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ミスターコンテスト 2

「あれ……何か……」 なんか変。そう呟いた及川が見ている先には大学の正門があって、今日はその門をアーチ状に象った派手な装飾がなされている。 「もしかして及川、今日が学祭って事も知らなかった?」 「……知らなかった」 まじか。もしかしたら、この調子だと今日が祝日ってことすら及川は気付いてないのかもしれない。これまでの、及川の抱えてる闇を知らなかった俺なら、「及川宗ちゃん以外に興味無さすぎる」ってちょっとイラついて、虚しくなって、悲しくなってたんだろーな。勿論、今はそんなこと微塵も思わない。そんなことを気にする余裕すらなかった及川の置かれてた状況に同情は禁じ得ないけれど。 それにしても、及川の「変」って表現がなんだか可愛くて、場違いに頬が緩んだ。あ、けど、学祭っていう本来は楽しいイベントなんだから、ある意味場違いじゃない、か。 「ミスコンの発表は学祭の目玉イベントなんだぜ」 どーせ来たんだから、ほんの少しの時間でも不安を忘れて欲しいし、もっと言えば、ほんの一瞬だけでも楽しんで欲しい。そう思って、俺と及川二人の空間の中で場違いにならない程度の明るい声を出した。 及川は、何時もと違う大学の雰囲気に気を取られているのか、キョロキョロ辺りを見回しながら「そーなんだ」と可愛いらしい気の抜けた声で返事をした。学祭サマサマだ……。 開場時間を大幅に過ぎていたせいか、駐車場には人は殆どいなかったけど、校舎の中は人だらけで凄かった。 「今までどこにいたんだ?」 「本田が血相変えて探してたぞー」 「ミスター頑張れよっ」 友人達に会ったのを皮切りに、 「あ、あの人……!」 「土佐健!」 「え、待って、ヤバイ……」 「写真撮ってもらおーよー!」 近所の女子高の制服を着た女子高生にキャーキャー言われたり、 「ヤダー実物超イケメン!」 「投票したからねー」 「応援してるよ!」 SNSで知って応援してくれてたっていうお姉さま方に囲まれたりしながら、ただでさえ歩きにくい人ごみの中を進んだ。はぐれない様に、及川の腕だけは確りと掴んで。 「すげーな、人気者で……」 人波が少し途切れたタイミングで、及川が呆れたような感心したような声色で言った。 「でかいから目立っちゃうんだよ」 身長が人並みなら、ピンポイントで見つけられる確率はグンと減るんだろうけど。 「土佐ぁ!もーっ!お前どこにいたんだよ!探したんだから!」 今もまた、遠くから頭ひとつ他より出っ張ってる俺を見つけて人ごみを掻き分けて向こうからやってきた男が一人。俺を血相変えて探してたっていう、本田──本ちゃんだ。 「わりーわりー何かあった?」 「何かあった?じゃねーだろ!もーっ、衣装とかメイクとかも色々考えてたのにー!今からじゃ間に合わないじゃんかあ!」 「あ、悪い。そーだったんだ」 「もー、いい!お前なんか知らん!」 「ごめんて本ちゃん!許して、このとーり!」 パンと顔の前で手を合わせて、頭を下げる。 「もうさ、投票終わってるから、カッコつける意味ないっちゃないよ?けどさ、最後のステージ、今までの集大成だよ?一番格好いい姿で、ステージ立って欲しかったのに……」 「本ちゃん、色々考えてくれてたんだ。悪かった。……けどさ、大丈夫!俺、このままでもじゅーぶん格好いいから!」 わざとらしく気取って言うと、本ちゃんがぷっと吹き出して「ふざけんな」と突っ込んだ。よし、ちょっと機嫌戻ったっぽい。 「あ、こんなことしてる場合じゃなかった!早く記念館行かないと!もう他のやつら全員揃ってるぞ!」 ミスターコンに間に合うようにギリギリに来たのだけど、それにしてもギリギリすぎだったらしい 焦る本ちゃんの背中を追って、早足で記念館と言う名の体育館に向かう。当然、及川の腕を再び引いて。 うちの大学はそんな大きくないし、ミスコン関連も小規模にやってるから、学祭も1日で終了、ミスターのグランプリ発表も当日っていうコンパクトな流れだ。事前Web投票と、当日票の集計結果でグランプリが発表されるのだが、もう当日投票も締め切って、そろそろ集計結果が出てる頃だ。 「待って。俺、どうしてたらいい……?」 記念館に入って真っ直ぐ『ミスコン出場者控え室』と言う名の舞台横のパーテーションの向こう側に向かおうとしていた俺を、及川が止めた。 「及川も、中まで一緒に来て」 「え……でも……」 「あのさ。ずっと気になってたんだけど、なんでずっと及川連れてんの?」 本ちゃんが俺たちを振り返って言う。本ちゃんも、噂に毒されてる他の奴等の例に漏れず、及川を見る目は険しい。 「仲良しだから」 「は?」 「仲良しだから。及川にも傍で見ててほしーの」 「ええ……。何だそれ……」 本ちゃんは冷めた目で俺を見てたけど、それ以上文句は言わなかった。問題は、ミスコン係りの目を掻い潜ることだけど──言わずもがな美人で目立つ存在の及川は控え室の入り口ですぐに見つかってしまった。けど、係りの子が女の子だったってのも幸いして、さっきも本ちゃんに許して貰った時のポーズでなんなく乗り切れた。

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