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第55話 M

 社交辞令でなく、本当にそう思った。学食にはもう行けないかもしれない。もしかしたら、最低限人と会わない生活を送ることになるかもしれないのだから。 「・・・・持っていこう。高宮、でいいんだな?」  菜飯。夕飯時が楽しみだ、と思った。 「それで、お前は、こんなところで、俺と話していて、いいの、か?」 「え?」 「欠席、か?」 「早退です」  西園寺はそれ以上何も言わなかった。 「そろそろ帰ります。ご馳走様でした」  にこりと笑って高宮は頭を下げる。その時腰がずきりと痛んだ。 「こんなとこにいたんだ!」  西園寺に背を向けて少し歩くと、明るく高い声が耳に響く。樋口だ。 「ユウ・・・・。どうしたんだよ?」  小動物のようにぴょんぴょんと駆け寄ってきて、高宮の腰に飛びついた。筋肉痛のような感覚と、骨の軋むような痛みでバランスを崩すが樋口を抱きとめた。 「無理しちゃったのかなって思って・・・・・高宮くん倒れたって聞いたから・・・・・」 「柳瀬川くんから?」  こくこくと樋口は頷いた。 「そっか」  棒読みでそう言って、高宮は歩き出した。樋口と一緒にいられる気分ではなかった。むしろ一緒にいたくなかった。夢で言われた樋口のこと。樋口には神津が関わっていること。 「高宮・・・・くん・・・・?」 「自室に帰るよ。ユウ、ごめんね。また明日」  ユウは濡れたような黒い瞳で高宮を見上げたが高宮はそれに見向きもせず、自分のペースで自室に向かった。 「高宮くん・・・・」

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