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第10話 け
「見ててもらえよ、カレシに、さ!」
有安に伸びる手を凝視した。天使の羽を捥ぎ取ろうとする悪魔の手に見えた。
「有安さん!有安さんを放せよ!ありや・・・・」
高宮の腕は男達に背中の後ろに押さえられ、肩を下方に押され、座らせられる。
神津は眉根を微かに動かし、高宮を睨んだ。そして値踏みするように上から下までじろじろと見る。にやりと笑ってから有安を縛るテープを剥がしだす。
気が変わってくれたのだろうか。ありがたいと思いながら、安堵の溜め息を吐く。有安の白い肌に赤い痕が残っている。
「・・・・神津・・・・・・?」
有安も驚いた表情だった。
「神津さん・・・・?」
高宮を押さえつけている男達も疑問符を浮かべている。
「服を脱げよ。有安は見逃してやる」
神津が笑う。楽しそうに。
有安が高宮を見た。高宮は落ち着けるように笑みを返す。神津が押さえつける男達に視線を送り、高宮は解放される。それから、着ていたロングティーシャツを脱いで有安に投げた。素肌が露わになる。
「・・・・・運動でもしているのか」
目を細めて神津が訊ねる。視線は神津のウェストに行く。
「バスケットしてました」
手を止めると神津が吐き捨てるように言った。
「下もだ」
「え・・・・・」
有安は部屋の隅で震えていた。それを横目で見ると、がくがくと震えだす手を動かした。
「脱げ。全部だ」
神津は有安に使ったテープを拾い上げる。真っ赤な毒々しい色のテープが反射して光る。カーゴパンツが踝の方まで下がった。トランクス一枚の格好に、周りの視線が集中する。
「それもだよ」
高宮の手は止まった。額に汗が浮かんで、そして滴る。
「はやく!」
怒鳴り声にびくりと肩が震えた。神津は無表情のまま高宮を見つめる。
「・・・・・ごめん・・・・・」
潰れた、掠れた、震えた声が聞こえる。小さく。微かに。それが引き金のように、高宮はトランクスを脱いだ。
「来い」
神津に手招きされる。従わなければ、有安が・・・・と思うと身体が勝手に動いた。神津の視線が有安に向く。
「そいつも」
神津がほくそ笑む。
「話が違う!」
部屋の隅で小さくなっている有安のもとに這いずるように駆け寄った。有安に伸びる無骨な手を振り払う。
「有安さん!逃げてください」
引き攣った笑みを有安に向ける。高宮の影が有安を覆った。
「けい・・・た・・・・」
――名前呼ばれたの、初めてだ・・・・。
不思議と冷静でいられた。有安の後を追おうとする男達の服に縋りつく。廊下を通せんぼするように塞いだ。何度もこちらを振り返る有安は泣いてはいないけれど、怯えきっている。投げ渡したロングティーシャツを被るように着て、鍵を慌てて外し、視界から消えていった。全て終わったような気がした。安心感。けれど、それはすぐに打ち消される。
「・・・・・・よくやるじゃねぇの・・・・。どうなるか、分かってんのか」
冷めた低い声。振り返った瞬間、頬に衝撃が走る。床に殴り倒されたと気付くのは、衝撃が痛みに変わってからだった。
ビリビリビリビリ・・・・
不吉な音がした。真新しい真っ赤なテープが剥がされる音。
「押さえてろ・・・・・っ!」
「いゃぁつ!痛い・・・・・!」
両足とも大腿と脛を密着するよう折り曲げられたままテープで纏められ、両手は頭上で一つに縛られる。
足を上げさせられ、双丘の中心部と陰部が天井を向くように曝け出される。高宮は羞恥からの熱に顔を赤らめ、床についた背中は汗でべたべたとする。マット運動のときのようだけれど、床に背骨が当たり痛い。
「・・・・・綺麗な色だな。ここじゃ珍しい初モノだ」
目を強く瞑り、唇を噛む。
神津が縮こまる陰部を摘まむ。自分以外で触ったのは神津が初めてだ。折られるのではないかという恐怖に、身体を包む熱が冷める。
「突っ込まれるのは、初めてか?」
高宮はこくこくと何度も頷いた。
「有安にやるのと同じ要領だ」
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