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病弱くん、お仕事を見学しに行く/その3

       前菜のサラダを食べた後、運ばれてきたのは合計で七人分のパスタだった。しかもそのうち啓太くんが食べる予定の四人前は全て通常の1.5倍の大盛りだ。  僕は信じられなくて思わずこーくんと雅人くんの顔を交互に見ると、こーくんはいつも通りニコニコと、そして雅人くんは苦笑しながら、うんうんと頷いた。 「わーい! いっただっきまーす!」  待ちきれないと言うように啓太くんが一番に声を上げ、そのままむしゃむしゃとパスタを食べ始める。僕ら三人は一緒に「いただきます。」と手を合わせた。  なんだか、だんだんこの三人の空気が掴めてきた気がする。 「かずくん、多かったら俺が食べるから、無理しないでね。」 「うん……あ、ありがと……。」  いつも通りに優しいこーくんは、いつも通りに優しく微笑む。 「え! 俺も食べたーい!」  僕の目の前でむしゃむしゃとパスタを頬張る啓太くんが言うと、こーくんがキッと彼を睨んだ。 「ダメ。かずくんのご飯は俺が食べるから。」 「なんで! さっきからこーくんが意地悪だよぉ〜!」  唇を尖らせてムスッとする啓太くんは、この中で一番年下のような立ち位置のようだ。その弟に噛みつかれるこーくんは、二番目。 「はいはい、お前はそんなに食うもんあるんだからもういらないだろ〜?」  そして宥める雅人くんこそ、一番上のお兄ちゃんだった。きっとそのようにこの三人の関係は成り立っているのだと感じた。   「そうだ。お前、最近山下さんのこと困らせてないか?」  雅人くんが思い出したように言った。こーくんは自分が食べているオイルソースパスタを一口分フォークに巻き付けると、僕に「かずくん、あーん♥」と見せてきたので人前で恥ずかしく思いながらも口を開けて、いただいた。意外と量が多くてもごもごと口の中を動かして食べているが、なるほど、まだこってりした食べ物が食べ慣れない僕でも食べやすくて美味しい。 「べっつにぃ〜。俺、いつも良い子だけど?」  いたずらっ子のような笑みを浮かべるこーくん。雅人くんをチラッと見てから、僕の口の端についているソースを見つけると、僕の顎を持ち上げ、顔を近づけてぺろりとひと舐め。 「っ……!!」  ビックリしてサッと彼の手から逃れると俯いて目をギュッと瞑った。 「おいこら……。ったく、山下さんも大変だな。」  雅人くんの呆れたような声が聞こえてくる。すると、啓太くんが「いいなぁ〜俺も一口〜!」と騒ぎ出した。  山下さんが困っていないかだとか、こーくんが良い子だとかは僕にはよくわからないけど、毎朝二人が言い合いをしていることは知っている。 「あの人、また別のモデルのマネージャーやってくれって言われてるらしーぜ? お前専任ってわけじゃなくなるかもしれないんだし、あんまり手間かけさせんなよ。」 「ふーん。いっそあと2、3人くらい掛け持ちしちゃえば良いのにさ。あの人、大変な仕事ばっかり貰ってくるんだよ。」 「いやいや……それはさぁ……。」  ツーンとした態度のこーくんに、雅人くんはまた苦笑する。僕は完全に啓太くんを無視して話している二人の会話を聞きながら、「僕の一口あげるよ。」と涙目の啓太くんに皿を差し出した。しかし啓太くんは僕の言葉ににっこりとはにかんでも皿に手を出さず、「あーん!」と口を開けて、僕からの一口を待っているようだった。仕方がないので一口分のパスタをフォークに巻いてあげようとすると、横から腕が伸びてきて、こーくんが「お前、さっきから生意気。」とだけ啓太くんに言うと、そのままパクリと食べてしまった。 「んにゃあああ! けち! けちけち!」 「あはははっ! かずくんのパスタと間接キスは誰にもやらん!」  