」
愛由は俯いたままぶるぶる震えている。その怯えた姿にも腹が立って、もう一発ビンタする。
「土佐に何を言おうとした!」
「た、だ………」
「なんだ!」
「ただ、ありがとう、って………」
下らない事を……!
「許可なく口を開くなと言っただろ!!」
生意気に防御するつもりなのか顔の前で交差させた腕を叩き落とすようにしてどかして、また一発。返す手の甲でもう一発。
「ごめんなさい……っ」
愛由は声を上擦らせた。ぽろぽろ涙を流して、震えながら縮こまっている。元々紅潮していた頬は、叩かれた事で更に赤みが増して、些か腫れ上がっている様にも見える。
「誰のせいだ!!!」
俺に怯える愛由にも、殴った事実にも無性に苛立って、愛由の頭のすぐ上にあるヘッドレストを力任せに殴り付けた。「ひっ……」という息を飲む様な怯えた声がまた癪に触る。
「一体誰のせいで!!!」
「ごめんなさいっ……ごめんなさい……っ」
何度も何度もそこを殴っていると、ふっと激情が収まる瞬間があって、殴りながらも徐々に冷静さを取り戻していく。
そうしてすーっと熱が冷めて少し落ち着いたら、ただブルブル震えることしかできない愛由が哀れで、その無力な様に愛しさを覚えた。
「愛由………」
腕を伸ばすと、愛由の肩が大袈裟に跳ねる。また両腕で顔を覆って隠しているから、その腕を掴んで下ろす。ぎゅっと目を瞑って俯く愛由に優しく囁く。
「愛由、好きだよ」
優しく言ったのになぜかビクッとした愛由が、恐る恐る目を開ける。
「怖かった?けど、誰が悪いの?」
「………お、れ………」
「そうだよね。愛由が俺がするなってことしたんだから。殴られて当然でしょ?」
「…………う、ん………」
「俺がやってるのはね、親が子供を怒るのと一緒だよ。愛してるから、悪いことを正したくて怒るんだよ。あ、でもこういう例えは愛由に言っても分からないか。ともかく、俺がしてるのは愛の鞭なんだ。愛由の事好きだから、愛してるから、愛由の為を思って殴るんだよ。分かる?」
「………わ、かる………」
「本当?じゃあ、俺の事、好き?」
「…………………すき………」
「痛いの嫌だって言って、逃げたりしない?」
「…………しな、い………」
「よしよし。いい子いい子………」
言いながら頭の後ろに添えた手を引き寄せて抱き締めると、愛由はようやく力を抜いた。まだ小刻みに肩が震えているから、何度も頭を撫でる。
その内に肩の震えは止まって、でもそのせいで吐息の熱さと、居心地が悪そうに下半身をもじもじさせているのが目立つ。
可愛らしくてイタズラ心が芽生え、右手をポケットに突っ込む。リモコンのつまみを二つ右に回すと、面白い様に愛由の腰が揺れた。
「あれ?どうしたの?」
分かっているのにわざとらしく言えば、愛由が眉を寄せて俺を見た。
「宗、ちゃん……おねがい………」
「ん?なあに?」
「おねがい………も、………抜いて………」
愛由は瞳を潤ませ声を震わせた。
愛由の後ろの穴には、遠隔操作機能付きのローターが入っている。土佐の家に向かう前から仕込んであったもので、さっき土佐の前でも、ポケットの中でこれを強弱して愛由をコントロールしていた。土佐にバレてはいけないと必死に声を押し殺す様は非常に扇情的で、ずっと、早くこうしてじっくりいたぶってやりたいと思っていたのだ。
「まだだよ」
「ぁああ……っ」
バイブレーションを一気に最強にまで上げたら、愛由が苦しそうに前屈みになった。
「土佐に触られたりして、悪い子だったろ?これはその分のお仕置き」
「は、………ごめんな、さい……っ」
「ゆるさない」
「ん、ぅ……っ」
快感はあるけど、イクには最後の一押しの足りない絶妙な刺激。このローター責めを、愛由はずっと受け続けている。叩かれ震えている時でさえ、弱いバイブレーションはずっと動作していた。けど、まだまだこんなんじゃ全然虐め足りない。
バイブを最強にした為か、耳を澄ませるとウィーンという微かな虫の羽音の様な音が聞こえてくる。愛由の耳にもそれは届いているだろう。
「土佐にも聞かれちゃったんじゃない、この音。愛由がこんなことされて悦んでる変態だって事、バレちゃったかもね。顔が赤いのは、バレてたみたいだし」
言うと、愛由は懇願するように俺を見上げてきた。俺に何を願ってもどうしようもないのに。
「前だってよく見れば膨らんじゃってるし、歩き方もぎこちなかったしねえ。まあでもどっちにしたって、土佐には俺達の仲知られちゃったし、こーゆう変態エッチしてる事だってバレバレか」
思わせぶりに言うと、愛由はまた涙目になった。
ここに来るまでの間繰り返しずっとセックスをしてたのに、敢えてシャワーは浴びさせていない。その思惑は正解で、愛由は土佐にその情交の匂いがバレる事を恐れていた。土佐を遠ざけようと自分の意思で逃げる愛由を目の当たりにして落ち込む土佐の顔は見物だった……。
土佐は男の刺客にはピクリとも反応しなかったからゲイではない筈だけど、長い間愛由の傍にいて、ひとつ屋根の下で一緒に寝起きする生活まで送っておいて愛由に少しも惹かれない男はそういない。
案の定あいつはずっと愛由を取られたくないって顔をしていたし、嫌がらせを自分がやめさせると宣った時は思わず我慢できずに笑ってしまった。お前ごときが俺に勝てると思っているのかと。お前も潰すぞ舐めるなよ、と。
………まあ流石にそれは自分が主犯だと暴露する様なものだから言わないけど、それでもあれだけ牽制すれば悟っただろう。愛由は完全に俺の物で、全てに於いて勝ち目はゼロだって事を。
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