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ミスターコンテスト 5
「緊張するね」
ステージ袖で近くにいたミス候補の女の子から話しかけられた。ミスコン関連の集まりで何回か喋ったことのある2年の子だ。
正直さほど緊張していなかったけど、話を合わせて「そーだね」と返すと、女の子は笑顔を作って身体ごと俺に向き直った。
「ほんと?土佐君、全然余裕って顔してるよ?」
「そんなことないって」
あれ、バレちゃってる。あーけど、この後、及川に告白するんだって思うと、それはすげー緊張するな……。
女の子は何やらずっと話しかけてきてたけど、俺の頭の中は及川でいっぱいだ。
及川、大丈夫かな……。視界のどこにも及川がいないっての、すげーストレス。早く結果教えてくれよ───。
「今年のミスターグランプリは…………エントリーナンバー64番、土佐健くんです!」
ステージ上で自分の名前を呼ばれたこの瞬間は、よっしゃって心から思った。
天城先生の事は俺が買い被っていて、大学イチどころか、この大学で一番最低な奴よりもっともっと最低な男だったから張り合う必要もなくなったけど、及川は間違いなくこの大学で一番可愛くて綺麗だから、これでようやく吊り合える。晴れて及川に告白できる。
スピーチは当たり障りなく、ありがとうって事をいい感じに喋って、その後に控えていたミスグランプリの発表をまた及川の事ばかり考えながら聞いて、漸くステージの幕が下りた。
「あの、土佐くん!」
直後、まだステージ上にいる内に腕を掴まれた。俺はすぐにでも及川の待つ控え室に行こうとしてるってのに。
話しかけてきたのは、さっきステージに出る前にも話しかけてきた女の子で、ミスグランプリと書かれた赤い襷をかけていた。
「私、グランプリだった」
「ほんとだ、おめでとう」
「えへ、ありがとう。土佐くんも、おめでとう」
ありがとうと当たり障りない返事を返しながら女の子に背を向けたのに、後ろからまたくいっと腕を引っ張られる。
早く行きたいんだけどな……。
けど、女の子の腕を振り払う訳にも行かず──。
「ね、さっきの話の続き……」
「なんだっけ?」
「ひどーい、忘れたのー?」
女の子は酷いと言いながらも、楽しそうだ。俺がからかってるとでも思ってるみたいだけど、そうじゃない。本気で何のことかわからない。
もう一度何の事か訊ねたら、女の子は勿体ぶりながら耳を疑う様な事を言った。
「お互いグランプリ取れたら付き合っちゃおっかって話のこと」
──何だそれ。俺そんな話しちゃったの?全然全く記憶にないけど?それにしても自分。本当にそんな話に乗ってたとしたら、適当に返事しすぎだろ……。
「ごめん。俺、冗談で……」
流石に覚えてないとは言えなくて、苦し紛れの言い訳をするしかない。
「けど土佐くん、今珍しくフリーなんだよね?」
「え、それも俺が言った?」
「ううん、噂」
「へ?噂?」
「ふふ、土佐くんって意外と天然なんだね。土佐くんこの大学で凄くモテてるの、気付いてないの?」
「いや……それは……」
流石の俺でも、自分で「はいモテます」とは言いづらい。まあ、割と女の子に困ったことはない方だけどさ。
「知らない訳ないか。けど、じゃあこの噂は知ってる?『土佐くんはフリーの時、可愛い子からコクられたら絶対に断らない』って」
「そんなの噂になってんの?」
ビックリして前のめりで聞く俺に、女の子がこくりと頷いた。
───口をあんぐり開けるとはこの事だ。
うわー。これまでの自分を振り返ってみたら確かにその通りだけど、そんな取っ替え引っ替えしてたの噂されてるとか、恥ずかしすぎるだろ。
「私今、この大学で一番イケてる女子だよ?」
ミスさんは、「これ以上は言わなくても分かるでしょ?」って顔してにっこり微笑んだ。
すげえ肉食だ。逞しい。ちょっと前の俺なら、間違いなく二つ返事でおっけーしてただろう。こういうストレートな子は、付き合うにしても別れるにしてもきっぱりはっきりしてて楽でいいから。
いや、もう俺、その考えの時点で真面目にお付き合いする気ないじゃん。今漸く気付いたわ。これまで付き合ってくれてた子達、本当にごめん。確かによく言われる通り、俺、彼女達の事大して好きじゃなかった。だって俺はずっと、及川の事が───。
「ノリで付き合うの、やめることにしたんだ」
ミスさんのプライドを考えて、敢えて「ごめん」とは言わなかった。だって俺、ミスさんの名前も覚えてないし、つまりはそれくらいの関係性なのだ。相手だって本気で俺を好きって訳じゃなくノリだろうから、軽く済ませるのが互いにとってベターってもんだろ。
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