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第27話 は

「・・・・・ごめんね。二度も」  有安からふと呟かれた言葉に目を見開く。胸が重くなる感覚に息がしづらくなる。戻ってこない日々が脳裏に浮かんで、拳を強く握りしめた。テレビに映る首相も、もうあの頃とは違う。 「その話とは・・・・・関係ないっ・・・・」  衣澄は膝を抱くように背を丸め、肩を震わせた。眉間に皺が寄り、唇を強く噛み締める。有安はその肩を抱いた。 ――どうしてまた同じ会話を繰り返すのだろう。  有安は今の自分達とリンクする、同じことばかりを言う画面の向こうの首相を見つめた。 「ただいま」  暫く流れていた沈黙を破ったのは間の抜けた高宮の声だった。大きな湿布の貼られた顔。鼻の通気性がよくなりそうな匂いを漂わせている。 「骨折してないって。よかった」 「そっか!よかった」  有安の笑顔に、ほっとする。高宮に見せる顔が演技ではないと分かっているから。 「それじゃ、クレープだ」  ね、と有安は衣澄を見た。

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