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地下室 1
宗ちゃんの帰りをいつも通り裸同然の部屋着で出迎えた俺を、「ただいま」も言わず宗ちゃんはビンタした。
「土佐と何してた!」
「なんの、こと………」
「俺を舐めるなよ!全部知ってるからな!」
久しぶりに拳で殴られて、気付いたら床に薙ぎ倒されていた。その身体を、容赦なく蹴りあげられる。鳩尾に入ったそれで、息が止まる。それでもお構いなしの宗ちゃんにげしげし蹴られる。口の中に血の味が広がってるのは、顔を殴られた時にどこか切れたのだろう。内蔵の損傷ではない筈だ。
本気の蹴りは1発のみで、あとは足蹴にして楽しんでいる様な蹴りかただったから、現実逃避と防衛を兼ねて考える。
岩崎は、どこから見ていたのかと。まさか、抱き締められたのとか、キスしそうだったのも見られたのだろうか………。いや、それだったら、俺今頃ナイフで刺されてると思うから、ただあの教室で会ってるのを見られただけだ。そう、思いたい。
「ごめんなさい……ただ、話してただけで……」
「嘘をつくな!密室で二人きりで………告白でもされてたんだろう!」
告白……?何でそんな事……?
でも、そんな事言うって事は抱き締められたのとかは、見られてなかったってこと。
「誤解、される様な事してごめんなさい……。けど、本当に話をしてただけで………」
「あーむしゃくしゃする!」
宗ちゃんは苛立ち任せに自分の鞄を蹴り飛ばして、俺の髪を鷲掴みにした。無理矢理頭を持ち上げられて、膝をつく。
「愛由は誰のもの?」
「……宗ちゃん、の」
「誰を愛してるの?」
「……宗ちゃん」
「他の男に色目を使ったな」
「そん……なんじゃ………」
「話しかけられるっていうのは、そういう事だ!」
「ちがう……友達、だから………」
「黙れ!言い訳なんか聞きたくない!」
宗ちゃんは大声で俺を黙らせると、徐に下半身を露出した。「しゃぶれ」と命令されて口を開けると、既に猛っていたものを一気に喉の奥まで突っ込まれた。苦しくて嗚咽しそうになるのも許されず、またすぐに喉奥を突かれる。髪を掴まれ頭を固定された状態で宗ちゃんが好き勝手に腰を振る。苦しくて苦しくて思わず手を突っ張ったら一度口は解放されたけど、すぐにビンタが飛んできた。「抵抗するな」と付け加えられて、また口の中を使われる。噎せる度にそれを押し戻す様に喉を突かれ、涎がダラダラ垂れて顎を伝い、涙も出てきて、顔も身体もグズグズになりながら終わりの時が来るのを待つ。
漸く放たれた精液を、いつもは言われなくても飲み込むのに、今日は出来なかった。喉が勝手に出す反射をして、咳き込んで、嗚咽して、唾液と共に床にぶちまける。
「愛が足りないなあ……」
「ごめ、なさ、い……」
ケホケホとまだ噎せながらも辛うじて言ったら、また髪の毛を掴まれ、床の方に押される。すぐ目の前には、俺が溢した精液がある。まさか……。
「舐めて綺麗にしなさい」
そんな………。
「俺を愛してるのならできるだろ?」
グッと更に顔を近づけられると、ムッとした臭いが鼻をついた。これを舐めるなんて、とても出来ない………。
「宗ちゃん、ゆるして………。あいしてるよ。俺は宗ちゃんだけのだから………」
「どうやら反省が足りない様だな」
こっちへ来いと腕を捕まれ立たされると、リビングと反対方向に向かう。この先にあるのは重厚な扉で、そこを開けたら下に向かう階段しかない。地下室に向かう階段。
途中で、メイドのシャーリーンと擦れ違った。
ああ、彼女にも見られていたのかな……。
シャーリーンはわざとらしく目線を逸らしていたけど、宗ちゃんが玄関を掃除しておく様にと英語で言いつけた言葉にはイエスサーと小さく答えた。助けて欲しいのに、シャーリーンは目線を逸らしたまま真っ直ぐ玄関に向かう………。
「宗、ちゃんやだ………怖い………!」
「うるさい!黙ってついて来ないか!」
地下室がどんな場所なのかは入った事がないから分からない。けど、本能的に嫌だった。宗ちゃんが機嫌のいい状態ならいざ知らず、こんなに怒っているのだから………。
またビンタされて、最後の抵抗も虚しく力任せに引っ張られながら重い扉の先の階段を無理矢理下りさせられる。
そこは、暗くて、空気がひんやりとしていて、少し湿っぽい。まるで奈落の底に落とされる様な感じがした。この先はきっと地獄だろうって、それはほぼ確信で、ほぼ当たっていた。
階段を下りた先でもうひとつ重い扉を開くと、埃っぽい冷たい空気が頬を掠めた。
背中を押されて中に押し込められて、まさかとは思ったけど、迷いなく扉を閉められた。途端に、視界が真っ黒く塗り潰された。一筋の光もない、真の闇。
「開けて!宗ちゃん!やだよ!!」
ある種の暗闇恐怖症の俺は、パニックになりながら金属の扉を力任せに叩いて、声の限りに叫んだ。けど、何の物音もしない。応答もない。
いやだ。怖い…………。怖いよ…………!
「ごめんなさい!宗ちゃん、ごめんなさい!何でもするから!お願いここから出して!!!」
唯一そこに存在している事がわかる扉にすがり付く。だって地下室に入ったのは初めてだから、どんな広さなのかもわからないし、扉の他には何があるのかもわからない。こんな事になるのなら、床に吐いてしまった精液を舐めればよかった。何をそんなに嫌がる事があっただろう。犬のように繋がれた記憶も新しいし、足の指を口で清めさせられた事だってある。昨日までの俺なら出来た事が、どうしてできなかったんだ。どうして逆らってしまったんだ………。
『お前気を付けろよ。頭は大事なもんいっぱい詰まってんだからな』
最悪だ。こんな時に土佐に言われた事を思い出してしまうなんて。
思い出した途端、左のこめかみがズキリと痛んだ。昨日痣になった所を今日はグーで殴られたから。腹とか胸とか、他にも痛い所は沢山ある。沢山蹴られて、殴られた。
「ふ……」
漏れ出たのは、乾いた笑い。
大事なもの?どこが?誰にも大事になんてされてないのに、一体どこが大事だっていうんだ。大事なものなんて、俺の身体にはひとつもない。だって俺は、せいぜい宗ちゃんのサンドバッグになるくらいの役目しかないんだから。
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