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オバケの教室 3
高校の部活以来ってくらいの本気ダッシュで階段を駆け上って、目的の教室が近づいてきた時だった。微かに女の子のすすり泣きみたいな声が聞こえた。まさか本当にオバケ…?と一瞬頭をかすめたけど、そんなわけない、ばかばかしい。また猛ダッシュで教室まで駆けて行って、ガラッとドアを開ける――――。
「ふ、ぁ……っ」
むっとする熱気と、青臭いにおい。
すすり泣きは、間違いなくこの教室から聞こえていた。パン、パンというリズミカルな音に合わせて――――。
「誰かと思ったら、土佐君じゃないか」
正面で俺と目が合っても、同じリズムで腰を振りながら、その人は顔色一つ変えなかった。
「……!!」
及川は、その声でようやく俺に気づいた。机の上で仰向けになったままぎこちなく頭を反らしてこっちを見ると、目を見開いて驚愕の表情ってやつを浮かべた。
「やっ……なん、で……!」
及川が足をばたつかせ身体を起こそうとする。それを、天城先生が片手で制した。
「ごめんねこんなところ見せちゃって。俺は家まで待ってって言ったんだけど、愛由がどうしても我慢できないって言うから、仕方なくね」
「や、だ……もうや、め……っ」
及川がまたちょっと暴れた。天城先生が今度は両手で及川の肩を机に押し付けた。
「大丈夫、心配いらないよ愛由。土佐君なら俺たちのこと理解してくれてるから。ねぇ、土佐君。このこと、誰にも言わないよね?」
天城先生は、俺に聞いておきながら俺の答えなどお構いなしに、暴れる及川に覆いかぶさってキスを始めた。
「う、……んん……」
及川は子供がいやいやするみたいに首を振った。さっきから時折見せるすぐに封じられる抵抗もそうだけど、その素振りは弱弱しすぎて、逆に誘ってるかの様にしか見えない。
「土佐君に見られてるのにこんなにしちゃって……可愛い子」
天城先生が時折言葉攻めも交えた甘い言葉を囁く以外の時間、二人はずっとキスをしていた。その最中も相変わらず天城先生は腰を及川に打ち付け続けていて、その激しさを表すように机もずっとガタガタ言っている。
「我慢しなくていいよ……俺も、もう限界だから……」
――――俺は一体何を見せられてるんだ。何、こんなのゆっくり見学しちゃってんだ。
好きなやつが、彼氏とヤってるとこなんか――――。
駆け出す直前に聞こえた。「一緒にイこう」って。
そんなの見せられたらまじで発狂するって思った俺は、ここに来たときと同じくらいのダッシュでそこから離れた。それどころか同じ建物の中にいるのすら嫌で、その勢いのまま大学を出た。
外は物悲しい夕暮れだった。あんなに晴れてた昼間が嘘みたいにどんよりとした。
明日はきっと雨だな。そう思った途端、頬に水滴が落ちた。そして、あ、雨だって思うまもなくザーッと降ってきた。
最悪。
まじで最悪。
夏でもないのに、ゲリラ豪雨並じゃん。
フードを目深に被って駅まで急ぐ。
雨の勢いは衰えない。
――――最悪。
衝撃的すぎて頭ん中真っ白になっとたと思ってたのに、雨で黒くなったアスファルトにさっきの光景が映画のフィルムみたいに映し出された。歩いても歩いても追ってきて、もう見たくないのに、焼き付いて離れてくれない。
天城先生の余裕ぶった顔。及川の控えめな喘ぎ声。二人の肌がぶつかり合う音。そして、こっちを向いた及川の逆さまの顔。潤んだ瞳に、赤い目元。ピンク色に上気した頬。悔しいかな、俺が想像してたどの及川よりも艶っぽくてエロかった。
――――さっきまでの浮わついてた俺、バカみてーじゃん。
俺、及川にからかわれたのか?俺の好きって気持ち読まれて、遊ばれたのか?やっぱあいつは、とんでもないレベルの小悪魔なのか?
もうちょっと、無理かも………。
純粋な好きって気持ち、持ち続けるの。
だって及川、あんなのひでーよ。「好きじゃない」なんて言って期待させといて、けど本当はあんな風に。家まで待てないってぐらい情熱的に天城先生を求めてるなんて――――。
唐突に、岩崎の言ったことが脳裏を過った。
『あいつ俺の前で服脱いだんだよなあ、自分で』
妖艶な及川が、服を脱ぐ。滅多に笑わない癖に、口元だけで笑って。一枚ずつ、焦れったく、見せつける様に、その白い肌を露にしていく。
それが、及川の本当の姿なんだとしたら――――。
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