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第2話

 午前11時。窓の外から聞こえる子どもの声で、芳賀は目を覚ました。疲れきってスーツのまま寝入ってしまったらしい。 「……とりあえずシャワー浴びるか」  寝起きで回らない頭を覚ますため、芳賀は浴室に向かった。ぬるい湯を頭から被ると、段々と意識が冴えてくる。と、ともに昨日の記憶も徐々に戻ってきた。 『――ごちそうさま、芳賀』  園田の声が蘇る。男に咥えられて、挙げ句の果てイかされるなんて――残業のせいだ、きっと疲れていたんだ。最近忙しくてヌいてなかったし。芳賀はそう自分に言い聞かせた。  確かその後は、明日からよろしく、と園田に見送られ、自分の部屋に戻ってそのまま寝落ちした、といったところか。心を落ち着けるために少し長めにシャワーを浴び、ジーンズとTシャツ着替えて、芳賀は洗面所を出た。 「芳賀、遅いぞ」 「え?」 「お前は女子か、随分と長風呂だな」 「そっ、園田さん!?」  なぜ園田が、自分のベッドに座っているのか――。混乱する頭で芳賀はなんとか状況を理解しようと試みる。 「鍵開いてたから勝手に入らせてもらった。無用心だぞ」  どうやら、鍵を掛けずに寝てしまったらしい。それにしても、だ。 「……なんでいるんですか?」 「メシ食いにきた。食材は台所に置いておいたから自由に使ってくれ」 「早速ですか」 「昨日――いや、今日か、言っただろう。明日からよろしくって」 「はあ……」  まあ、もう昼飯の時間だし、丁度良いか。 「食材、有り難く使わせてもらいます」 「ああ」  台所にあったスーパーの袋には野菜や肉、卵などが適当に買い揃えてあった。 「園田さん、チャーハンでいいですか?」 「うん」  台所から顔を出して問いかけると、園田はベッドの上でごろんと横になっていた。人の家でくつろぎ過ぎだろう。 「了解しました」  袋の中から卵、ハム、レタスを取り出し、早速調理に取りかかる。野菜が不足していそうな園田のために、小松菜で中華スープも作ることにした。 「手伝うか?」  しばらくして、園田が台所に顔を出してきた。ゴロゴロしているのに飽きたのか、匂いに釣られてきたのか。 「じゃあ、スープよそってくれますか?」 「ん」  慣れない手つきではあるが、園田は慎重にスープをすくってゆく。 「……意外ですね」 「何が?思ったより不器用だって?」 「もっと他人と距離をとるタイプかと思ってました」 「ふうん、まあ、ツルむのは好きじゃないけど」  コトンと、スープをよそっていたお玉を置くと、その指で園田はつ、と芳賀の手の甲をなぞる。 「お前ならいいよ」 「っ……!」 「スープ運ぶな、腹へった」  ――やばい、飲まれる。気を抜いたら、あの人のペースに流されてしまいそうな、そんな甘い痺れが、手の甲に走った。 ××× 「ごちそうさまでした」  ぺちんと手を合わせて、園田は目を伏せる。こういうところは律儀な人だ。 「台所借りるな」  二人分の食器を持って、園田は立ち上がった。あんなゴミ屋敷に住んでいたのに、洗い物に関しては手を抜かない。カップ麺の容器でさえ、きちんと洗ってまとめてあった。カチャカチャと食器を洗う音が、テーブルを拭く芳賀の耳に聞こえてくる。 「食器、ありがとうございます」 「いーえ」  しばらくして、ハンカチで手を拭きながら園田が戻ってきた。 「さて、と。腹も膨れたし、やるか」 「何をですか?」 「何ってナニをだよ」 「は?」  呆けている芳賀の肩を園田は思い切り押した。ドスンと派手な音を立てて芳賀はベッドに倒れこむ。 「ちょっ、園田さ――」 「約束しただろ、手間賃やるって」 「っ!……だから、要りませんって!」 