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第9話 狭間3

  「気にするな。タダのひがみだ」 僕の聞きたかったこととは違う応えに、僕が口を開こうとしたら、唇を塞がれて舌が絡め取られる。熱い舌が身体を蕩けさせるが、心だけは凍ったように冷たく冷えきっていた。 十年前から決まっていたこと?まったく意味が解らない僕は、その冷えきった心で考える。十年前に星玻とキスをしてたとき、星玻が困った顔をしたのは──。どうしてもと困った顔をした星玻に頼んでキスをして貰ったのは──。 そう考えるとアレは、僕からの別れの意味に繋がっている気がして、さらに心が冷たく凍りついてしまった。ボロボロと零れる涙に、色が優しく慰めて甘いキスをしてくる。 「泣くな。俺がいる」 僕の心を見透かしているような口振りで色はキスをするが、ソレ以上のことはしてこなかった。いつもなら、すてないでとか、おれだけをみてとか、あいしてるとかいって、僕を求めてくるのに。 「…………い………ろ、………ぼく………いらない……?」 今度は僕の方が不安になって、キスをしてくる色にそう聞いていた。 「そんなことない。月坡は俺のすべてだ」 「………だ、………ったら……」 「駄目だ。歯止めが利かなくなる………」 昨日から散々ヤりまくって声まででなくなっている僕に気を使って色がそういっているのか、星玻がいるから星玻に気を使ってそういっているのか、僕が星玻のことが好きで僕に気を使ってそういっているのか解らないが、色は決して僕を抱かなかった。 暫くして、泣き疲れてうとうとし始めた僕の身体をかつぎ上げて、色は脱衣場にでた。意識は虚ろ虚ろで色に甘えまくる僕は、色にされるが儘だった。 髪をドライヤーで乾かし、準備された服に着替えさせられる。ソレが女の子の服装だったとしても、僕は気づかずに着ていただろう。ソレほど、このときの僕は色に任せきりだったのだ。 キッチンに入ると母さんと星玻がいて、色に横抱きにされた僕は色にキスをしまくっていた。虚ろんだ目で色から離れようとしない僕に呆れたのは、勿論母さんだ。 「月坡、イイ加減にしなさい。星玻が目のやり場に困っているじゃない。もう母さんひとりじゃないんだから、メリハリはちゃんとつけなさい」 どう考えてもメリハリがついていなかったのは色の方なのに、たまたま今日だけ色に甘えているだけなのに、僕がメリハリのないことばかりしているようなことを母さんはいう。 不服で文句をいうが、声がでないから「うーうー」としかいえない僕はタダの駄々っ子だ。 「ほら、うーうーいってないで朝ご飯さっさと食べちゃいなさい」 母さんは白い目で僕をみて、僕は口を尖らせた。星玻はにこにこと笑って、母さんにこういう。 「母さん、月坡はボクに兄さんを取られたくないんだよ。ほら、昔からボクと月坡、好み合うから」 だが、母さんは星玻にぴしりと返した。 「星玻、そういってもね。月坡はお兄ちゃんなんだから我慢するのが当たり前なの、解る?」 色を星玻に取られても文句はいっちゃダメみたいなことを母さん言われ、僕はショックを受ける。たった数分早く生まれたからって、どうして、僕だけが我慢をしなければいけないのか解らなかった。 冷たく凍りついた心がまた冷たくなって、今度は身体の芯から凍りついてしまう。あんなに温かいお風呂に入ったのに、手足が冷たくなって、ぶるぶると身体が小刻みに震えだした。  

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