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第4話
午前3時。芳賀は喉の乾きを覚え、ふと目を覚ました。隣に眠る彼女を起こさないよう、ベッドサイドにあるペットボトルを手に取る。交際は順調だった。二人で映画を見、食事をし、ホテルへ――そんな逢瀬を何度も重ねた。
「崇……?」
「すみません、起こしてしまいましたか?」
「ううん。私にもお水、頂戴」
芳賀は半分ほど残っていたペットボトルを彼女に差し出した。彼女は少し強気な所もあるが、淑やかで可愛らしい女性だ。彼女のことは嫌いじゃない、彼女を選んだのは間違いじゃない。これで、いいんだ――芳賀は胸に引っ掛かった何かを、見て見ぬふりをした。
×××
園田とは、彼女のことを話して以来、ほとんど言葉を交わしていない。園田は元のフレックスに戻ったため、アパートで会うこともなくなった。会社でたまに見かける園田は、以前より痩せ細ったように見えて。よくゼリー飲料やカロリーメイトの入ったコンビニ袋を手に下げているところをみると、まともな食事はとっていないのかも知れない。日ごとに青白くなっていく顔をみることに、いてもたってもいられなくなった芳賀は、食事を作って届けてやることにした。
「園田さん?」
隣部屋の扉が開く音がし、園田が帰宅したことを確認すると、芳賀は料理の入ったタッパーを持って、園田の部屋の前で呼び掛けた。
「園田さん?芳賀です。開けてくれませんか?」
何度か呼び掛けても、応答がない。扉の音は聞き間違えだったか――しかし、試しにドアノブを回してみると、それは抵抗なく回った。
「園田さん?……入りますね」
芳賀がそのままドアを開けると、中は明かりがついていた。帰宅はしているらしい。
「……園田さん?」
「っ、ゲホッ、ぐっ……はぁっ」
「園田さん!?」
声のした方に駆け寄ると、園田が台所で流しに顔を突っ込んでいた。
「園田さん!どうしたんですか!?」
「っ、芳賀……?うっ……」
必死で口を手で押さえる園田の背を、芳賀は上下に撫でてやる。
「気持ち悪いんですか?……吐いちゃいましょう、その方が楽になりますから」
「う……ぐっ、ゴホッ」
園田の背中をトントンと、軽く叩く。ろくに食べていないのか、吐き出されるのは胃液くらいだった。
「ふ……ぅ。芳賀……もう大丈夫だから」
少し落ち着いた様子の園田が、こちらを見やる。
「……何でいんの?」
「食事を届けに……何度か呼び掛けたんですけど、出てこられなかったので」
「食事……?」
「はい――あれ?」
おそらく、またインスタント食品ばかり食べているのだろうと見やったテーブルの上には、プラスチックのパックに入った肉じゃがが目に入った。
「惣菜、食べれるようになったんですか?」
「いや……一口食べたら、吐いた」
「はあ!?」
「誰が作ってるかわからないもんは食べたくない」――というのは、好き嫌いではなく、「食べられない」という意味だったのか。
「なんで、そんな……」
「トラウマっていうの?昔、バレンタインにもらった手作りのチョコ食べたら、経血入ってたことがあって、それから他人が作ったもん食べられなくなった」
すらすらと語られたそれは、聞いているだけで気分の悪くなる話だった。
「スーパー行ったら、それ、見かけて、どうしても食いたくなっちまって……お前のせいだぞ。ずっとカップ麺で平気だったのに、お前がうまいメシ、食わせるから」
「……なら、なんで食事断ったんですか。俺が作るって――」
「他の女抱いてる奴のメシなんて食えるか、馬鹿」
非難めいた響きを含んでいたが、園田は自嘲するような薄笑いを浮かべていた。
「……園田さん」
「なに?」
「すみません……俺、何もできなくて」
「はあ?お前が俺のために何かしてやる義理はないだろ」
「でも、」
「お前、優しすぎるんだよ。男なんて気持ち悪いんだろう。彼女とよろしくやってろよ」
ぴしゃりと、叩きつけられた言葉を理解する間もなく、芳賀は園田の細い腰を引き寄せ、抱き締めていた。
「芳賀、離せ」
「……俺は、そんな出来た人間じゃありません」
