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信念

「おかえりなさい宗ちゃん」 宗ちゃんの帰宅時間になると、俺は玄関でその帰りを待ち構えていなければならなかった。『愛してる』事を示すため。機嫌良く過ごして貰うために。 俺は、なるべくいつも通りの行動を取った。宗ちゃんに、俺の『愛してる』が真実でないことを悟られない為に。そして、受けるであろうお仕置きを、ほんの少しでも容赦してもらう為に。 「愛由、いい!やっぱりとっても似合うね!」 宗ちゃんは、Alice in wonderlandの格好をしている俺を見て予想外に機嫌よくはしゃいで、そしていきなり俺を横抱きに抱えた。 「宗ちゃん……?」 ぼすっとリビングのソファーに降ろされてそのまま宗ちゃんが俺に覆い被さった。すぐに深いキスが始まる。 視界の端に、チャーリーの姿が見える。相変わらずチャーリーはこっちを見ようとせずに、サッと廊下の方へと姿を消したから、少しほっとした。 「これね、特注で作らせたんだ。安物のグッズじゃあ、綺麗な愛由に似合わないから、生地もいいものを使ってるんだよ。ああ、本当に可愛いね。すぐに脱がすのは勿体ないなぁ……」 宗ちゃんはいたくご機嫌だ。デレデレと口元を緩めて、しきりに俺の頭を可愛い可愛いと撫でる。 「宗ちゃんもアリスインワンダーランドが好きなの?」 「え?ああ、アリス?正直どんな話なのかよく知らないよ。けど、アリスの格好をしている愛由の事はとってもとっても好きだよ」 宗ちゃんはいつになくデレデレとして、本当に愛しそうに俺の頭や身体を撫で回す。 宗ちゃんを到底愛せない事を思い出した俺にとっては苦痛だけど、この程度我慢できなくてどうするって言い聞かせる。だって俺にとってこれは嬉しすぎる誤算だ。土佐と喋った事を岩崎から聞いていないのか。それとも、それに怒る事を忘れる程アリスのコスプレが好きなのか………。 性的なにおいの少ない接触は案の定すぐに終わって、服の上から意図的に胸の突起をつままれる。 「愛由のここ、俺に弄られすぎて女の子みたいになっちゃったね。すぐ勃たせちゃって可愛い……」 「や……」 しつこく刺激されて、そこがエプロンの上からでもわかるくらいツンとしてきて恥ずかしい。 「本当に可愛いなぁ……。ねえ、俺のここも触ってよ……」 宗ちゃんの手に誘導されて、猛った性器を握らされる。もう教えられるでもなく、それを握ったら快感を与えるためにしごかなきゃいけないことは嫌というほど身に付いていて、握らされるそれがたった1本である事に、安心さえしている。 ―――いけない。こんな格好をしているせいで、あの頃の事をいつもよりも思い出してしまう………。 宗ちゃんは俺の服は頑なに脱がせず、ボタンだけを外して服の中に手を侵入させてきた。上も、下も。 「偉いね、ちゃんと下着も履き替えてる」 宗ちゃんが、俺の履いた子供っぽい綿のショーツを撫でさすりながら満足気に言う。この格好もそうだけど、下着まで女物を履かされるのは屈辱でしかない。それでも俺は宗ちゃんに逆らえない……。 「ねえ愛由、髪の毛伸ばそうね」 「え……」 宗ちゃんに言われるまでもなく、髪の毛は既に伸び気味だ。宗ちゃんとこんな風になってから、ずっと自由に使えるお金なんてなかったから、髪を切りにいくことさえできなかったから。 「肩より下まで伸びるには、1年ぐらいかかるかな?」 肩より下……って、それじゃあ格好だけじゃなくて髪型まで本当にあの頃と同じになっちゃうじゃないか…………。 「宗ちゃん、俺、髪は伸ばしたく……」 「駄目」 俺の言葉の途中で発せられた有無を言わせない宗ちゃんの命令に、俺はもう何も言えなくなった。 「愛由なら間違いなく似合うよ。髪の毛も相変わらず綺麗だし、女の子と間違われるくらい可愛くなるだろうね」 そんな風になったら、もう外に出したくないなぁ。そう言いながら、宗ちゃんが俺の手をやんわりとペニスから外させた。それから、顔の前に大きくなったそれを突き付けられる。 もう本当に格好も、やられてることもあの頃と同じだ……。そう思ったら反射的に顔を背けてしまって、しまったと思う隙もないくらいすぐにビンタをされた。 「さっきから何ちょくちょく逆らってんだよ!俺が優しいからって調子に乗るなよ!」 「………ごめんなさい」 「おら、わかったなら早くやれ」 宗ちゃんに叩かれると、怒鳴られると、身体が萎縮する。怖くて怖くて、自分の意志がとてもちっぽけで無意味なものに思えてくる。 だから、今度は躊躇なく宗ちゃんのペニスをくわえた。くわえさせられるのが1本ってだけでも、あの頃より恵まれてる。そんな慰めにもならない事を必死に自分に言い聞かせながら………。 