じたばたと暴れる啓太くんと、悪魔のような顔で嘲笑うこーくん。こーくんはあまり真剣に取り合っていないようだが、僕は先程の撮影中に『俺はあいつの性格はともかく、才能は認めている。マネージャーとして、あいつの才能を潰してしまいたくなかった。』と言っていた山下さんの言葉を思い出した。彼はいつも無表情であるか、怒っているかだけど、きっとこーくんに対する気持ちは本物なんだろう。だから、色々と手を焼いてくれているのだ。それを、こーくんはどう思っているのかな。彼は果たして本心を口に出しているのだろうか。きっと雅人くんも山下さんのことをわかっていて、聞いていたのだ。 「ねえねっ、今度こーくんがお仕事の時に二人の家に遊びに行っても良い?」 「だめ。」 「え……。」  断固拒否のこーくんに、気軽に、いいよ、と答えようとしていた僕は小さく言葉を漏らした。 「じゃあこーくんがいる時!」 「むり。」 「うーん……、じゃあかずくん、今度は俺の撮影スタジオに遊びに来てよ!」 「それもダメ!!」  こーくんの目がカッと見開かれる。 「なんでよぉ〜! 俺もかずくんと仲良くしたい〜!」 「だめだめだめ! 殺す!!」  物騒な言葉が飛び交い始めると、雅人くんがまたため息をついた。 「別にとったりしないよ〜? かずくん、俺の話ちゃんと聞いてくれるしーぃ、優しいからお友達になりたいのー!」 「やだ! ムリ! てゆーか、啓太とかずくんじゃ、絶対相性合わないから。」 「そんなん仲良くなってみないとわかんないジャーン!」  わあわあと、啓太くんはさっきからよく話しているなぁと思ったら、手元を見るとすでにパスタを三皿分を完食していた。彼は、その恐るべき胃袋には似つかわしくない細身の身体である。それに比べて自分の手元を見ると、まだ三分の二ほどの量が残っていた。僕は本当に食べるのが遅い。恐らく、今までひとりきりで食べることが多かったからだと思う。ゆっくりゆっくり好きなペースで食べていても、誰も待たせることもないから。こーくんはいつも僕が食べ終わるまで色々な話をして待っていてくれているが、このように他の人たちといる場ではそうはいかない。そう思うと、だんだんこの場が恐ろしく感じてきて、フォークを握る手に汗が滲んできた。 「かずくん、ゆっくり食べなよ? 俺もまだいっぱい残ってるし。啓太はマジで大食いだから、このペースで食べてもまだ頼むからね。」 「んごっ、もごもごごごっ! んももも、んもんも、んもごごおおおおおおおーーー!!」 「う、うん……そうなんだ……?」  面白そうに笑いながら啓太くんを見るこーくん。すると啓太くんはパスタを頬張りながら一生懸命何かを話してくれているのはわかるけど、何を言っているのかさっぱりわからない。でも目が合ったので、僕も一生懸命頷いた。 「はははっ、無理して返さなくても良いですよ? 多分、まだまだ食べるぞー的なことを言ってると思いますけど。」  僕を見て、雅人くんが面白そうに笑っている姿に、苦笑した。ふと、こーくんの皿を見ると、まだパスタが随分と残っていた。いつもこのくらい時間が経つともっと減っている気がする。雅人くんはもうほとんど完食していた。もしかして、さっきのも今も、ずっとずっと気を遣ってくれているのかなぁ……。   「かずくんまだ食べてるね? じゃあ俺、ピザ追加でー! マルゲリータと〜、ゴルゴンゾーラの蜂蜜ソース添えのやつ〜! XLサイズ!」  僕のお皿を確認した啓太くんは、近くを通った店員さんに元気よく手を挙げて大声をあげた。店員さんは啓太くんに苦笑いをしつつ、「かしこまりました。」と言って奥に下がって行った。 「ま、まだ食べるの……?」 「うん! まだまだ食べれるー! こいつらいつも食べるの早いからさ、かずくんゆっくりだし、俺も心置きなくまだまだ食べれて嬉しい〜!」  