「遠慮するなよ。夜中は口でしかできなかったけど、今はちゃんと準備してあるから」  この人、自分がヤりたいだけだろ……。ギシリと、二人分の体重にベッドが鳴る。流されるな、抵抗しなくてはと、芳賀の頭の中に警告音が響く。芳賀はとっさに園田の細い手首をとった。腕力なら園田に負けないはずだ。  園田は、ちらと手首を見やると、妖艶な笑みを浮かべ、べろりと手首を掴む芳賀の手を舐め上げる。 「っ!?」  怯んだ芳賀の隙をついて、園田はぐいとのしかかり、芳賀の唇に噛みついた。 「ん……!」 「ふ……はぁっ」  園田の舌が強引にねじ込まれ、二人の唾液を混ぜ合わせるように、口内を動き回る。唇が離れる頃には、二人して息を弾ませている有様だった。 「芳賀はマグロでいいよ、俺が上に乗るから」  そう言って園田は芳賀の股間に手を伸ばす。 「あは、ちょっと勃ってる。今日は目隠しいらないかな」 「な……」  園田は芳賀のジーンズをくつろげると、下着を少しずらして、兆しをみせるそれを躊躇いもなく口に含んだ。チロチロと小さい舌で舐め上げる、くすぐったいくらいの愛撫は、それでも芳賀を次第に追い詰めていく。完全に勃ち上がったそこから園田は口を離すと、今度は自分のスラックスに手をかけた。 「ちょっと待ってろ」  下着ごとばっさり下を脱ぎさってしまうと、園田は膝立ちになって後ろに手を伸ばした。 「んっ……」  少し苦しそうな声を漏らしながら、園田は自らの指で後ろを解していく。そんな様子を眼前で見せつけられている芳賀は、萎えるどころかむしろ、さらに自身が芯を持ったことに愕然とした。 「ん……もういいかな……芳賀、いくよ」  そう宣言して、慣れた手つきで芳賀のものにゴムをかぶせると、園田はゆっくりと腰を下ろしていく。 「は、あ……」 「くっ……!」  芳賀を包み込むそこは、痛いほどにキツくて油断をしていると、もっていかれそうになる。 「……入った」 「うそ、だろ」  園田の薄い腹の中に自身がすっかり収まっている。その事実に慄然としながらも、芳賀は腹の底から沸き上がるような熱を感じた。園田は、ひとつ息を落とすと、腰を持ち上げゆっくりと上下に動き始めた。 「はぁ……ん、おっきい」  うわ言を漏らしながら、快楽に目をとろけさせる姿に、芳賀は目が離せなかった。自分と同じグロテスクなものが付いているというのに、腹の上でうごめく白い肢体は、その違和感を払拭するほどに美しい。次第に園田は切羽詰まった声を上げ始め、芳賀の腹の上に白濁を放った。その締め付けに芳賀はなんとか持ちこたえる。 「はぁ……」 「園田さん」 「ん……っ!?」  芳賀は、絶頂の余韻に浸っている園田の腕を掴み、繋がったままベッドに押し倒した。 「ダメじゃないですか、一人で気持ちよくなってちゃ。これ、俺への手間賃なんでしょう?」 「だって……芳賀が遅漏だから」 「他人のせいにしないでください……俺がイくまでもう少し付き合ってくださいね」 「は……んぁっ!」  少し抜いた杭を、再び打ち付ける。達したばかりの敏感な体は、その刺激にビクンと跳ねた。 「芳賀ぁ……やっ……まって」 「好き放題やっておいて何言ってるんですか」 「っこの隠れドS!」 「別に隠してはいませんよ」  園田の制止は聞かず、芳賀は思うように腰を動かす。芳賀も限界が近くなった頃、ベッドに力なく垂れていた園田の手が、芳賀の首に回された。刺激に耐えるよう伏せられていた目がゆっくりと開かれ、少し微笑みを湛えた唇が小さく動く。 「この、ケダモノ」 「っ!」  きゅっ、と締まった後孔に、芳賀は耐え切れず欲を放った。

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