「ねえ愛由。どのチンコが一番美味しい?」 機嫌の戻った宗ちゃんが、俺を見下ろしながらそんなことを聞いてきた。今相手してるのは宗ちゃん一人で、比べる物なんてない筈なのに。 「昔の話だよ。虐待されてた時の。数え切れないくらいおっさんのチンコくわえてたでしょ?」 どうしてその話を今するんだろう。というか、俺はそこまで詳細にあの時の事を宗ちゃんに話しただろうか。 それにしてもタイミングが悪すぎる。さっきからそれを思い出してしまって苦しいのに。それがなくても今日は、宗ちゃんの事愛せないことを思い出して、いつもみたく思い込めなくて辛いのに。 「ねえ、どれ?どのチンコが一番?」 どれもおいしくなんかない。苦しいだけで、気持ち悪いだけで、好きでこうした事なんて一度もないんだから。 俺はあの頃の自分。そして、今もこうするしかない自分の情けなさに泣きそうになりながら、けど、そんな感情もひた隠しにしなきゃいけない。 「そう、ひゃん、の……」 しゃぶりながら答えたら、宗ちゃんが満足そうに笑った。 「そう。俺のが一番美味しいんだ。俺よりも大きいのは、くわえたことない?」 コクコク頷く。 「ほんとう?」 ……本当は、宗ちゃんよりも喉が苦しくなるそれを知っている。あのボコボコしてるペニスのおじさんだ。腰の使い方だって宗ちゃんよりももっと乱暴で、硬いボコボコが喉の奥や舌に当たって本当に苦しかった。 けど、そんなこと宗ちゃんに言うつもりもなく、またコクコクと頷いたら、大きな手で頭を撫でられた。 「まあ元々結構自信あるけど、もっと自信ついちゃったなぁ。俺のがおっきくて愛由の喉じゃ全部収まらないのが少し残念だけど、下のお口には全部くわえて貰えるからいっか。愛由の下のお口の味を知ってるのは、俺だけだしね……」 宗ちゃんが腰を引いたから、俺も口を離す。ああ、きっとこれから、下に………。 宗ちゃんにソファに手をついて四つん這いになる様言われた。いやだいやだと思いながらもその通りにしたら、後ろからスカートを捲られ尻を撫でられて、それが終わったら下着をずらされて、そして………。 「ああ、夢の様だよ。この格好をしている愛由を抱けるなんて……」 宗ちゃんは逆上せた様な声を出して、いつも以上に興奮していた。俺の心は、冷めていく一方なのに……。 * 「あーあ、汚れちゃった。メイドに言いつけて急いで洗わせないとだね」 アリスの服は、主に俺の精液でベトベトに汚れてしまった。こんなのチャーリーに洗わせられない……。 「ほら愛由、早く脱いで」 「え……」 「それ、早く洗わないと明日までに乾かないから」 「でもこんなの……」 「さっさとしろ!」 宗ちゃんは俺に怒鳴ったそのままの苛立った口調でチャーリーを呼びつけた。俺は……もうこれ以上逆らうこともできず、服を脱ぐしかなかった。 「洗って明日までに乾くようにしておけ。今日はもうそれで帰っていい」 宗ちゃんが汚れたアリスの服をチャーリーに持たせた。チャーリーはまた俺とも宗ちゃんとも目を合わせずに、ただ「Yes sir」と返事をして、向こうへ姿を消した。 まだ18才の女の子なのに。児童書を読んで故郷の事を思う、まだいたいけな子なのに、あんなもの洗わされて………。 「愛由、何泣いてるの?」 宗ちゃんに言われて気づいた。俺は泣いている。気づいて、いけないって思ってるのに、次から次に零れてきて止まらない………。 「まさかあのメイドと何かあるんじゃないだろうな」 鋭い宗ちゃんがそう聞いてきたけど、違う。俺はチャーリーに同情しただけじゃない。俺は人のためだけにこんな風に泣ける程、できた人間じゃない。チャーリーの事はただのきっかけだった。 「ごめ、なさい………」 ただ謝ることだけしかできない俺は、宗ちゃんに引っ張られて裸のまま地下室に連れていかれた。 そうして、また吊るされて、結局鞭打たれた。 ああ、折角土佐との事で怒られなかったのに。どうして俺は、感情を抑えられなかったんだろう。 白雪姫の様に、毒リンゴを食べてずっと眠っていたかった。起こされたくなかった。宗ちゃんを好きだと思い込んだままでいたかった。 ―――本当のきっかけは、きっと絵本を見るよりもう少し前だったのかもしれない。 土佐に、謝られて抱き締められたあの日。 あの日、俺の心は毒リンゴを吐き出してほんの少し甦って、視界が少し明るくなって。けど、そのお陰で見たくないものがまた沢山見えてきて、動かしたくない感情がまた揺れる様になって、あんなに叩かれて粉々にされた信念がまた芯を作って、その全てが俺に告げる。 『宗ちゃんを拒絶しろ』って。

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