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貴方はあくまで私のもの

セックスを終えて暫くすると、愛由はまたうとうとし始めた。別荘からここに連れてくるまでの間ずっと寝てたのに、まだ寝足りないのだろうか。 ──無理もないか。お父様の躾はそれだけ壮絶だったのだろう。元々痩せていた愛由がさらにげっそりしたし、一晩で20人に抱かせた事もあると言う耳を疑う様な話も、決して誇張したものではなかったのだろうし。 けど、俺だってずっと我慢してた。土佐に奪われ、お父様に奪われ、その間狂いそうな程嫉妬して、どれだけ愛由に焦がれていたか。愛由に見せたいものが他にもあるのだ。だから、まだ寝てもらっては困る。 「愛由、お風呂に行こう」 準備は迎えに出る前に済ませてある。きっと愛由も喜ぶ筈だ。 リードを取ってふらふらの愛由を案内するのは、この部屋にある扉の向こう。愛由をここに閉じ込めるにあたって、不自由はさせたくなかった。今度こそ大事にすると決めたのだから。 「愛由の為にリフォームしたんだ」 扉の向こうはパウダールームになっている。愛由に着せる衣装を仕舞う場所もある。そして手前のドアはトイレに繋がっていて、奥のガラス戸の向こうはバスタブ付きのシャワールーム。愛由をこうすると決めてから、急いで施工させたのだ。 「気に入った?ちゃんとトイレもお風呂もあるんだよ。2階の寝室でもよかったんだけど、この大きなバスタブが設置できなくてね」 ついさっきまで抱き合っていた俺達は互いに裸で、だからそのままガラス扉を押した。愛由に、中を早く見せたかった。 扉を開けると、つんとするくらい強い芳香が鼻についた。その香りはバスタブの水面を覆い隠さんばかりに敷き詰められた薔薇によるものだ。喜んで感動して俺に感謝する筈の愛由は、喜びや感動や感謝よりもまず驚いた様で目を丸くさせていた。 「これ全部本物……?」 「当然じゃないか。造花なんて安っぽいもの、俺が使うわけないでしょ。前贈ったのと同じ黒薔薇だよ。どう?気に入った?」 「香りがすごい」 「長いこと密閉してたから、ちょっときついね」 「ううん、いい匂い」 「愛由がそう言ってくれるならよかった。少しでも愛由の心の癒しになればいいんだけど」 殊更殊勝な態度で言ってみると、愛由は珍しく俺の事を真っ直ぐに見つめてきた。 「ありがとう、嬉しい」 ドキッとした。柄にもなく狼狽えた。愛由の事は何でも知ってると思っていたのに、この表情は初めて……いや、とても久し振りだ。以前はよく見ていた気がする。施設で出会ったばかりの頃だ。勉強を教える度、成績が上がる度に、愛由は「ありがとう」と言って俺だけに微笑んでくれてたじゃないか。何故、いつから失っていたのだろう。俺が愛由を眠らせて邪な欲望をぶつけた時からか?いや違う。告白した後から?いいや。その後だって、愛由は俺を必要としていたし、素直な表情を見せてくれていた。けど、決して。決して俺を好きになってはくれなかった。そう、そうだ。思い出すだけで腹が立つ。やっぱりあの頃に戻るのは違う。いくら優しくしても、愛由は俺を好きになってはくれないのだから。戻るのなら、やっぱり2度目の出逢いの後だ。監禁し自由を奪い痛みと恐怖を与えて、そうして漸く愛由は俺を好きになった。俺のものになった。愛由を俺のものにし続ける為に必要なのは優しさよりも威厳だ。愛由が恐れ慄く程の威厳がいる。 心の動揺はきれいに胸の内に仕舞って、風呂の中へ誘うためにリードを引いた。風呂に入っている間くらい首輪ごと外して洗ってやりたい気もするが、甘やかすのはまだ早い。首輪は、物理的に拘束するだけでなく、心理的にも自由を奪う。無力感を与えるには絶好の小道具だ。一時的に外すとしても、少なくとも確実に俺 のものにしてからでないと。 リードで引かれるがままの愛由を前に立たせて、白い肌にシャワーを浴びせる。きめ細かく張りのある肌は瑞々しくて、当然のようにシャワーの水を弾く。首回りから腰まで散った赤紫のキスマークが、清純そうな肌とは相反していて実に艶っぽい。 「安物だ」 シャンプーしようとして、愛由の髪の毛があり得ないくらい軋んでいることに気が付いた。愛由は何かしら自分が咎められた様に感じたのか、肩をビクつかせた。 「別荘で使ってたシャンプーだよ。凄く髪の毛が傷んでる。トリートメントだってろくにしてなかったんじゃないの?」 「ごめんなさい」 「愛由に腹を立ててるんじゃないよ。愛由に相応しいものを用意しなかったお父様に腹が立ってるんだ」 もしかしたら、お父様よりも俺の方が『自分のオンナ』の扱いを知ってるんじゃないのか。お父様は詰めが甘い。こんな風だからお父様はあの人に逃げられたんだ。俺なら、絶対に逃がしたりしなかった。 念入りにトリートメントをして、身体も隅々までチェックしながら洗う。骨が浮き出る程痩せてしまったけど、後遺症となるような傷はつけられていない。栄養状態を改善してきちんと手入れすれば、髪もすぐ元通り綺麗になるだろうし、肉付きもじきに戻るだろう。 愛由は華奢だから、薔薇の浮かぶ浴槽の中で俺の股の間にすっぽりと収まっている。