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第75話 ト
予想外の答えに有安はきょとんとした。
「知らないの?ルームメイトでしょ?荷物まとめてるし、家出って感じでもないでしょ?」
有安の言葉が天城に刺さる。天城はまた苦く笑う。当人にそのつもりはないだろうけれど、責められているような気がしてならない。
「成田先生御ヒーキの、例の次期生徒会長候補なら分かるんじゃない?」
有安は天城の言葉にぴくりと眉を動かす。有安と仲が良いことを天城は知っていた。
「ああ・・・衣澄?」
「うん。イトコらしいし」
天城は大きく頷いて、ルームメイトから家族構成について話されたときのことを思い出す。明確に「いとこ」とは言ってはいなかったが、内容的に「いとこ」という関係だった。
「え・・・・?」
有安は泡を食った。
「い・・・とこ・・・・?」
有安は聞き返す。天城はうんうんと頷いた。天城にも「いとこ」だからと言って似ているわけではないが血縁関係があるようには思えなかった。
「いとこってあれだよね?親の姉妹兄弟 の子どもの・・・・」
確認するまでもない。天城はうんうんとまた頷く。
「知らなかった・・・」
「かおりんだって言わなかったよ。ただ家族構成聞いたときにかおりんの父さんが次期生徒会長候補の母さんの弟だったわけ」
そんな詳しく家族構成を聞くなんて何があったのだろう、と有安は思った。納得できなかったが今はその情報だけで十分だ。
「オレ苦手なんだよ。保健室行きがてら探そうか」
一人称が「オレ」に変わったところで有安は天城を冷やかそうとしたがやめた。
「なかなか空気の読めるヤツだよ、衣澄は」
天城は有安の言葉を聞きながら、ガムテープサイズのセロハンテープをルームメイトの部屋から探すが見当たらないようだ。
「こんなんでいっか。とりあえず、小田桐先生にこれを渡したいんだ」
みかん箱サイズより少し小さいくらいのダンボールを天城は持ち上げた。
「この前、ここにボク、来たじゃない」
「あー・・・・うん。そうだっけ・・・?そうかも・・・?」
肩にダンボールを担ぎ上げ、ルームメイトの背中の火傷を見た日のことを思い出し、そこから有安と話したことを思い出す。それを曖昧に濁す。実はあまり話の内容を覚えていないのだ。
「あの時、罵っちゃたんだよね、柳瀬川のこと」
「ほーん」
興味無さそうに天城は相槌を打つ。それでもそれが天城の性格だと知っている有安は気にせず話を続ける。
「ボクだって人のこと、言えないのにさ」
「っへー」
ルームメイトの部屋のドアを閉め、天城はサッカー部のジャージのポケットから鍵を出す。
「いつからいないの?」
「うん・・・?えーっと昨日はいなかっただろ。一昨日くらいかな・・・?」
「そっか」
玄関のドアの鍵を閉めて、保健室に向かう。
「神津と関わってる手前、干渉しない方がいいのかなって思ってさ。詳しく聞かないようにしてるんだよ」
「それでも、柳瀬川が帰ってこないことに対して疑問とかないの?」
「うーん。まぁ。だから干渉はしないんだって。いつもならかおりんが遅くなる、とか言ってくる程度で・・・・・あー・・・でも・・・・」
「でも?」
ルームメイトとはいえとても仲が良いというわけでもない。ルームメイトがまず天城とは一線置こうとしているように見えた。そしてそれを察した。
「なんか、動画がどうだのこうだのって訊いてきてたな。ネット配信しちゃった動画は消せるのかって」
天城は考えるように視線を上に向ける。前を歩く有安の足に躓き謝る。
「ネット配信?」
「そ。それで、出て行ったな。制服のまま。ウィーチューブに動画アップするの趣味みたいだし、なんかそれ関連じゃねって思ってるんだけど」
ウィーチューブ。無料動画サイトのことだ。赤字に白いロゴマークを天城は思い浮かべた。有安も知っているだろう。
「あのさ・・・こういうこと言いたくないんだけど、一昨日の夜、救急車来てたんだよね」
「・・・でも何の連絡もないんだ。せめてルームメイトになら連絡くるだろ。成田先生も、これ持って来いくらいしか言わなかったし」
天城は有安の言葉に首を振った。否定はしてみたけれど、もしかしたら、というのは天城の中にもあった。
「とりあえず衣澄に訊いてみよう」
保健室は寮棟から渡り廊下で本校舎まで渡らなければならなかった。本校舎からさらに渡り廊下で裏校舎に行く。そして季節問わず暗く寒い1階の廊下を歩くのだ。夏以外はあまり人が通らない。
5月の空気はまだ冷たいのか有安は天城に寄り添ってくる。ちょっと危ないな、と思いながらしっかりとダンボールを掴む。
ガラス張りの窓から見える、パソコン室に並ぶ最新型のパソコンたちに目を輝かせながら歩く。保健室はパソコン室の斜向かいにある。
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