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第6話
◇◇
「……ん…」
目を開ける。
相変わらず、頭が鈍く痛む。
それに、眩暈なのか、何だかくらくらして、視界が上手く定まらない。
「…お目覚めかな」
「……っ」
突然降ってきた声に、びくりと肩が跳ねる。
もう見当はついていたけれど、半ば諦めの気持ちで目線を上げれば、白い靴下を履いた足が、視界に映った。
「気分はどう?」
「…最悪」
「…そう言うと思った」
男は俺の側にしゃがみこむと、頭に何かを被せてくる。
それが何か気付いたのは、視界に白いレース生地が写ったとき。
ぞわ、っと背中を悪寒が駆け抜ける。
「…立って、航一君」
男は俺の脇下に手を入れ、無理矢理その場に立たせた。
足に力が入らなくて、すぐに床に崩れ落ちそうになったが、男が腰に手を回し、ぐっと抱き寄せ支える。
「……僕は君を、真心を込めて愛する事を誓うよ。例え、君が病気になっても。ずっと側で見つめ続ける」
男の手が、俺の左手を取る。
どこから取り出したのか、男は銀の指輪を手に持っていた。
一瞬、酷い抵抗を覚えて、手を振り払おうとする。
けれど男はそれを許さず、指輪を薬指の先端に当て……ゆっくりと、指の奥へ押し進めた。
ーーその瞬間、何かが壊れる音がした。
目頭が熱くなり、視界がぼやける。
テストも恋愛も、あるいは人生にしたって、失敗したと気付いた時にはもう遅い。
いつも、気が付くのは既に森へ迷い込んでしまった後なのだ。
男の手が、薄い白のベールをめくる。
するりと男の手が頰に触れ、至近距離で、ぱちりと目が合う。
その時、悟った。
ーーもう、逃げることは出来ないのだと。
自分は、一生出ることの出来ない檻に、閉じ込められてしまったのだと。
唇が触れ合う寸前、そっと瞼を閉じる。
閉じた目から、透明な雫が零れた。
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