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第84話 タ
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あまり教師らしくない保健医の車に乗せられ、青間総合病院に向かう。車窓を通り過ぎていく風景を目で追う、隣のシートの友人は魂が抜けたかのような表情で、車内は沈黙に包まれていた。
天城は青間総合病院より宙野総合病院に通っていたものだから、あまり道については詳しくない。きょろきょろと青間総合病院に行くまでの風景を見回す。そうしていないといけない気がした。友人も先生も口を開く気配はない。何より話すことがない。いや、こちらには実際は山ほどあるのだろうが、まず何から始めるか決めかねているのだろう。いや、決めかねている。友人に視線を移しても、そう窺える。そしてただでさえ苦手な先生の陰鬱な雰囲気が、口を開くことをさせない。
運転席と助手席の間から見えるディスプレイに表示されてい時計は、天城が乗ってからまだ10分しか経っていないことを告げる。体感的にはもう1時間は乗っているつもりだ。
「サッカー部の君は、どの程度知っているんだ」
ウィンカーの曇った音に誤魔化すように、先生が沈黙を破った。
「え!」
隣のシートの友人ではなく自身に声を掛けられ、天城はびくっと震えた。
「どの程度って・・・・」
「彼は何も知りません。先生が知っているのは意外でしたが、桐生と僕、衣澄しか成り行きは知りません」
返答に間誤つく天城に代わり、はきはきと有安が答える。
「高宮は?」
「彼は僕の代わりに訳も分からず売られているだけです」
天城は眉間に皺を寄せる。自分の知らないところで話が繋がっている。この違和感は何だろう。
「話が読めません」
天城は手を挙げ、そう言った。
「・・・・・薫のルームメイトとして、知っておくべきなんじゃないか」
保健の先生は、少し躊躇いの色を見せる有安を察してか、低い声で言う。
「刺激が強いかもしれないがな」
「・・・・・・分かったよ。話すよ。ただ、柳瀬川のことは先生の方が知っているようですね。僕は、さきほど先生がおっしゃった“監禁”については知りません」
小さく舌打ちが聞こえた。
「神津に監禁されていたらしいんだ。俺がまだ薫を知る前にな」
「いつです・・・・か・・・?」
天城はふとルームメイトのことを思い浮かべた。彼にそんな過去があったなんて。
「中学2年のときだな」
「・・・・何故?」
「さぁな。本人から口止めされてるからあまり詳しいことは言えない、が、状況が状況だからな。絶対黙ってろよ」
有安は深く頷いた。
「背中の火傷ですか」
天城は空気を読むことができず、監禁と言われて真っ先に思い出したことを訊ねる。有安の視線が痛いくらいに突き刺さるのも構わなかった。
「見たのか。それとも聞いたのか。まぁ、いい。そうだ。そして薫を解放する条件は、衣澄が桐生と関わらないこと」
天城は息を呑む。何だそれは。神津の意図が読めない。彼は頭がいいことでも有名だ。凡人には分からない考えがあるのだろうか。
「そして、ボクも、桐生に関わることを禁じられた。それで、今になって、神津はボクを狙ってきた。敬太が助けてくれなかったらと思うと・・・でも・・・」
高宮と聞くと学園の偉い人が脳裏を過ぎる。話をまとめるのが下手で天城は苦手だ。
「そこから、高宮の件は始まったのか」
「はい」
有安の返事が重々しい。面倒なことに巻き込まれていると薄々と感じる。
「サッカー部の君には、少し話が重くなるかもしれない」
内心は、勘弁してくれと思った。そうは思ったが、頷くほかない。
「ただ君は、ハッキングして問題を起こすそうだな」
保健の先生の次の言葉に天城は身を竦ませる。生徒指導室に呼ばれ反省文を書かせられたのを覚えている。400字詰めを5枚。
「必要なんだ。動画を全部消すには。その力が」
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