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第5話 ※
もはや、抵抗する気力もなかった。
立ち上がり、静かに暗闇の中へと消えて行く男の背中を見ながら、溢れ出すまま、涙を流す。
少しして、男は戻ってきた。
その手に、細長い透明な瓶を持って。
男は元のように自分の上に跨ると、瓶の蓋を外して容器を傾け、とろりとした液体を俺の穴にたっぷりかけた。
冷たくて気持ち悪かったが、そんなこと御構い無しといったように、男はその液体を穴の入り口付近に塗り込んでいく。
それが終わると、男は中指を一本、ゆっくりと穴に差し込んできた。
一度も何かを差し込まれたことがないソコは、舌で解されたとはいえ、細い指一本でも、かなりの異物感と痛みがあった。
何とか一本入ったところで、男は何かを探るように、ゆっくりと指を動かし始めた。
手前側から、少し奥の方まで。
あらゆる場所を、ぐりぐりと押されたり、細かく擦られたりしたが、正直痛みだけで気持ち良さなんて欠片もなかった。
ーーが、男の指がある一点を掠めたとき、そこだけは何かと違うような、そんな感覚を覚えた。
鈍くはあるが、確かな快感が、身体を貫いたのだ。
「…見つけた、君のイイところ」
男は俺の反応が少しだけ違ったのを目ざとく見つけると、にやりと笑い、その一点だけを集中的に責めてくる。
「…ねえ、知ってる。ココ、前立腺って言うんだよ。男がナカで、唯一感じることの出来る場所」
「ッあ、…や、触るな…っ」
前立腺、という言葉自体は聞いたことがある。
確か、中学高校の保健体育の授業で習った筈だ。
その時はまさか、こんな風に男にそこを弄られる日が来るなんて、思ってもいなかった。
「う、っん、…ぁ…」
すごく気持ちいいわけじゃないけれど、その部分を刺激されていると、何だか変な気分になる。
男は俺の反応を見ながら、前立腺を緩急をつけて擦ったり、円を描くようにくるくると撫でたりしてくる。
「……ね、気持ちいい?」
「…っ馬鹿、いうな…」
「…腰を揺らしながら言われても、全然説得力ないよ」
「ッ……ぁ、あ…‼︎」
入り口から、更にもう一本、細い指がナカに滑り込んでくる。
思わずびくりと腰を跳ねさせれば、男は嬉しそうに笑い、くちゅくちゅなんて厭らしい水音を立てながら、先程よりも激しく責め立ててくる。
「……可愛い、可愛いよ、…航一君」
「っ、うるせえ…」
視界が、ぼんやりと霞む。
聞きたくない。
信じたくない。
自分が男に組み伏せられているという事実を。
男に、抱かれているという事実を。
「…さて、そろそろいいかな」
「え、…ちょっ、何…!」
男は仰向けになっていた俺の身体を転がすと、うつ伏せにさせ、更に両手と両膝を床につかせて、四つん這いの状態にさせた。
これから何が始まるのか、分からずに戸惑っていれば、男は着ていた服を脱ぎ始めた。
白いTシャツを剥ぎ取り、Gパンのベルトを外し、下着を下ろしてーー。
「……っ‼︎」
そこでやっと、男の目的に気が付いた。
途端に、さ、っと血の気が失せていくのを感じる。
最後に残った力で何とか逃げようとするも、男はそれを阻止するように、俺の腰をがっちりと掴んだ。
「…逃がさないよ」
耳元で囁かれ、ぞわりと背筋を悪寒が駆け抜ける。
「……あ、ぁ…やめろ、…嫌だ」
穴に、そそり立つ男のモノが、ぴたりと宛てがわれる。
「…や、っやだ…‼︎」
自分の叫び声と共にーー男のモノが、肉壁を割って、ナカへと強引に捩じ込まれる。
先程、指を入れられた時とは比べものにならないほどの痛みと圧迫感に、呼吸が出来なくなる。
「っは、…ぁ、…あ、…ッ」
顔を歪め、必死に呼吸をする俺を見下ろしながら、男は唇の端を吊り上げ、腰を動かし始めた。
「ッあぁあ、いた、…痛い、痛い…っ」
男が腰を打ち付ける度、耐えられないくらいの激痛が襲ってくる。
穴が裂けてしまうのではないかというくらい、酷い痛み。
思わず悲鳴に近い叫び声を上げるも、男は笑って、抜き差しを繰り返す。
「んっ、あ、…ぁ、いた、っ痛い……!」
溢れ出る涙で、顔がぐちゃぐちゃになるのを感じながら、早く終われとそれだけを願う。
それから男が果てるまでの、地獄のような時間は、とても長いものに感じられた。
ようやくその時がやってきたのは、酷い痛みに意識がトびかけていた時だった。
突然、男の動きが止まり、その唇から吐息が漏れる。
かと思うと、次の瞬間ーーナカで男のモノがびくんと大きく震えて、男の欲が、ナカに放出される。
「…あ、…ぁ…」
男に、ナカに精液をぶちまけられた。
その事実は酷くショッキングで、嘔吐するのには十分すぎるほどの衝撃だった。
せり上がってくる胃の中のものを、残らず全て、その場に吐き出す。
びちゃびちゃという汚らしい音と共に、綺麗な床が、吐瀉物にまみれていく。
男はその一部始終を黙って眺めていたかと思うと、ふ、っと笑った。
そして、吐瀉物の一部を指で救うと、…愛おしそうに舐めたのだった。
「……っ、…」
自分の唇から、声にならない声が漏れ、それと共に溜まっていた涙が溢れ落ちる。
ーーそこで、自分の意識は途切れた。
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