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デート 4

「……だよな。そんな簡単に別れるとか、無理よな」 及川は答えにくそうに俯いた。この無言も、肯定なのだろう。 「あー……。やっぱ、そんな好き?」 ついつい投げ槍に聞いてしまう。こんな事聞いても、傷つくだけなのに。 「……好きじゃない」 及川は当然の様に言う。そうだよな、好きじゃないよな…………。 ……………ん? …………え?? 今及川、首振った?『好きじゃない』って言った………? 「及川今何て……」 「好きじゃない」 「……え、好きじゃない、の?宗ちゃんの事……?」 及川は、相変わらず視線を下げていたけど、はっきり頷いた。 「え……ちょっと待ってごめん、整理させて」 及川、天城先生の事好きじゃない?あんなにベタ惚れだと思ってたのに、好きじゃない?え、それ本当?いや、本当ならこれ以上ないくらい嬉しいんだけどさ。え、でもじゃあなんで付き合ってんの?別れられないの?好きじゃないなら、束縛も監視も窮屈なだけじゃん。え、何。どゆこと。 「もしかして及川、喧嘩した……とか?」 一時的に、あんな奴大キライ的な?それでも大きなチャンスには違いないけど、諸手挙げて喜んだら突き落とされる。だから、慎重に、慎重に行けよ、俺の感情………。 じっと動向を注視していたら、及川はちょっとしてから俯いたまま黙って首を横に振った。 ええ、喧嘩でもない!ってことは、これって、マジのマジで天城先生のこと嫌いなんじゃねーの。束縛ばっかでうんざりなんだよこのクソヤロウってことなんじゃねーの!? 「え、じゃあ及川、俺と付き合ってくれるの?」 「………はあ?」 及川がようやく顔を上げた。てか、俺何言っちゃってんの。テンパり過ぎ。舞い上がりすぎ。そりゃ「はあ?」って言われるって。 「いや、ゴメン、先走り過ぎた」 そうだよ。まず告白して、それから清いお付き合いを申し出て…………。 今さくっとサクセスストーリー想像したら、顔から火が出そうになった。告白すんの、すげー緊張するし、それで付き合えたら……俺、幸せ過ぎる……どうしよう……。 今までそれは遠い未来というか、結構望み薄って感じだったのに、それが今いきなり手が届く範囲にやってきたのだ。ヤベー本当、ワクワクが止まらねえ。 「悪い、ちょっと離れて歩くな」 唐突に、及川がそう言った。幸せ一色だった俺の思考回路は混乱してフリーズする。及川の言い方が、ふざけてる感じじゃなく、ガチにごめんなさいって感じだったから、尚更俺へのダメージはバツグンだった。 え、俺、そんなキモかった?確かにちょっと色々想像してニヤけてたかもだけど、だからってそんなすぐに脈圏外に吹っ飛ばさなくてもよくないか及川さん……。 「大学、近いから」 絵に描いた様なガーン状態の俺を気遣う様に、及川が言った。そして、「またな」と言って、俺を撒くように早足でどんどん先に行ってしまう。 5秒くらいどん底を見た。及川のフォローの意味が分からなくて。 けど、すぐにはっとしたのだ。 「大学が近い」って、そういうことだったのか……! フォローしてくれたし、「またな」って言ってくれたし、嫌われたわけじゃなかったんだ……。ああ、本当よかった……。 そうだよな、次、天城先生のゼミだし、確かにどこで見られてるかわかんねーよな。岩崎の目も気にしないといけねーし、大学は及川にとって危険地帯よな。 ………ん? けど、別に好きでもないのに、何を隠す必要あんだよ。いーじゃんガンガンばらしてけば。自分から別れ切り出しにくいんなら、向こうから振って貰えばいーんだぞ、及川。俺、振られるのは大得意だぞ。伝授してやろーか? 「よー土佐」 「お前午前中サボったろ」 追いかけてそう言おうと思ったけど、気付いた時には及川はもうかなり先にいたし、俺は友人グループと出会してしまった。 ――――及川の背中がどんどん小さくなる。 ………まあいっか。こんなチャンスを棒に振る俺じゃないから、午後の講義終わったらまたデート誘うつもりだし、その時にゆっくりじっくり話せば。 「土佐、何かいいことあった?」 全然事情知らない友人からも指摘されるくらい、俺の幸せオーラは駄々もれらしい。 「分かる?ありまくった」 「なになに?ミスター当確とか?」 ミスターとか、もう結構どーでもいいかも……。 けど、こうやって頑張ってきたからこそ、神様は俺にこうしてチャンスを与えてくださったんだと思う。何を隠そう、俺はいい意味における因果応報を信じているタチだ。だったら……やっぱ最後までやり遂げねーとだよな。 「ぜってー獲るから」 ミスターの称号も、及川の彼氏の座も、俺が絶対に獲ってやる。

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