「は?」
「気持ち悪いと思っている奴に優しくできるほど、俺は聖人じゃありません」
気持ち悪いのは、ずっと靄のかかったままの自分の心だ。
「俺、園田さんが好きです」
「は……」
「彼女と付き合って、思い知りました。彼女と一緒にいても、あなたの顔がちらつくんですよ。せっかく、普通の関係に戻ろうと思ったのに」
「……」
「園田さんは俺のこと、ただメシ作って、ヤらせてくれる都合のいい奴としか、思ってないのかも知れませんけど」
反応のない園田に、少し不安になる。顔を見ようと少し腕の力を緩めると、するりと、園田の手が芳賀の頭を撫でた。
「……馬鹿だな、お前。このままなら俺から逃げられたのに」
園田は、少し悲しげな目で芳賀を見上げ、笑った。
互いの視線が絡まり、どちらともなく唇が重なる。競うように貪りあう口づけに、お互い息が上がっていく。
「あ……俺、準備してないから……」
「構いません、俺がやります」
少し、躊躇し逃げた腰を掴み、芳賀は園田の耳に口を寄せた。
「どこがイイのか、ちゃんと教えてくださいね」
「ん……」
芳賀が園田のスラックスをくつろげると、すでにそこは蜜を垂らし震えていた。先走りの滑りを借りて、人差し指をつぷりと後ろに侵入させる。力を抜いてくれているのか、あまり抵抗はない。ナカを探るようにぐるりと指を回す。
「んっ……!」
「ここですか?」
園田の反応した一点を、指を曲げてつつくと、びくりと園田の肩が震えた。
「ん……そこ、きもちい」
「……わかりました」
そこを刺激しながら指を増やしていくと、園田の勃ち上がった性器からとろとろと透明な滴が溢れ、芳賀の指を濡らしていく。
「……随分気持ち良さそうですね」
「芳賀、もういいから、はやく」
「駄目ですよ、ちゃんと慣らさないと」
ふるふると体を震わせ、少し焦りを見せる園田を宥め、指でナカを犯す。
「もしかして、指だけでイけたりするんですか?」
「ッあ!」
ぐっ、としこりを押すと、一際高い嬌声が上がる。
「っこの、バカ!焦らすな!」
キッと睨み付ける目は熱っぽく潤み、全く迫力がない。焦りを滲ませる園田の様子に、自然と口角が上がる。
「すみません。もう俺も限界なので、入れますね」
向きを変え流し台に手をつかせ、園田の痴態に既に上を向いている切先を後孔に押し当てた。十二分に解したそこは、ぬぷりと芳賀の昂りをいやらしく包み込む。
「は……あ、ぁ」
「園田さんのナカ、すごくうねって気持ちいいですよ」
「ばか、やろ……言うな」
園田が息を深く吐いたのを合図に、芳賀は動き始めた。園田の快感を引き出すように、弱い所を重点的に突く。
「あ…っ、ん、ぁ」
「ほら、園田さん。ちゃんと立ってください」
快楽に力が抜け、立っているのもやっとな園田を叱咤するように、腰をつかんで強く打ち付ける。
「や、ふか……、あァっ!」
いつもは乱れていてもどこか余裕のあった園田が、髪を乱し、目に涙を浮かべよがっているのを見るのは、征服欲を満たされる心地がした。
芳賀は、足腰の立たなくなった園田をキッチンの台の上に仰向けに寝かせた。料理は面倒だという園田の言葉通り、幸い台の上にはほとんど物ない。さらに追い詰めるように、芳賀は動きを激しくしていく。
「あ、ァ……いや……ッ、芳賀ぁ」
「嫌、じゃないでしょう?園田さん」
――そんなに蕩けた顔をして。耳元で囁いてやると、びくりと腕の中の体が震える。案外園田はマゾヒストなのかも知れない、と芳賀は熱に浮かされた頭で思った。
締め付けを強くする園田は、絶頂が近いことを予感させる。芳賀も限界が迫ってきた頃、自分の失敗に気がついた。
「あ、ゴム――」
外に出すしかないか。そう考えて自身を抜こうとすると、園田が力の入らない手で芳賀の腕を掴んでくる。
「芳賀、ナカに出して。……お前ので、俺のナカいっぱいにして」
「っ――!」
――なんて顔をするんだ、この人は。目を細め芳賀をいとおしげに見る、潤んだ瞳から目を離せないまま、芳賀は園田の中で精を放った。
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