無邪気な笑顔に、彼はずーっと本心で話してくれていることがひしひしと伝わる。だからこそ、彼からもらう言葉がとても嬉しい。 「それは良いけど、金のことも考えろよな……。」  雅人くんの顔が少し青くなっている。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。 「だいじょーぶだいじょーぶ! またお姉さんとかお兄さんにお小遣い貰っちゃうし〜!」 「それ! それがいけないんだって何でわかんねぇかなぁ……!」  なんだか黒い話が始まった気がする。 「こ、この後なんだけどさ、打ち合わせが夕方までかかっちゃいそうなんだ。待たせちゃってごめんね?」  二人の話を遮ってこーくんが僕を見た。 「あ、ううん……お仕事なら仕方ないし…………打ち合わせがそんなにかかるなんて、モデルさんも大変だね……?」 「そんなぁ、小説家に比べたらねぇ……モデルなんて、啓太みたいなバカでもできちゃうしさ。でも、かずくんが応援してくれるなら、俺頑張れちゃうよ!」 「ちょっと、そこ! 俺の悪口が聞こえた気がしたんだけどー??」  すると、店員さんが「お待たせしましたー!」と言って啓太くんが注文した大きなXLサイズのピザをテーブルに並べる。一応人数分の取り皿を持ってきてくれたが、誰も皿に手をかける人はいなかった。つまり、もう誰も、彼の邪魔をする者はいなかったのだ。 「わぁ、美味しそう! みんな食べる?」 「いや、いいから、お前食えよ……。」  雅人くんが苦笑いをしながら、ピザの皿を啓太くんに寄せる。 「わーい!!」  啓太くんはこの微妙な空気にも気つかず、嬉しそうにピザに被りついた。  僕も半分ほど食べるとお腹が膨れてきてしまって、手が進まなくなった。 「もうお腹いっぱい? もらっても良い?」  隣のこーくんが、僕の皿の中を覗き込んだ。 「え、でも……。」  と、彼の皿を見ると、いつの間にか見事に完食してしまっていた。 「かずくん、俺がオススメって言ったやつ選んでくれたでしょ? 食べたいなぁ〜♪」  僕に身体を擦り寄せてくるこーくんに、雅人くんの視線が痛い。僕は真っ赤になりながら、「じゃ、じゃあ……お願いします。」と言ってパスタの皿を彼の方に寄せた。 「かずくんが全部あーんして食べさせてくれると嬉しいなぁ……?」 「〜〜〜っ……それは、あの……っ。」  低い声で、僕の耳元で囁く。彼は僕の反応を楽しんてんいるようで、その後に小さく「ふふっ……。」と笑った。 「ったく、いい加減にしろって。」 「わかってるよぉ。でもかずくん可愛いんだもん。普段隣に座って食べないもんねぇ。俺の隣でむしゃむしゃしてるかずくんも、恥ずかしくて赤くなってるかずくんも、とーっても可愛いよ〜♥」  僕を抱きしめると、頬撫でて、こめかみに何度もキスをする。 「ちょっ……こーくんっ……。」  僕が少し身じろぐと、彼はますます僕を両手できつく抱きしめて逃がさない。そして僕の首元に顔を埋めると、顔を擦り付けた。 「あ〜〜〜午後の仕事行きたくない〜〜〜かずくんから離れたくないよぉ〜〜〜!」 「あうっ……、あの、苦しいっ……。」 「ほらほら、やめてやれってば。」 「あいたっ。」  雅人くんがテーブルの下でこーくんの足を踏む。彼は悲しそうな顔をして僕から離れていった。普段なら心が痛むけれど、この場では雅人くんという強い味方がいてくれて、僕も心強かった。 「ねぇ、デザート何にする!?」  そして最強にマイペースな啓太くんは、ピザを二枚、ひとりでサラッと完食すると、さらにメニューを開いて楽しそうにデザートを選んでいた。                 「ふぃいーーー、まあまあ食べたかなーーー。」  隣でお腹をさする啓太くんが悪魔に見える。 