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ミスターコンテスト 8

「好きです」 「……え?」 「及川の事。ずっと前から」 及川は、元々大きな目を見開いてすごく驚いた顔をしている。俺、結構アピールしてたと思うんだけど、及川思った通り鈍感だな。 「安心して。今すぐ付き合ってとか、答えを聞かせてって言うつもりはねーから」 そりゃあ、及川が「俺も」って即答してくれたらそれが一番嬉しいけど、今は高望みはしない。天城先生との事が解決しない限りは、例え両想いになったとしても前には進めないんだから。 及川がしどろもどろになりながら「え、いつから」と呟いたから、高校の頃からだよって事を教えたら、及川はまた驚愕した様だった。 「え……だってお前、彼女……」 「言い訳に聞こえるかもだけど、ちゃんと自分の気持ちに気づいたのは最近でさ」 及川の事好きだって自覚してからは彼女作ってないぜって白い歯キランって感じに格好つけて言ったら、及川が目を細めた。 「あ、今『怪しい』って思ってるだろ!」 「べつにー」 「マジだから。これは、本当の本当にマジ!」 必死に言ってみても、及川は「ふーん」ってな感じだ。 噂される程酷かった俺の取っ替え引っ替えは、全部及川の事が好きだったからなんだけど──これは理解して貰えるまでに時間がかかりそうだ。まあ俺の自業自得だわな……。 「……にしても、ミスターコンと何の関係があんだよ」 これは──俺がどんだけ真剣に及川を好きかってことを伝えるには最高の質問じゃないか。 「ミスターになれたら、及川が俺に振り向いてくれるかもって思って。だって、及川の恋人に立候補するなら、最低限この大学で一番ぐらいにはなっとかないと、吊り上わないだろ?」 当然の様に言うと、及川は目を丸くして──次の瞬間には顔を真っ赤に染めて「バカじゃねーの」と恥ずかしそうに俯いた。 ──久しぶりに聞いたな、及川の「バカ」。 俺は決してマゾとかではないけど、及川にバカって言われるのが好きだ。及川がそういう軽口を言えるときはリラックスしてる証拠だし、何よりも及川が俺に言うバカには、親愛の情みたいな物が見え隠れしている様な気がして。 「──これも、本当に本当のマジだからな」 「土佐は、俺の事買い被り過ぎだ……」 及川はチラっと俺を見て、けどまたすぐに恥ずかしそうに目を伏せた。その顔は相変わらず真っ赤で、もう、滅茶苦茶に可愛くて可愛くて──。 及川はこんなに綺麗で可愛いのに、どうしてそんなに奥ゆかしくて初なんだ。いつも冷静で凜としてて綺麗な所も、たまにぼーっとしてたり抜けてる可愛い所も、よっしーに過保護な所も、実は優しい所も、芯があって強い所も、全部好き。俺にとって及川は、ミスターになって漸く告白できるレベルの高嶺の花なんだ。そのぐらい、俺にとって及川は輝いてるんだよ。 ──俺、今ならすげーいい詩が書けると思う。 そんなラブソングの歌詞みたいな歯も浮く様な台詞を、俺は及川にそのまんま伝えた。 及川の良さを伝える言葉はまだまだ沢山涌き出てきそうだったけど、及川が先に「やめろ」とギブアップ宣言をした。「恥ずかし過ぎて死にそう」って。 そんな台詞までいちいち可愛くて、俺は心底思った。告白してよかったって。 「ほんと、よかった」 心の声が口に出てしまう。そのくらい、ほっとしてた。 及川は相変わらず俯いてたけど、小さな声で「何が?」と聞き返した。 「俺の告白、少なくともキモがられてはなさそーだから」 「キモいわけ……!」 キモい訳ねーじゃんって顔を上げた及川は、俺と目があって、だけどじゃあどう返事をしたらいいのだろうって感じで戸惑った顔をして、またすぐに視線を下げた。 「さっきも言ったけど、返事は急いでねーよ。今返事しろって言ったら、なんか及川の弱味につけこんでるみたいでやだからさ」 正直、及川にキモいと思われるとは微塵も思っていない。その可能性があったら、どんなに気持ち伝えたくてもこの状況じゃ伝えられない。及川には同性同士の偏見とかもなさそうだし、ある程度脈がありそうだと思ったからこそ、告白に踏み切ったのだ。 今は及川は俺の所にいるしかない状況だから、俺が告白することで及川の行き場がなくなる様な事にならない様に最大限配慮しなきゃならないと思うし、気まずい思いもして欲しくない。 今ある問題が解決したら、及川と付き合いたい……いや、猛プッシュして絶対そうしてみせるけど、今は軽く流してもらったほうがいい。幸い、及川は多分俺の事能天気でバカな奴と思ってるから、そこまで強い威圧感は、与えていないと思う。 「及川に俺の事好きになってほしーっては思ってるけど」 ちょいプッシュくらいなら、いーよな。今の状況利用して恩を売る様なことはするつもりはないけど、ほんの少しでも俺の事意識して欲しい。……あ、気まずくない範囲でな。 「俺、ミスターだし、カッコいいし、及川も惚れちゃうだろーなー」 及川に今はあんまり深刻に考えてほしくなくて、わざとおちゃらけてみせると、及川は漸く顔を上げた。 「お前、相変わらず……」 きっと及川はいつもの様に「バカだな」って言おうとしたんだと思うけど、言わなかった。そして、その代わりに「ありがとう」と言った 及川……。 「いつも通りでいーかんな。俺の気持ちは知ってて欲しいけど、及川が今それどころじゃない事は分かってるし。……色々落ち着いたら惚れさすから、その時は覚悟しとけよー」 俺がまたふざけたら、及川はふっと表情を緩めて、「わかった」と頷いた。 その及川の表情が柔らかくて、俺を見る目が優しくて、また思った。本当に伝えてよかった。及川の答えが聞けるまでにはまだ時間がかかると思うけど、トンネルを抜けた先はきっと明るいだろうから。

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