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甘やかす 4
休みの日は、あの部屋の大きな風呂に愛由が喜ぶ薔薇を浮かべて、一日中セックスに耽るのが恒例だった。
週に2回メイドにあの部屋の掃除をさせる日は、愛由を2階の昔使っていた寝室に移している。メイドが家にやって来る前に移動させ、メイドが帰った後に元の部屋に戻す。例え外国人のメイドすら、愛由の瞳に映したくはないから。
今日も愛由は2階にいる。けどそれは掃除の為ではない。
「そう、ちゃん……っ、もう、だめ……っ」
ぴゅっぴゅっと可愛いらしい愛由の先っぽから精液が飛ぶ。部屋が変わろうと休日の過ごし方は同じだ。
肩に飛んだ愛由の精液を半分舐め取り、もう半分はイタズラ心で半開きの愛由の口の中に突っ込んだ。顔をしかめて嫌そうにする愛由の口を掌で覆って飲み込む事を強要したら、征服欲が満たされクラクラする程興奮した。その勢いで腰を強く使うと、掌の下から悲鳴にも似た苦しそうな呻き声が洩れてくる。
「ちゃんと飲んだの?偉いね」
声が出せるということはそういうことだ。口を塞ぐ手を外していい子いい子と頭を撫でてやる。愛由は酸素を求めて喘ぐように息を吸っていた。少し強く押さえすぎたのかもしれない。けど、顔を真っ赤にして涙目になっている姿は嗜虐心を煽ってくる。
もう不用意に殴らないと決めた。いつもぼんやりしている愛由から反応を引き出す方法は殴る以外にもあるということも知っている。けれど……俺は好きなのだ。力で相手を捩じ伏せ征服し支配する事そのものに興奮を覚える。だから、葛藤はあれどその様な行為を全てやめてしまうのは難しい。俺は多分、サディストだ。
自分よりも明らかに身体の大きな強い大人たちに殴られ蹴られ、意思を踏みにじられて無理矢理性行為をさせれていた動画の中の愛由に強く惹かれたのは、俺が元々持っていた性癖だったのか、それとも愛由の動画をきっかけにそうなってしまったのか……。あの動画を見始めた時俺はもう18だったから、元々そういう気質があったと見る方が恐らく正解だろう。けど、俺からサディズムを引き出し自覚させたのは間違いなく愛由とお父様だ。愛由とお父様が俺の性癖を歪めたのだ。そうだとしたら、遠慮する必要などどこにもない。そもそも愛由は俺のものなんだから、セックスでどんなプレイをするかだって俺の自由だ。
「次は潮吹きしよっか。それも飲んでみたいでしょ?」
愛由は涙目のままぶんぶん首を横に振った。相変わらずセックスの時は表情が豊かだ。震える程の快楽とスパイス程度の苦痛を絶え間無く与えているのだから、ぼんやりなんてしていられる筈もない。
ローションを愛由のイったばかりのペニスの先っぽに塗ったくり掌で摩擦すると、愛由は「やめて」と言って俺の手を妨害してきた。以前なら秒でビンタを飛ばしていたことだろう。
「はい2回」
殴る代わりにそれを告げると、愛由は息を詰まらせ邪魔な手から力を抜いた。
「さっきもやだって言ったもんね。だから2回。ダメじゃないか、俺に逆らっちゃ」
愛由の表情は一瞬で強張り凍り付き、赤かった頬から血の気が引いていく。
2回というのはお仕置きの回数だ。お仕置きと言っても、前みたいに痛みを与えるものではない。快楽を与えるものだ。
俺が満足するまでセックスをした後、意識も飛びそうな愛由に更にディルドを仕込む。そうしてお仕置きの数だけイかせる。今やっているのはそんな単純で優しいお仕置きだ。いつも愛由は俺とのセックスの段階で出すものは空っぽにさせられているからドライオーガズムでイって貰う事になるのだが、何も出ないとなると本当にイってるのか確証がない。本当は身体の痙攣や穴の締まり具合の他、時に潮吹きもするのでイったかどうかは一目瞭然なのだが、白いものが出ないからと言って、カウントされた回数なんて関係なしに俺が満足するまで愛由に快楽を与え続けるのだ。俺が満たされるよりも先に愛由が失神する事が殆どなのが少々不満だが、苦痛と快楽の狭間で喘ぐ愛由の姿のなんと扇情的な事か……。そして嗜虐心やら征服欲やらもまとめて気持ちよく満たしてくれるから、昔やってた鞭打ちと同等レベルのエクスタシーを得る事ができる。