「じゃあ俺、そろそろ行かなきゃだけど、かずくん俺がいなくてもいい子で待っていられる?」 「え、……はい……。」 「そっか、……そうだよね。かずくんはいい子だし、俺がいなくても大丈夫なんだよね……。」  謎のネガティブモードに突入してしまったこーくんに、どうしたら良いのかと頭を巡らせる。  僕らはレストランを後にして再びスタジオに戻ってくると、今度は先程まで雅人くんが使っていた控え室がまだ空いているようだったので、そこにお邪魔させてもらった。そこには雅人くんが手をつけずにいたクッキーや焼き菓子が置いてあって、それを見つけた啓太くんが「やったぁ! おやつだー!」とはしゃいでいた。  そして時刻は13:20。もうこーくんは山下さんとの約束の時間が近づいてきていて、だんだん元気が無くなっているのがわかった。僕と雅人くんはこーくんを見送ろうと、席を立って入口にいた。こーくんは何とか部屋から出たけど、未だにここを立ち去る気配がない。 「……行きたくない行きたくない行きたくない! 俺をひとりにしないでよぉ〜!」  とうとう何かが爆発したこーくんは、大声で騒ぎ始めた。 「駄々捏ねんな。啓太、お前も何とか言ってやれ。」  冷たく突き放す雅人くん。その後ろでは、部屋の中で啓太くんがむしゃむしゃとお菓子を食べていた。 「んぐー? さっさと行って、さっさと終わらせて来ちゃいなよー!」 「くそっ、お前らは良いよな! これからこの密室で数時間、かずくんと一緒の空気を吸っていられるんだもんな!」 「はぁ? 何言ってんだよ、お前が、先生がひとりじゃ可哀想だからって頼んだきたんだろ?」 「でも! かずくんと同じ建物にいるのに姿も見えない、触れもしないなんて……あんまりだっ! ねえかずくん! もう俺と一緒にお家帰ろうよぉ〜〜〜!」  膝から崩れ落ちると、僕の足にしがみつくこーくん。涙をぽろぽろと流していて、僕はあわあわと彼を引き剥がそうと抵抗した。 「ほ、ほら、お仕事あるんでしょっ、頑張ってきて?」 「うん、かずくんが応援してくれるなら頑張るぅ〜〜〜!」  彼は立ち上がって涙を拭いた。しかしその瞳にはまだいっぱい涙が溜まっていて、今にも零れ落ちそうだ。 「じゃ、じゃあ、お仕事行く前にべろちゅーしても良い……?」 「えっ、えぇっ……?」  小さい子供のようなあざとい顔で見られると、強く断れない僕。しかし、今日は違った。 「ダメに決まってんだろ。こんな所で何考えてんだ。」  とても常識ある雅人くんが、味方についてくれているのだ。 「じゃあ、手ぇ舐めさせて!」 「ダメだ。」 「じゃあ足!」 「死ね。」  すっかりノックアウトされたこーくんは「うぅぅ〜……。」とまた泣き出した。 「じゃあ真面目に、ぎゅうしても良い……?」 「そ、それなら……?」  もう僕の感覚が麻痺しているのかもしれない。でも雅人くんも何も言わないし、キスとか手や足を舐めるとか、そんなことをされるよりはマシだ。ふと、もしかしたら計算していたのかな? と思った。  こーくんはとても嬉しそうに笑うと、僕をすっぽりと大きな身体で包み込んだ。そして髪や首元に顔を寄せる。 「はぁ、はぁっ……かずくんの匂いっ……♥」  こーくんがはあはあと息を荒らげて、スゥハァスゥハァと僕の匂いを堪能している。その様子に「こりゃだいぶ重症だわ……。」と雅人くんの呟く声が聞こえた。   「あ、宏輝〜!」  すると、廊下の奥から若い女性の声がした。僕が顔を上げて見ると、とても細くてスレンダーで、でも小顔で可愛らしい女性がこちらに歩いてきている姿が見えた。その顔に少し見覚えがある気がした。 「あぁ、Yukiちゃん。」  こーくんは僕から身体を離すと彼女を見て挨拶し、すぐに僕を見ると少し嫌そうな顔をしていた。  そして、Yukiちゃんという名前でピンときた。