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第35話 め
*
授業が終わった後、衣澄はノートを鞄に詰めてコンビニに寄った。コピー機のところに来て、今日の科目のノートをコピーした。そしてスポーツドリンクも買っていった。学校のコピー機は性能がよくない。
見慣れた部屋の前に来てインターフォンを鳴らす。反応のない扉を開け、一足多い革靴に気付く。衣澄の顔はいつの間にか顰められている。
部屋に入れば、聞こえたのは2つの寝息。
「・・・・・・薫・・・・・・・っ」
看病しながら寝てしまったかのような柳瀬川の格好。枕元には自分が買ってきたものとそっくり同じスポーツドリンク。
「・・・・・・・ん・・・・」
ぱちっと目が開いて、身体を起こす柳瀬川。ぼーっとした表情から一変して目つきが変わる。
「貴久・・・・」
「高宮に何の用件だ?」
「別に」
柳瀬川を髪を掻き上げ、大きく舌打ちする。
「何の用件もないのに高宮のとこに来たのか」
「学級委員様は大変だな。わざわざお勉強の時間を割いてクラスメイトの看病に来るんだもんな」
柳瀬川は鼻で笑う。
「お前こそ、高宮とツルんでるところなんて全く見たことなかったが、いきなりどういう風の吹き回しだ?」
「お前いっつも高宮のこと見てるわけ?」
「部活の時間以外ならほとんどな。それとも一緒にサボりか」
「うっせぇなこの真面目眼鏡」
「昨日、保健室、行ったんだろう?」
「あぁ。お前は学級委員だから、仕方なく行ったんだろ。部活抜け出してまで」
柳瀬川は喧嘩を売ったような口調だった。
「仕方なく・・・・・か」
「違うのか?」
「いや、言われてみればそうかもしれない」
「い・・・・・すみ・・・・・?」
衣澄と柳瀬川の視線がベッドに向いた。
「・・・・高宮・・・・」
高宮がゆっくりと上体を起こす。
「衣澄・・・・」
「高宮・・・?」
柳瀬川が高宮の顔を覗き込んだ。
「体調はどうだ?ノートのコピー持ってきた」
衣澄はノートのコピーをクリアファイルから出して高宮の机に置いておく。
「ありがとう。ごめんね、衣澄。・・・・・授業中だったのに・・・・」
高宮は笑った。柳瀬川にはそんな笑顔が痛々しくて衣澄を自然と睨んでしまう。
「ポカ○も置いておく」
枕元に置いてもすでに一本あるからと思い、ノートのコピーと一緒に机の上に置いた。
「・・・ありがとう」
高宮の布団から出した手が震えているのを柳瀬川は見た。
「薫、帰るぞ。病人に迷惑だろ」
「・・・・・・あぁ」
柳瀬川は立ち上がって、高宮の髪を一度撫でてやると、衣澄と部屋を出た。廊下を過ぎて階段を下りるとすぐに玄関がある。
「邪魔した」
「長居しちゃってごめん」
柳瀬川はにこっと笑う。
「うん、ありがとう」
2人が玄関から出ていく姿から目を逸らし、また高宮は布団の中で蹲った。
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