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第41話 を
・・・・・・・・かみや
たか・・・・や・・・・・・・・・!
高宮!
はっと目が開く。鼓動がばくばくと脈打っている。息苦しく、身体中汗ばんでいる。ずきずきと頭の中のライトが点滅するような痛みに高宮は顔を顰めた。
「高宮・・・・・。熱があるな・・・・」
目を開くと、衣澄の姿があった。焦って上体を起こす。ぐわん、と眩暈がした。
「なん・・・・で・・・・いる・・・・の・・・・?」
先ほど柳瀬川と帰ったばかりの衣澄の姿に高宮は不思議に思った。
「声も枯れてる。・・・・・有安の部屋でくつろいでいたら壁を殴る音が聞こえたんで、心配になっただけだ」
衣澄の手にはコンビニの袋が握られていた。
「・・・・・ごめ・・・・・ん・・・・」
声が掠れ、思うように言葉が相手に伝わらない。衣澄はコンビニの袋から箱を出す。パッケージには「熱冷ましジェルシート」と青い文字で描かれている。
「こういうのは使う家庭と使わない家庭があるが、貼っておけ」
衣澄がジェルシートのフィルムを剥がすと、それを高宮の額に伸ばした。
「・・・。ありがとう」
額を覆う冷たさに少し安堵すると、衣澄と目が合った。はっと俯き、視線は泳いだ。そうして3テンポほど間があき、やっと礼を述べた。衣澄は何も言わず高宮を見つめ、高宮はそれに気付いているせいか、顔を上げることが出来なかった。見世物屋に売られた幼子のように小刻みに震えた。
「・・・・・熱いな。アイスでも買ってこよう。何がいい?」
衣澄は高宮の肩を容赦なく掴み、そう訊ねた。高宮は顔を上げることなく、首を振った。
「・・・・・クッキーアンドバニラでいいな。文句は受け付けないぞ」
衣澄は溜め息をつくことも、苛立ったような素振りを見せるわけでもなくそう言った。高宮は再び首を振った。衣澄はそれを見つめた。銀のフレームの奥の切れ長の瞳が軽く伏せられる。
「・・・・・・いで・・・・」
吐息の音より少し聞こえるような声が耳に届く。
「な・・・・・いで・・・・・・」
衣澄の腕を、弱々しく高宮が掴んだ。
「行か・・・・・ない・・・・・で・・・・・・」
その手は軽く震えていた。
「1人にして置けないのは分かってるんだが、どうしていいか分からない。俺が傍にいてもいいものなのか・・・・」
衣澄を掴む手に力が籠もった。
「新しい環境に、まだ慣れないのか?・・・・それとも、怖い夢でもみたか・・・・?」
あくまでも衣澄の対応は無愛想で不器用だ。高宮は頷くことも首を振ることもせず、ただ強く衣澄の腕を掴み続けたまま震えた。
「貴久~、けいた~、大丈夫~?」
部屋に有安が足音を立てて入ってきた。反射的に高宮は顔を上げる。目が合った。有安の眉間に皺を寄せ、悲痛な顔をした。高宮は驚いたような表情をして、すぐに弱々しく笑った。
「有安、アイス買ってきてくれないか」
衣澄はそんな2人のやりとりを見ていてか否か、後ろのポケットに入っていた長財布を有安に投げた。それをキャッチする。
「うん、分かった。なにがいい?」
「クッキーアンドバニラとチョコミント。有安も何か買え」
「え?いいの~?でもチョコミントはインポになっちゃうよ~」
有安はおどけてみせる。態と下品な言葉を選んで。言って直後、すぐに有安の表情は曇った。
「それは、困るな・・・・・」
普段はスルーされる下ネタに衣澄が反応したことに有安は舌打ちした。全てに調子が狂う。
「行ってきます」
有安は2人に背を向けた。
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