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決壊2
前田が誘い、黒田も同席することになった。
場所的にこの居酒屋には教師連中がよく来ていて、黒田も時々寄っていたようだ。
……でも、まさか一緒になるなんて。
透の不安をよそに、黒田を交えても、当たり障りなく談笑して過ごせた。
会話は終始、子供たちやクラスの話になる。
逆に前田達がいて助かったかもしれない。
「お先に失礼します」
だが、帰り道まで黒田と一緒は避けたかったので、透は一足先に居酒屋を出た。
上田は残念そうにしていたが「先生を困らすな」と、前田に小突かれていた。
黒田は「中山先生、お疲れ様です」と、いつもの人当たりの良い微笑みを浮かべて透を見送った。
「……ふぅ」
何事もなくてよかった。ほっとした透は、帰路を急いだ。
深夜になると言っていたし、彰広はまだ来ていないだろうが、早く家に帰りたかった。
透がマンションの前まで着いたとき、
「中山先生」
ふいに呼び止められた。
「!?」
振り返る間もなく、背後から湿った布で口を塞がれた。
「んんぅ……ッッ!!」
慌ててもがくが、薬品の香りを深く吸い込んでしまい、抗う力が抜ける。
「……ん……ぅ」
後ろから羽交い絞めにしてくる相手に、透はぐったりと体を預けた。
───彰広……っ!
薄れゆく意識の中で、透は彰広の名を呼んだ。
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