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オバケの教室 2

及川とは違う5講目の授業を受けながら考えていた。浮かれすぎて、肝心な事をちゃんと話せてなかったなぁって。岩崎の事だ。 及川は否定したけど、やっぱりどう考えても岩崎は及川に迫っていたと思う。もしも、「宗ちゃんにチクっちゃおっかなー」的な脅され方してたとしたら、及川に「話しかけんな」って何回言われても話しかけてた俺の責任でもある訳だし、そうでなくても及川に指一本触れさせてたまるか。 運よくちょっと早く講義が終わった事に感謝しつつ、及川が講義を受けているであろう教室に急ぐ。 及川も今日は5講で終わりって言ってたから、デートのお誘いに行かなければ。 考えていた岩崎の事は、及川に嫌な思いさせてまで打ち明けさせなくてもいっかと結論が出つつあった。 正直言って、岩崎は天城先生にチクりまくって、及川は天城先生から愛想を尽かされればいいと思っているし、大学内では俺が岩崎の毒牙から及川を守ればいいんだから。 俺が今一番に及川としたいのは、俺達の今後が見える話だ。脈は、なくはないと思う。及川は男でもいける性癖の様だから、尚更。 ダッシュしたお陰で及川の受けてる講義が終わる前に教室に到着することができたから、入り口で待つ事にした。 離れてたのは1時間半だけど、早く及川に会いたい。 最後に見たのが、天城先生とひっついて何やら話してた姿だったから、尚焦燥感が増しているんだと思う。いくら及川が「好きじゃない」って言ってても、あの二人には『付き合ってる』って既成事実がある訳で、それが無くならない限り俺に勝利はないのだから。 考えちゃったせいでさっきの光景がありありと浮かんで嫌な気分になったから、スマホで撮った及川の写真を見る事にした。 ………あー、本当カワイイ。癒される。やっぱこれ待ち受けにしたらダメかな。……ダメだよな、及川に怒られる。 そーいや、インスタにも絶対上げるなって言われたけど、そんなの言われなくても絶対しない。そもそもインスタはミスターの宣伝用でしかほぼ使ってないし、プライベートな画像はこれまでもこれからも上げるつもりはない。及川は自慢したくなるくらい綺麗な奴だけど、その気持ちよりも誰にも見せたくないって思いの方が強い。だってみんなが色眼鏡を外して及川を見るようになったら、男女問わずライバルが増えすぎてヤバい。 待ちに待った終了のチャイムと同時に教室内がザワつき始めた。 及川、俺見てどんな顔するかな。覚悟しとけよ、これから毎日押して押して押しまくるからな。 ザワザワ、人が捌けていく。知り合いと会って他愛のない挨拶をしたり、ミスターの件で声をかけてくれる人と会話したりしながら、神経は及川ただ一人を探すことに集中させていた。だから、見逃す筈はなかったのに。 「あれ……お前ら最後?」 よっしーと岩崎が出てきた後ろには、誰も続いていなかった。教室の中を覗き込んでも、誰もいない。 「うん、そうだよ。こんな所でどうしたの?」 「いや……及川は?」 「あ、あゆ君探してたのか。けど、あゆ君来なかったんだ」 え………。 「だってさっきゼミにはいたじゃん」 「そうなんだよね。もしかして体調崩したとかじゃないかって、俺も心配してて……。土佐、あゆ君に連絡してみてくれない?」 こんな時でもよっしーは美咲さんの束縛優先かよ。及川はいっつもよっしーのことを一番に考えてやってるってのに。友達甲斐のないやつ。 「言われなくてもするって」 嫌味のひとつも言いたくなったけど、そこはぐっと抑える。そんな事より今は及川が心配だし。 「オバケの教室」 スマホをごそごそしてたら、よっしーの隣で岩崎が言った。 ………あ、俺こいつに言いたいことあるんだった。 「あのさ岩崎、及川から聞いた」 第一声からハッタリだけど、まあそういう体で。 「……何を?」 「もうやめてやれよ。あいつその気ないし、嫌がってるから」 「……へー、そう?満更でもなさそうだったけど?」 「いや、ないって。ふつーにキモいって言ってたし」 「ふーん。けど、あいつ俺の前で服脱いだんだよなあ、自分で。お前は見たことあるか?あいつの身体」 岩崎が勝ち誇った顔をするから、一瞬ぶちギレそうになった。さっきも、さも及川の事俺よりも知ってるみたいな思わせ振りな捨て台詞吐いてたけど、今度は裸見たことあるって? 嘘嘘。あり得ない。よっしーならともかく岩崎が俺より及川のこと知ってるなんてナイナイ。及川がこいつの前で脱ぐとか、そんなのもっとナイ。俺がこいつに言ってんのが全部嘘なのと同じで、こいつもマウント取りたくてハッタリかましてるだけ……。 「ね、ねえ、何の話……?」 ……あ、そうだ。よっしーいるんだった。 「もしかしてあゆ君の話なの?」 そう……だけど、ここで「うん」って頷くのはちょっとないかなって思った。岩崎から迫られてるなんて話、及川はよっしーに知られたくはないだろうし、けどここで及川の事だって言ったら、それがバレてしまうくらいの内容を、既に話してしまっていた。 「違げーよ。及川の、友達の話」 「え、あゆ君女の子の友達とかいたんだ……」 ほらやっぱりよっしーもナチュラルに女の子相手の話だと思ってる。 「あいつ男の癖に、妙に色気あんだよな……」 おい岩崎ふざけんな。今誤魔してんだから、空気を読め。 「……ともかく、もうあいつにちょっかいだすのやめろよな」 ここであんまり深い話はできないけど、それだけは言っておきたくてもう一度岩崎に向き直る。 「オバケの教室」 岩崎は俺の忠告には返事をせず、不敵な笑みを浮かべてまたそう言った。 「何だよそれ、さっきから」 「行けばお前にも分かるって」 岩崎がニヤニヤしながら意味深に言う。すごく、嫌な言い方だと思った。 「……まさか及川になんか、」 「俺が?何かできるわけねえじゃん。今俺、お前の目の前にいるでしょ?」 岩崎は相変わらずヘラヘラして、こう続けた。 「愛由くんの本当の姿、知りたくない?」 ――――及川……! 俺は勢いよく駆け出した。岩崎の言うことは何がなんだか分からないけど、ともかく胸騒ぎがしたのだ。 オバケの教室って、多分及川とよく行くあそこだ。そういう噂があるせいで、あそこには他の生徒が寄り付かない。そのお陰で、俺たち二人にとっては居心地のよかったあの――――。

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