14 / 21

運命のひと3

  爽やかな笑顔の裏に、どこか淫靡な、暗い闇を感じるようになった。 そして、それは黒田が必死に抑えつけ、忘れかけていた欲望を掘り起こした。 黒田が隠してきたものが嗜虐性ならば、透が醸し出しているのは被虐性だった。 黒田は透に話しかけるときに、ほんの少しだけ本性を混ぜた視線を向けると、面白い程に透は反応した。 誰にも知られないように、押し殺し、忘れるように努めてきたのに…… 透によって暴かれてしまった。 透には決まった相手はいないようだった。時折、寂しげで傷ついたような目をしている。 彼は自分と同じように、相手に傷つけられ、一人でいるのだろうか。 運命なのかもしれない、と思った。 黒田は透に惹かれていく自分を感じていた。透を見かければ、つい視線で追ってしまう。 声をかけ、欲望をのせた目で見れば、気まずそうにして目を伏せる。 嫌そうなそぶりもたまらなかった。 運命の相手だと思ったのに……。 あの路地裏で、あっという間に黒いスーツの男に透を奪われてしまった。 透に忘れるようにと言われ、了承した。 自分を偽り、仮面を被るのには慣れていた。 慣れていたはずなのに。 透を見るたびに、たまらなくなる。 誰か他の男のものだと分かっても、それが尚更、黒田の欲望を煽った。 今日、しゃがみ込んだ透の首に赤い鬱血の痕を見つけた。 もう何年も被り続けた仮面に亀裂が走る音がした。 ───もういっそ、壊してしまおう。     黒田は本性を隠すのも、欲望を抑えつけるのも、仮面を被ることもすべてやめにした。

ともだちにシェアしよう!