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命 2

……いかんいかん。そんなことより、今は目の前の問題だ。及川なんでこんな弱っちゃってるのか、だ。 「……何があった?」 「………由信さ……」 ……ん?よっしー?よっしー関係あんの? 「美咲さんと別れることになったら……」 ……え、何の話?けど、一応答えておくか。 「十分あり得るよな。大体、大学時代の相手とそのまま結婚まで行くカップルのほうが少ないと思うし……」 「……由信、立ち直れるかな……」 「そりゃいつかは立ち直るだろ。あいつも美咲さんとの付き合いで悩みもあるみたいだったし、俺は、個人的に美咲さんとよっしーがお似合いだとは思わねーしなぁ。もっとよっしーに合う女の子は他にいると思うよ」 「そうかな……」 「おう……って、何だよ、なんでよっしーの話?それ、なんか関係あんの?」 俺は及川の話が聞きたいんだけど。 「俺………」 及川は一回口ごもったけど、直ぐに意を決した様に口を開いた。そして、さして深刻な話でもなさそうにさらっと言った。 「俺、何もかも嫌んなって、さっき死のうとしたんだけど、」 え―――――。 「でも結局この通り。ビビってダメだった」 及川は、自嘲するみたいに「情けないよな」って付け加えた。 「どうしたらいいのか分からなくてウロウロしてたら、いつの間にかここに来てて……」 ――――――――。 「ざけんな……」 声が、震える。 「ッざけんなよ及川!」 怒鳴る俺を、ポカンとした顔で見ている及川に、掴みかかる。 「んだよそれ!何簡単に死ぬとか言ってんの!?ふざけんなよ!お前、本気で死ぬ気だったのかよ!?ふざけんなよ!ふざけんな……!」 ヤバイ。感情が制御できない。 「土佐……」 こいつは、そういう冗談を言うやつじゃない。死ぬ死ぬ詐欺して人の気を引く様な女々しい奴じゃない。だから、本気だったのだ。本気で、死のうとしたのだ。自分の意思で、全部、全部無にしようとしたんだ。 「ふざけんなよ!お前の命はそんなに軽くねーだろ!お前は、俺の事とかどーでもいいのかもしれねーけど、俺は、お前の事どーでもよくねーから!お前は、この世なんかどーでもよくて、未練もないんだろうけど、俺は…………ッ、俺は、お前がいなくなったら…………ッ」 掴みかかっていた筈なのに、いつの間にか俺は及川の身体を掻き抱いていた。 元々、存在が希薄な奴だった。目立たないとか、存在感がないとかではない。寧ろ及川は、その美貌と悪い噂のせいでかなり目立つ奴だった。けど、それでも、いつ消えてもおかしくない様な危うい雰囲気を常に纏っていたのは、及川自身が、自分の存在を投げ槍に扱っていたからだ。 俺が、こんなに大切で、こんなに大事な及川を、及川自身が殺そうとしていたなんて、悔しくて怒れて悲しくてどうしようもない。それに、そんな風にあっさりこの世とおさらばしようかなって思える程に、この世界は俺も含めて及川にとってどーでもいい存在なんだって突きつけられた事が、あまりにも虚しい。 そして、ついさっき、及川のさじ加減ひとつで、この大切な大切な命が失われていたのかもしれないって思ったら、足の先から力が失われる様な言い知れない恐怖に襲われる。 思い止まってくれてよかった……。 そう思って及川の身体を強く抱き締めると、及川がちゃんと『ここにいる』ことに喜びの感情が生まれる。 怒ったり悲しんだり虚しくなったり喜んだり。あーもう本当にめちゃくちゃだ、俺の情緒。 「ごめん、……土佐……ごめん………っ」 腕の中の及川が、声を詰まらせた。 「生きてて、よかった…………」 及川の感情に引き摺られ、自然と口をついた言葉。けど、結局はこれが、俺の中で今一番を占めてる思いで、及川に一番伝えたい事だった。俺が怒ってる理由も、悲しいのも悔しいのも全部、及川に生きて欲しいから、だから。

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