大人しく従順な愛由の項に軽いキスを落としながら、水面をゆらゆら揺れている黒薔薇の花房を玩ぶ。 「貴方はあくまで私のもの」 呟くと、愛由の肩が控え目に揺れた。 「黒薔薇の花言葉だよ。俺と愛由にぴったりでしょ?」 「……そうだね」 「それにね、ここに何本の黒薔薇があると思う?」 「分からない」 「99本」 「あ……それも前と……」 「そう、前と一緒だよ。よく覚えてたね、いい子。薔薇を99本贈る意味は知ってるかな?」 「分からない」 「もう。愛由は何も知らないね」 「ごめんなさい」 「教えてあげる。ずっと前から貴方を想ってた。そしてこの先もずっと永遠に貴方を愛し続けます。そういう意味だよ」 99本の黒薔薇は、俺と愛由の関係を如実に表している。愛由が俺を知るよりももっと前から俺は愛由を想い続けていたこと。愛由が俺だけのものでいられる様にずっと守り続けていたこと。愛由が俺のものであるという事実。そして、その愛は永遠であるということ……。 「ねえ愛由、黒薔薇の花言葉は覚えたよね?」 「うん」 「じゃあ俺と愛由に当て嵌めて言ってみてよ」 「……俺は、宗ちゃんのもの」 「そう。そうだよ愛由。もう一度聞かせて」 「俺は宗ちゃんのもの」 「もう一回」 「俺は宗ちゃんのもの」 「そう。愛由は俺のものだよ」 ああなんて甘美な響きだろう……。この言葉を毎日愛由に言わせよう。監禁も首輪も脅迫も痛みも。愛由を俺のもとに縛りつけておけるものは何だってやる。やらせる。 「あんなに強い匂いだったのに、もうこうしないと分からなくなっちゃったね」 言いながら黒薔薇の花房を愛由の鼻先へ。愛由が頷く。 「薔薇の香りには催淫作用があるんだよ」 耳元でそう囁いてから、腰に回していた腕で愛由の身体を抱き寄せ、より身体密着させた。わざと背中に下腹部を押し当てると、愛由は居心地が悪そうに身体を捩ろうとしたけど、腰に回した腕は緩めない。 「人間の鼻はすぐ匂いに慣れて知覚しなくなるけど、匂いの分子は確実に体内に入ってるんだ。つまり、脳には作用するわけ。……ねえ、エッチしたくなってこない?」 愛由の下腹部をまさぐる。残念ながらくったりしたままの中心をやんわりと握って上下に擦る。 「や……」 「うーん、なかなか硬くならないなぁ」 「宗ちゃん、俺、もう……」 「もう勃たないって?だめだよ。愛由は毎日いっぱいヤってたかもしれないけど、俺はずっとお預けだったんだから。あそうだ、愛由に謝らなきゃ。お預けされてる間はたまに別の子を抱いてたよ。けど浮気じゃないからね。ただの性欲処理のためさ。愛由がお仕置きされてイクのと大差ないよ」 愛由のそこは、まさぐり続けてもなかなか硬くならなかった。薔薇の催淫効果なんてたかが知れてるな。そんなのに頼らないで風呂へ入る前にまたお茶を飲ませればよかった。 「愛由が勃たなくてもセックスはできるけど……ねえ、してもいい?いいでしょ?」 愛由の腰の下に手を差し込んで後ろをほぐし始める。聞きながらも、もう俺の中にしないと言う選択肢などない。可愛くてエッチな身体を見せつけて俺をその気にさせた愛由にも責任はあるから。濡れない筈の男の穴なのに、愛由の中からはトロトロと蜜が垂れてきてまるで俺を誘うようだ。 「腰あげて?」 愛由は拒絶せず俺の言う通りにした。持ち上げさせた腰を引き寄せて、勃起した自身を愛由の体内に沈めていく。 「ああ……気持ちいい。俺はやっぱり愛由じゃないとだめだ。愛由じゃないと気持ちよくないんだ……」 腰を振ると、それに合わせて黒薔薇で敷き詰まる水面が揺れる。愛由の吐息にバスルーム特有のエコーがかかってとても色っぽい。 「明日、土佐をここに呼ぶよ」 「っ……え、」 「あいつ、愛由に騙されて勘違いしたままだから、訂正してあげないとね。真実を教えてあげよう。愛由が愛してるのは誰か、愛由は誰のものか、そして、お前はただ愛由に弄ばれただけなんだって事も」 「っ、……そん、な……」 「言えるでしょ?」 愛由の顔を見れる様、愛由の身体をくるっと回す。正面から向かい合ってもう一度問う。 「言えるよね?」 愛由は眉を寄せて今にも泣き出しそうな顔で黙って揺さぶられていたけど、そのまま無言で見つめ続けていたら消え入りそうな声で「言える」と答えた。 「いい子。お風呂上がったら、打ち合わせをしなくちゃね。間違いがあったら困るから。土佐にはきっぱり愛由のこと諦めて貰わないと。愛由は賢い子だから、ちゃんと覚えられるよ。大丈夫、セックスだってすぐに覚えられたんだから」 愛由の下腹部に手を添えて、直接刺激しても萎えたままだったそこが持ち上がりかけている事を指摘すると、愛由の顔が桜色に染まった。 「すっかり前より後ろが好きな恥ずかしい身体になっちゃって」 からかう度に、面白いくらい愛由は顔を赤くして可哀想な程に羞恥に震えた。 「可愛い愛由。俺は恥ずかしい愛由も大好きだよ」 こんなに一途に愛由を愛してるのは俺だけ。永遠の愛を誓うから、大事にするから、守り続けるから。だから早く俺の愛由になって、ずっとずっと俺の傍にいて。

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