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心の涙 2

ぺら…………。 紙を捲る音がする。 気づけば俺はカウンターに頬……どころか上半身を預けていた。 いつの間にか寝ていたらしい。 まだ眠い。毎晩毎晩、寝不足なのだ。あー、やっぱり眠い………。講義までまだ時間ありそうだし、また眠ってしまおうか…………。 ぺら…………。 微睡んでいたら、ページを捲る音がまた聞こえた。この近さは多分すぐ隣から。よっぽど混んでなきゃ、すぐ隣に座ってくる奴なんていないのに、混んでんのかな………。にしては騒がしくないけど………。 考え出したら、目が冴えてしまって二度寝できそうになくなってきた。折角気持ちよく寝ていたというのに。少し恨めしくなって頭を上げて隣を見た。 え―――――。 身体を起こしたと同時に、肩からパサッと何かが落ちた。それと、隣にいたのが土佐だって事に気付いたのが同時だった。 俺の心音は一気に高まった。 土佐は、会う度俺にムカつくと言ってくるから、最早条件反射の様に息苦しくなってきてしまって、落ち着こうと胸を押さえる。 「おはよ。よく寝てたな」 土佐は、俺が床に落としてしまった上着を拾いながら言った。最近は蔑んだ目しか向けられてなかったけど、今の土佐は、俺のよく知っていた優しい目をしている。もしかしたらこれはまだ夢の続きなのかもしれない。若しくは幻とか……。 「なに、寝ぼけてんの?」 目をゴシゴシ擦っていたら、土佐がクスッと笑った。バカにしている感じでもなく、優しい雰囲気で。 けど、土佐が口を開く度に胸がぎゅっと苦しくなる。いつ暴言が来るのかと思うと怖い。 「どーした?」 息が、苦しい。 というか、無駄に優しくしないで欲しい、それから落とされるなんてことされたら、俺本当に、心臓止まる。 「むか……つく、なら………」 それならそうと早く言って欲しい。そうして、いつもみたく俺の顔もろくに見ないであっちに行けばいい。 それなのに、何で、寝てる俺の隣にいたんだよ。何でこんな普通に話しかけてくるんだよ………。 「…………ごめん」 小さな声がした。 「なかった事になんかできねーよな。そんなの卑怯だよな。俺、及川にいっぱい酷いこと言ったのに………」 土佐は顔を俯けてぼそぼそ言った。 そんな土佐の姿は珍しいと思った。土佐はいつも元気で能天気でハキハキしてて。でも、俺にムカつくと吐き捨てる土佐も、俺のよく知ってる土佐とは別人だったけど。前回言われたのは、先週だった。あれから1週間も経ってないのに、あれだけ繰り返し言ってたのに、それをなかった事にしたいって、どういう………。 「嘘だった……?」 嘘ならいいと思った。土佐が俺にムカついてるのも、何なら俺が宗ちゃんに囚われてるのも。 「………悪い、嘘じゃない」 土佐は俺の首元を見て嫌そうな顔をした。いつもムカつくって言うときと同じ顔。 それに気付いた途端、喉がヒューヒューし出して、また息が吐けなくなった。 「及川……?」 土佐が顔を覗きこんで来る。 やめろ。見るな。そんな目で。俺の事軽蔑しているくせに、優しい振りなんかするな。 「ムカつくんだろ!俺の事、嫌いなんだろ!なら、話しかけなきゃいいじゃないか!もう俺に構うなよ!」 このままじゃ息が詰まりそうで、言葉と共に息を吐き出す。……本心じゃない、言葉を。 「及川、お前………」 けど、強がるしかないじゃないか。傷ついてるって宣言したって、嫌わないでってすがったって、そんなの惨め以外の何物でもない。必死に愛して欲しいって言っても、母親すらその願いを聞いてくれなかった。それなのに、他人に聞いて貰える筈ない。大事にして貰える筈ない。俺には、そんな価値ない。 「泣いてる………」 「え………」 手を引かれた。何がなんだか分からない。俺は土佐にあっち行けって言ったのに。強がったせいで、もう本当に終わる筈だったのに。 土佐は、俺の手を引いてずんずん歩く。もう片方の手には、さっき俺の肩にかけてくれてた半袖のパーカーと、いつの間にやら、俺のリュックも一緒に持っている。 「やっぱここ誰もいねーな」 土佐に連れてこられたのは、今は殆ど使われていない旧校舎の空き教室だった。 土佐がどういうつもりなのか分からなくて、俺は戸惑った。こんな人気のない所に連れてきて、生意気だってボコるつもりか。けど、すぐに思った。土佐はそんなことする奴じゃない………。

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