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運命のひと3
爽やかな笑顔の裏に、どこか淫靡な、暗い闇を感じるようになった。
そして、それは黒田が必死に抑えつけ、忘れかけていた欲望を掘り起こした。
黒田が隠してきたものが嗜虐性ならば、透が醸し出しているのは被虐性だった。
黒田は透に話しかけるときに、ほんの少しだけ本性を混ぜた視線を向けると、面白い程に透は反応した。
誰にも知られないように、押し殺し、忘れるように努めてきたのに……
透によって暴かれてしまった。
透には決まった相手はいないようだった。時折、寂しげで傷ついたような目をしている。
彼は自分と同じように、相手に傷つけられ、一人でいるのだろうか。
運命なのかもしれない、と思った。
黒田は透に惹かれていく自分を感じていた。透を見かければ、つい視線で追ってしまう。
声をかけ、欲望をのせた目で見れば、気まずそうにして目を伏せる。
嫌そうなそぶりもたまらなかった。
運命の相手だと思ったのに……。
あの路地裏で、あっという間に黒いスーツの男に透を奪われてしまった。
透に忘れるようにと言われ、了承した。
自分を偽り、仮面を被るのには慣れていた。
慣れていたはずなのに。
透を見るたびに、たまらなくなる。
誰か他の男のものだと分かっても、それが尚更、黒田の欲望を煽った。
今日、しゃがみ込んだ透の首に赤い鬱血の痕を見つけた。
もう何年も被り続けた仮面に亀裂が走る音がした。
───もういっそ、壊してしまおう。
黒田は本性を隠すのも、欲望を抑えつけるのも、仮面を被ることもすべてやめにした。
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