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ミスターコンテスト 7

よっしーがここを出て、本ちゃんも友達と学祭回るって言っていなくなって、控え室にはもう人もまばらで、少なくとも俺と及川の会話が聞こえる範囲には、誰もいない。 「及川、やっぱり、警察に相談しないか?」 周囲に誰もいないとは言え、小声で及川に問う。 「警察……」 「さっきのだって、絶対に宗ちゃんが仕組んだ罠だろ。ついて行ったら、浚われてたかもしれねー。あいつさ、及川の言うようにマジでヤバい。異常だよ。俺と、及川だけでどうにかなる問題じゃないと思う。借りれる手はなんだって借りないと、取り返しのつかないことになりそうな気がするんだ」 天城先生の手下は岩崎だけじゃなく、大学内にも、外にも、他に沢山いて、何としても及川を捕まえようと網を構えて待ってるんじゃないかって──。 「……土佐にだけ、負担掛けられないよな……」 及川は視線を下げていて、その口調も歯切れが悪い 「俺の負担とか、そんなんは気にすんなって。それよりも及川、やっぱり警察に不安ある?」 「…………」 「及川の正直な気持ち、聞かせてほしい」 及川はいちいち詳しく話をしなかったけど、無罪を有罪にされたって過程には、きっと想像を絶する様な沢山の事があったと思う。俺が想像できるだけでも、自白強要のために恫喝されたり、何時間も取調室に拘束されたり、苦しいことが、沢山。だから、及川が警察を信用できなかったり、もっと言えばトラウマの様なものを植え付けられていたって、おかしくないと思う。だから、及川が、本当に本気で嫌だって言うなら、及川を無理に警察に連れて行こうとは思っていない。 「俺は……信用できない。なんか……嫌な予感がするんだ………」 「嫌な予感?どんな……?」 「わからない……。けど、警察には、行きたくない」 及川が珍しくはっきりと言ったから、俺は少し驚いた。及川の警察へのトラウマはそこまでなんだ……。 「分かったよ。まあ、まだ実害はないしな。なんとかなるか」 「ごめん、ほんと……」 「いいって。俺の前では、嫌なことはちゃんと嫌って言えよ。俺は、及川の本意にないことは絶対したくないからさ」 「……ありがとう」 「よし。帰るか」 グランプリの襷を外して、カバンに詰め込む。 あーあ、グランプリとったその勢いで告白しようと思ってたのに、なんか水差されたな……。 完全タイミング逃したし、今告白されても及川も「それどころじゃない」って気分だろうし、空気読めよ状態だよなぁ。 「グランプリおめでとう」 ちょっと内心不貞ってたら、不意に及川からそう言われた。そして、 「遅くなってごめん。格好よかった」 ってまで続けられて、俺の気分はかなりかなりかなりあがった。 「及川、見てたの?」 「最初の方だけ。そこからチラッとだけど、本田が、ここから見れるって教えてくれて」 最初の方だけだったのは、よっしー騒動のせいだろう。いや、よっしーは名前を使われただけだから、よっしー騒動という名前はよっしーに失礼か。 「格好良かったって?」 おいおい、お世辞かもなんだからわざわざ聞くなよ、だよな。けど、ごめん。ニヤニヤが止まらない。 「うん、すげー堂々としてたし。俺から見ても、グランプリは土佐かな」 うわあ及川……。うわあマジか……。 「及川ぁ。俺、ミスターコン出てよかった……」 及川からの誉め言葉ってすげー。及川に認めて貰えるって、やべー。だって、こんなに嬉しくて幸せな気持ちになるんだから。 「すげーよな。この大学で一番カッコいい男ってことだろ?流石じゃん、土佐」 及川が無邪気に俺をほめちぎってくれるから、俺は嬉しいやら照れ臭いやら。幸せには違いないけど──。 「土佐、顔赤い」 及川が指摘するのも無理はないってぐらい、多分俺真っ赤になってる。 「だって……照れるって!」 「ステージの上ではあんなに堂々としてたのにな」 及川がからかうように言った。そんなの、当然だ。この大学の誰からどう思われようとどうでもいい。けど、及川だけは別だ。俺をこんな風にさせるのは、及川だけ。及川が、特別だから……。 「及川」 「なんだよ冗談だろ」 俺が真面目な顔で及川に向き直ったのをどう勘違いしたのか、及川は口を尖らせた。 「及川、俺……」 この気持ちを伝えたい。空気読めよって思われる?それどころじゃないって言われる?けど。もう隠しておくの辛い。元々今日言うつもりだったし、雰囲気だって、今は悪くないよな? 「お疲れー」 「片付けは明日するからそのままでいいからな」 俺の決断を後押しするように、最後まで残ってた係の連中が、今まさに帰っていった。 うん、これ。このタイミングは、そういう流れだ。もう、言うしかないだろ。 「俺がミスターに、大学イチの男になって及川に伝えたかったのは、さ……」 及川は、ああその事かって顔して俺に向き直った。真剣な俺の表情に合わせて真面目な顔で俺の言葉を待ってくれてるけど──まさかこれから自分が告白されるとは夢にも思ってなさそうだ。

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