最近では、俺の生きている意味も、存在理由も、全部宗ちゃんだなあと思う。 一度隙を見て教えて貰ったが、由信の新しい友人は美咲さんの知り合いらしく、LINEもどうやら美咲さんに共有されていて、俺と接触しない様に厳重に見張られている様だ。 だから、由信とは殆ど話ができない。連絡も取れない。けど、それでよかったのかなと思う。由信の友人がどんな人間なのか、由信にきつく当たったりしないかとか、気にならない訳ではないけれど、由信を裏切ってしまった俺といるよりは遥かにマシなんだろうと思うし、俺にはそんな風に心配する資格もないのかもしれない。 今のところ不登校にならず大学にも毎日通えているんだから、悪い友人ではないのだろうと信じている。虐められる事もなく、友人もできて、大好きな彼女もいる。もう、俺は必要ないのかもしれない………。 土佐とは、たまに喋る。けどその内容は…………。 全然喋らないなら、寧ろその方がよかったのかもしれない。 土佐は時折俺の元にやってきては、毎晩つけられるキスマークを嫌な顔で咎め、忌々しいと言いたげな目で俺を見て、そして「ムカつく」と言ってくる。 そう言われる度に、俺は死ねと言われているくらいの気持ちになって、息が出来なくなる。 俺はいつからこんなに弱くなったのだろうと思う。「ムカつく」なんて言われ慣れていたし、「死ね」だって何度も言われた事がある。違うのは、どうでもいい相手からの暴言なのか、それとも自分が心を許して、好きだった相手からのそれなのかということ。 たったそれだけの違いなのに、こんなにも胸に刺さるなんて知らなかった。これまでの人生で、俺には大切な人がいなかったから。由信と土佐が、唯一の存在だったから。 今の俺には、宗ちゃんがいる。 毎日ご飯を食べさせてくれて、いい家に住まわせてくれて、服も買ってくれて、愛してると言ってくれる。 特殊なプレイを伴うセックスは気が重いし、束縛されて自由がないのも息苦しいけど、でも、宗ちゃんには優しい所も沢山ある。いい所も沢山ある。 時に殴られたり、物を投げつけられたりするのは、俺が悪いから。俺が、宗ちゃんの言いつけを守れなかったり、宗ちゃんの期待に応えられなかったりするせいだ。 だから、毎日毎日反省してる。次は殴られない様な返事をしよう。行動をしよう。そう思ってるのに、ダメな俺はすぐにミスをする。宗ちゃんを怒らせてしまう。怒らせるなって怒られる。お前が怒らせるから、殴りたくなくても殴るんだと。 最近、前に使われてた鞭をちらつかせて俺を脅す事がある。「次怒らせたらこれだぞ」って。 俺は、ビンタされるだけで充分怖くて、これでも精一杯宗ちゃんに尽くして、毎日反省しているのに。いくらお仕置きを追加されたって、これ以上にはなれないのに………。 大学では、講義と講義の間に空き時間があったら、ラウンジの壁沿いのカウンターで勉強したり課題をしたりして過ごす事にしている。今日は端っこの席が空いていて、ラッキーだった。 前は隣に由信がいたのに、今はいない。完全に一人。もっともっと前までは、一人でいることが当たり前だったのに、寂しく感じてしまうのも、誰かといることの温もりを知ってしまったせい。何も知らなくて、何も持っていなかったあの頃に戻れば、こんなの全然辛いことじゃないのに………。 ため息が出そうになって、振りきるように机の上にテキストとノートを広げた。何を考えても楽しい事なんてひとつもない。だから、ただ無心に英文を書き写した。何も考えたくなかった。