以前家にあった雑誌で見た、こーくんと一緒に出ていたモデルさんだ。そういえば、秋の大きなカップル特集も彼女と一緒とかなんとか言っていたような……。 「も〜探したよ? 宏輝が全然来ないって山下さん怒ってるんだからぁ。早く行こ?」  彼女がこーくんの腕に絡みついて見上げる。何だか、露出の多い服のせいか、胸を押し付けているように見える。彼女は雅人くんを見ると「おひさ〜!」と微笑みかける。少し微笑むだけで、女神が笑いかけているようだ。雅人くんが「久しぶり。」と短く返すと、部屋の中から啓太くんが「あ、Yukiちゃ〜ん! 久しぶり〜!」と大声を出していて、その様子に彼女は笑って返す。  こうして美男美女が並ぶと、やっぱり僕は浮いているなぁ。モデルさんばかりに囲まれて、逃げ出したい衝動に駆られ、一歩、二歩と後退りした。  「俺行きたくないんだけど……。」  こーくんが心底嫌そうな顔をして、助けを求めるように僕を見る。 「もう見つかっちまったんだし、早く行けよ。これ以上人様を困らせるな。」 「うぅぅ……かずくん、俺行ってくるよ……。」  捨てられた子犬のような目で僕を見るこーくんは、僕に何かを求めているようだった。 「え、えっと…………ちゃ、ちゃんとここで待ってるから……。」  何て言ったら良いのかと、もごもごと口を動かすと、目の前の彼の顔がパッと輝いた。 「うん! 俺、頑張ってくる! じゃあ行ってきまーす!」  機嫌を直してくれたのか、僕にぶんぶんと手を振りながらその場を後にするこーくんと、それにぴったりとくっついて歩くYukiと呼ばれた女性。   「ねえ、今日この後ご飯行かなーい?」 「無理。」 「宏輝冷たーい。いっつも無理って……なんでよぉ〜。しかもさっきの人誰ー? あの人たちとご飯行くの〜? 雅人くんとか啓太くんも一緒ならあたしも連れてってよぉ〜!」 「さっき昼食ったからもう今日は行かねーよ。てか、お前は誘わないし。」 「えぇ〜、宏輝のけち〜!」    すると、ふと、彼女が振り返った。そしてほんの一瞬、目が合った。しかし、次の瞬間には視線は雅人くんに移り、微笑んでひらひらと手を振っていた。隣を見ると、雅人くんは少し微笑むだけで、「さ、厄介なのもいなくなったし、戻りましょ。」と、さっさと部屋に戻ってしまった。僕は何となく、こーくんと彼女が突き当たりを曲がって姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を眺めていた。                   「そういえば、あいつ言ってたよな。次の仕事、Yukiちゃんと一緒だって。」  部屋に戻るなり、雅人くんは席に座って啓太くんに話しかけていた。 「んぁ? そーだっけ?」  啓太くんはクッキーや焼き菓子を食べ尽くして満足したのか、ソファにうつ向けで寝っ転がって、スマホを弄っていた。 「いやぁ、あれはもう完全に彼女面してるよな〜。」 「あははっ、ウケる! Yukiちゃんじゃこーくんはムリムリ〜! かずくんには勝てないよぉ〜!」  啓太くんは、今度は仰向けになって、天井を仰ぎながらお腹を抑えて笑っている。足をバタバタとさせて、何だか喜んでいるようにも見えた。 「でも、あの女には気をつけてくださいね。セレブだからって、最近出てきたくせにだいぶデカい顔してんすよ。」  雅人くんが、隣に座った僕に言った。 「え、僕が……? い、いや、僕なんて相手にするまでもないんじゃ……。」  そう、僕なんて彼女に勝てる要素はひとつもない。見た目も、しかも性別も、やっぱり男性より女性の方が良いに決まってるし、何よりそれが一般的で普通だ。                  

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