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ミスターコンテスト 6

ミスさんとの話を一段落つけて足早に向かうのは当然及川の所。「おめでとう」とか、言ってくれたりすんのかな……。 「土佐!」 控え室に顔を見せた途端、俺が及川を見つけるよりも先に、その本人が駆け寄ってきた。え、こんな熱烈に祝ってくれんの!? 「由信が……!」 「え、よっしー……?」 「由信が、変な奴に連れてかれたって!」 え……。 何、どういう状況? 詳細を聞こうとしても、及川は焦りまくってて「早く行かないと」ってそればっかりだ。 「なんか知らない奴が来て及川連れてこうとしたから、止めといたけど……」 横から助け船を出してくれたのは本ちゃんだった。連れてかれようとした……って───。 「本ちゃん、まじでありがとう……!」 本ちゃん、ちゃんと及川の事守ってくれたんだ。本ちゃんがいなかったら、止めてくれなかったらって思ったら背筋が凍る。本ちゃんまじで神様……! 俺が拝んでたら、本ちゃんが詳しく教えてくれた。来たのは若いけど学内では見たことない奴で、全然爽やかじゃなくどっちかって言うとホスト系の見た目だったらしい。そいつがいきなり大声で及川を呼んだかと思うとずかずか中まで入ってきて、よっしーが大変だから、とか何とか言って及川を引っ張って行こうとしたらしい。初めは後退りしていた及川は、よっしーと聞いた途端この調子で冷静さをなくしてしまったから、止めるのが大変だったって。 事の詳細を聞いて、俺は改めてもう一度本ちゃんを拝んだ。本当ありがとう、本ちゃん。 それから、相変わらず「早く早く」と焦っている及川に向き直る。 「及川、なあちょっと落ち着いて、」 「けど、由信に何かあったら……!」 「今、よっしーに電話してみるから」 「電話なんか意味ないだろ!」 「本当に何か起こってるなら、な」 「本当に……って、お前……」 「うん。俺は罠だと思ってる」 及川が絶句した所で、3コール目の呼び出し音を聞いた。そして4回目の途中で、それが途切れて──。 『もしもし?』 ──やっぱり。 よっしーの声は、とても何かあった時に出す声じゃない。あまりにもいつも通りのものだった。 「よっしー、今どこ?」 俺が普通によっしーと喋り始めたのを見て、及川は目を見開いてまさかって顔をして、それから俺の顔のすぐ近くに自身の顔を寄せてきた。俺はちょっとドキっとしたけど、及川はただただ真剣な顔して電話の向こう側の声に聞き耳を立てている。 『今記念館から出たとこだけど?それより土佐、見てたよ!グランプリおめでとう!スピーチも、格好よかったなあ』 「今、傍に岩崎いる?」 『え?ううん。発表直前に、どっか行っちゃって……』 「そっか。ちょっと今から控え室に来てくれねえ?」 よっしーの元気な顔を一目見れば、及川も安心できるだろうから。 『いいよ』と言ってくれたよっしーとの通話を切ってから見る及川の顔色はよろしくない。俺だって多分そうだ。 想像するに、ホストっぽい男ってのは、ミスコン発表前に消えたという岩崎の仲間だろう。類は友を呼ぶっていうし、得てして友人のタイプは似るものだ。岩崎=天城先生のスパイだから、詰まる所これは天城先生の手引きで起こった事だと考えて間違いないだろう。 及川は「俺、バカだった」とポツリと言ったきり黙りこんでいる。その様子を見るに、及川も俺と同じ想像をしてるんだと思う。つまり、これは宗ちゃんの仕組んだ罠だって。 ──怖いよな。まさかここまでするなんてな。やべーよ、本当に。やっぱり警察行った方がいい、絶対。殺人事件とかに発展するレベルの、やべーストーカー臭がプンプンする。 「土佐?……あ、あゆ君!」 場違いに明るい声の主は、何も知らないよっしーのもの。 よっしーは、俺を……っていうか及川を見つけてはしゃぐようにして駆け寄ってきた。 「よしの、」 「あゆ君!あゆ君とこうやって話せるの久しぶりだね!あゆ君!」 よっしーはいきなり及川にガバッと抱き付いた後は、目の前でぴょんぴょん跳ねて喜びを表している。 「ねえ、今日はこのまま、土佐のグランプリお祝い会を開かない?」 よっしー……本当に能天気だな。まあ、何も知らないんだから仕方無いけど──。 「よっしー、美咲さんは?及川と喋ったら怒られるんじゃなかったっけ?」 「うん……。けど、もういいかな……。なんかもう疲れちゃったし……あゆ君の顔見たら、なんか……。俺、やっぱりあゆ君がいいみたい。あゆ君と、一緒にいたい」 よっしーは久しぶりの及川との触れあいに感極まったのか、やけに熱っぽい視線を及川に向けている。 ──美咲さんと、別れるつもりか?まあそれについてはどっちでもいいけど……なんか妬けるなぁ。及川はよっしーの事、相変わらず過保護全開って感じに見守ってるし……。 なんだかなぁ。俺の思ってたのと違う……。及川が罠に嵌まらなかった事は本ちゃんの手柄としてもうそれは万々歳なんだけどさ、俺、グランプリ獲ったんだけどなあ。及川に「おめでとう」って言われて、「お前の為に獲ったんだ」って格好よく告白決めるつもりだったんだけどなあ。けど───。 「あゆ君、またちょっと痩せた?だめだよーちゃんと食べないと。今日何食べたい?あ、土佐が主役だったね。俺、これまでのお詫びで今日は奢るよ!ねえ土佐、何食べたい?」 けど、久し振りに戻ってきたこの感じ。よっしーがいて、及川がいて、俺がいる。 事情を何も知らないよっしーがひとりはしゃいでるのを及川が優しく見守ってて、けど、時おり俺を頼って「どうしよっか」って視線を向けてくる。 この感じ。このバランス。この空気感。その全部がいとおしくて懐かしくて平和で落ち着く。本当は、全然平和じゃないんだけど……。 「よっしー、ごめん。気持ちはすげー嬉しいんだけど、今日は無理だ」 チラッと及川を見やると、及川も考えは同じなのだろう、よっしーに気づかれない様控え目に頷いた。 「あ……もしかして、彼女と先に約束あったとか……?」 「うん、まあ、そんなとこ」 よっしーに今の状況を話すか話さないか。その辺、及川と相談しないとだな。及川は、「由信を巻き込みたくない」とか言いそうだなぁ。俺はこうやって呼び出したりする材料にされかねないよっしーには、ちゃんと話した方がいいと思うけど。 「そっかあ……。じゃああゆ君を誘いたい所だけど……それはちゃんとケジメつけてからにしようかな」 ケジメ……? 「みさちゃんに、ちゃんと話すよ。それでもやっぱりあゆ君と付き合うなって言うなら、仕方無いから、お別れする」 「由信……。辛い決断させて、ごめん……」 「あゆ君は悪くないよ。俺、ちゃんとしてくるから。待っててね。あゆ君」 おいおいなんだこれ。愛人から妻に昇格か?ってのは冗談だけど、俺よりもよっぽど告白らしきものしてねーか、よっしー。え?よっしー違うよな?及川の事、俺と同じ好きって訳じゃないよな?

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