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『愛してる』 2

革紐を首輪からぶら下げながら夕食を食べて、その後は宗ちゃんと二人でお風呂に入る。 この時は一日の中で唯一首輪ごと外して貰える瞬間だから、俺は取り分けこの時間が好きだ。 「愛由の裸、綺麗でエロいから、いつも勃っちゃうよ」 宗ちゃんが俺の身体を手のひらで優しく洗いながらクスリと笑う。背中を洗い終えたからクルリと回転して宗ちゃんと向き合うと、いつもの様に宗ちゃんのは半勃ちになっている。 「口でする……?」 お風呂で奉仕を要求される事も多い。今日もそれを求めているのだろうかと思って聞いたら、宗ちゃんはくすっと笑った。 「さっき抜いて貰ったから大丈夫。お風呂上がったらいっぱいエッチしよ」 宗ちゃんの表情はいつもよりも優しく見える。 帰ってきてすぐに奉仕を命じられる時は、仕事が忙しかったり、疲れていたり、ともかく何か嫌なことや気分の悪いことがあってあまり機嫌がよくない日が多いけど、今日は違うみたいだ。違うどころか、特別機嫌がよさそうだ。 「ねえ宗ちゃん、今度は俺が洗う」 俺は泡のついた身体を宗ちゃんに擦り付けた。宗ちゃんはいつもこうさせたがるから。身体全体に泡がついたら、今度は手を使って丁寧に。お尻の割れ目も、もう半勃ちどころじゃなく主張してる前も、優しく洗う。愛撫するかしないかの絶妙な力加減で、焦らす様に。 前を洗いながら、宗ちゃんの表情を確認する。今日もこれでいいのか、それとも別のやり方がいいのか、探るため。 宗ちゃんは口許に笑みを浮かべて満足気に俺を見下ろしている。 ほっとして、今度は膝をついて足を洗う。一本ずつ丁寧に足先まで洗ったら、宗ちゃんがバスタブに腰かけたから足の裏側に泡をつけようとした。 「待って。足の指は、愛由に舐めて綺麗にして貰おうかな」 ………え。 これは、初めてされる要求だった。まだ洗ってもない足を舐めるのは――――。 ………本当は躊躇した。けど、それを宗ちゃんに悟られる前に、俺は宗ちゃんの足の親指を口に含んだ。 濃縮した汗の臭いが口から鼻に抜けて気持ち悪かったけど、恐る恐る舌を伸ばした。微かにしょっぱい味がする………。 けど、これより酷いもの………例えば洗ってないおじさんのお尻の穴とかも舐めさせられた事がある。それに比べればこんなの全然マシだ。そう言い聞かせて、丁寧に舌を這わせる。 左右10本の指全部をしゃぶって綺麗にしてから宗ちゃんを見上げると、宗ちゃんは機嫌良さそうに笑っていて、「良くできました」と頭を撫でられた。 宗ちゃんがバスタブから腰を上げたから、俺も立ち上がる。 自然に見つめあった延長で、宗ちゃんがキスをしようと顔を近づけてきたから、俺は目を瞑った。 ………けど、間が長い。唇が落ちてこない。 不思議に思って目を開けると、宗ちゃんが至近距離で苦笑していた。俺は首を傾げる。 「ごめんごめん。さっき足の指舐めさせたばっかだから、気になっちゃって。口濯いで」 宗ちゃんは悪気なくそう言って、シャワーを手渡してきた。 宗ちゃんがやらせた癖に。汚いって自分でも思うのに、宗ちゃんは俺にそれをやらせるんだ………。 俺は言われた通り口を濯ぎながら、でも胸の内ではモヤモヤしたものが渦巻いていた。勿論、それを表に出すことなんてできないけれど、こういう時にふと我に返るというか、実感するのだ。俺の「愛してる」は所詮フリで、心に嘘をつかせようと必死になっているだけなんだって。 「もういいよ。キスさせて」 言われてシャワーを外して宗ちゃんに顔を向けた。なんて勝手なんだろうって思いながらキスを受け入れて、口の中も舌も蹂躙されるがままに明け渡す。 「愛由、俺の事、好き?」 今、我に返った所でそれを聞かれるのは辛い。辛いけど、やっぱり俺は自分の為に心を偽る。その度に胸が痛もうと、見て見ぬふりをして。 「好きだよ、宗ちゃん」 「その言葉、信じていい?」 「うん」 「前も言ったけど、次裏切ったら殺すからね」 サラッと。ただの会話の延長みたいに言われた。けど、当然冗談で言ってる訳じゃなく、本気だって事は怖いくらい真剣な宗ちゃんの目を見ればわかる。 「………うん」 宗ちゃんは、お風呂から上がっても俺に首輪をつけなかった。俺の「愛してる」は漸く信用して貰えたのだ…………。 けど、物理的に繋がれる物がなくなっても、結局八方塞がりな事には変わらない。心を殺して宗ちゃんを愛するか、宗ちゃんを拒絶して死を選ぶか。 希望があるとしたなら、たったひとつ。宗ちゃんが心変わりする事。可能性がないとは思わないけど、俺にはどうすることもできない。

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