このお仕置きはある種の人間からしたらご褒美の様な物だろう。けど、これは殴っていた時から分かっていた事だが愛由にはマゾヒズム的傾向が全くと言っていい程ない。大なり小なり何らかの性的倒錯を引き起こしていてもおかしくない様な経験を重ねてきた割に、愛由の性癖は至ってノーマルなのだ。だから、愛由にとってはこの新しいお仕置きもあくまでただのお仕置きであり、ご褒美には到底なり得ない。本人にとっては可哀想だけど、俺は愛由のそういうまともな所もかなり気に入っている。
また掌をするすると動かすと、愛由はぎゅっと目を瞑った。色白の手が強くシーツを握り締めているせいでもっと白くなっている。
ああ、興奮する。本当は嫌なのに、苦しいのに嫌と言えずじっと耐えている姿。支配され征服され略奪され尽くしている姿は本当に堪らない……。
程なくして小さな悲鳴と共に出てきたサラサラの液体を指にたっぷりと纏わせ、愛由の口元に近づける。
「舌出して全部綺麗に舐めてよ」
辛そうに眉を下げた愛由は、腹を出し服従の姿勢をとった犬の様に従順に俺に従った。真っ赤な舌を出し、言われた通りに俺の指をペロペロ舐める。愛由の中に埋めたままの自身が震える。強い劣情に耐えられなくなり、再び腰を動かし始めた。愛由の足を持ち上げより深く挿入させる。ああ、溶けてしまう……。
お前は俺のものだ。お前は俺のものだ。お前の全ては俺のものだ。
愛由の中に自身を打ち付ける度に、楔の様にこの言葉を唱える。愛由は、───酷く悲しそうな顔をしていた。
そんな愛由の表情に気付いたのは、本当はかなり後になってからだ。セックスを終え、お仕置きも終えた後になって、ふと何の脈絡もなくその時の愛由の顔が浮かんできた。
性的興奮が理性を上回った時、俺は獣になる。
またヒートアップしてしまった。こんなに大切な愛由に悲しい顔をさせてしまった……。けれど、興奮すると止まらない。人が食べたり眠ったりするのをやめられないのと同じだ。それくらい、俺に深く根差した性癖。やめられない以上、愛由には理解してもらわなければならない。こういうプレイを受け入れて貰わないといけない。けれど俺の性癖の業の深い所は、愛由の嫌がる顔に興奮するところだ。恐らく、今のプレイに愛由が慣れて反応が薄くなったら、俺はもっと過激な事をせずにはいられないだろう。今の扱いに慣れた愛由の顔でさえ苦痛に歪ませる程の酷い事をしてしまうだろう。前に暴力がどんどんエスカレートしていったのと同じだ。
快楽や屈辱による苦痛を極めた後は、また肉体的な痛みを与え初めてしまうかもしれない。愛由が従順である以上暴力が必要ないことは充分わかっている。けれど、理性とは別の領域で、獣の性欲を満たすために殴り、鞭を振るい、吊し上げてしまうかもしれない。もしそうなった時、愛由は俺を理解してくれるだろうか。痛みと苦痛を甘んじて受け入れてくれるだろうか……。
『ありがとう宗ちゃん』
愛由から真っ直ぐ向けられた感謝の言葉。想い。感情。
俺が殴るようになっても、またあんな風に俺を見てくれるだろうか……。
愛由は例のごとく失神している。そんな愛由に何を語りかけても無駄だ。分かっている。けれどだからこそ言える事もあって───。
「どうかどんな俺でも受け入れて欲しい。優しく包み込んで、愛して欲しい……」
返事はない。いいのだ、それで。こんな弱い姿は愛由に見せられない。俺を愛せと命じるのではなく、愛してくれと請う姿なんて、とても……。
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