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第4話 色と僕
僕は鏡にいるもうひとりの僕にキスをしながら、もう二度と触れることもない星玻の柔らかい唇の記憶と重ね合わせる。さっき色としたキスよりも軽いキスなのに、心を震わせた。星玻、好き…と。
熱い吐息とともに最低だなと短い息を吐き出し、コレからずっと僕は色の優しさに甘えて、色をどんどんと傷つけていくんだと思った。
そう思っていたら、後ろから優しく抱き寄せられて僕は顧みた。ソレが色だってすぐ解ったから。
「色、どうしたの?」
不安そうな色の顔を見て、僕はそう聞く。解りきっていることなのに、そう言うのは僕が狡いヤツだからだろう。
「………つ、き………は」
絞るように声をだして自分の存在を大いに主張する色に抱きつきながら、僕は静かに頷く。
「うん」
だいすきと色の唇だけが動いて、その唇が僕の唇をそっと塞いだ。捨てないでと僕の闇を知っているように色は僕を求めてくる。
こんなふうに色を不安にさせる僕が悪いのに、色はゴメンねといって舌を割り入れてきた。謝る必要はないのにと、僕は口に割り入れてくる熱い舌を無心で向かい入れた。
色いろに染めてとばかりに舌を突きだせば、色は夢中でしゃぶりつき吸い尽くしてくる。絡む吐息と舌が唾液をかき廻してねっとりとした糸を引き始めたとき、後頭部を思いっきり打たれた。
「もう!アンタたち、目を離すとすぐコレなんだから!」
続きは後っていったでしょう!と仁王立ちの母さんが僕と色を引き剥がした。母さんのいうことはごもっとも。だけど、こういうのは禁止されると尚更したくなるモノである。
「だからって、打つことないじゃん!」
「月坡、煩いわよ!はい、色くん。あっちの部屋の床、コレで拭いてきて。月坡は向こうの部屋よ」
今度またいちゃいちゃしてたら晩ごはん抜きだからね、解った?月坡!とぷりぷりと怒っている母さんは僕と色に雑巾を手渡すと、ハイ散った散ったと手で追い払う。こんな状況で僕が星玻のことが好きだって知ったら、母さんはどんな顔をするんだろうと思いながら、僕は「続きは後からね」と色にしか聞こえない小声でその耳元に囁いて、母さんが指示した部屋に向かった。
だが、色は僕の手を掴んで僕を軽々と抱え上げると母さんが色に指示した部屋につれていく。当然、母さんは呆れた顔をしたが、色には甘いから「ちゃんとふたりで床を拭くのよ」と色にいう。僕には「次はないわよ!」と睨んできたことはいうまでもないだろう。
流石にコレ以上母さんを怒らすと後が大変そうだから、素直に頷いておく。色はというと、いますぐこの続きをしようというエロい顔になっていた。
部屋に入ったとたん、色に押し倒される。ごちんと床に後頭部をぶつけなかったのは、色の腕に守られていたからだろう。
性急な口付けに僕が暴れると指の間に指を入れられて、ホールドされる。タカが指が指に絡んだだけなのに、僕の身体から力が抜けていく。ちゅっとリップ音を立てる口付けにかわっただけで、僕の理性は静まり返り、本能がむくむくと立ち上がってきていた。
「…………いろ、………だぁめ………」
掃除しないと。そういうけど、僕も本能に流されて色の唇に喰らいついている。だから、ギシギシと床が軋む音がじゅぽじゅぽという水音にかわるまでそう時間はかからなかった。
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