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第26話 バチ
朝、目を覚ますと僕は泣いていたらしく、目尻に涙の後がついていた。色は心配そうに僕の顔を覗いていたけど、僕は悲しくって泣いていたわけじゃないよといった。
そう、僕はみた夢を覚えてなかったけどとても幸せな気分だったのだ。昨日、あんなことがあったというのに晴れやかだった。
「色、僕さ、星玻のことがいまでも好きなんだ。だけどさ、ソレ以上に色のことが大事」
ボソボソと話しだす僕は色の首に腕を廻して、そして、こういった。
「だから、もう少しだけ待って。ちゃんと色のところに帰ってくるから。だから、待ってて」
色には凄く残酷なことをいっているんだけど、色は嬉しいと僕を抱きしめて泣いてくれた。ぐずぐずと泣く色の額に何度もキスを落として、僕は色が泣き止むまで色の頭をぎゅっと抱きしめていた。
暫くして色が泣き止むと、僕らは服に着替えて、顔を洗って、キッチンにいったらもう父さんは出勤していた。星玻もその時間に父さんにつれだされていったらしい。
星玻とちゃんと話をしたかったが、星玻に会わずに安心している僕もいて、心はもう色の方に傾いてんだと思った。身体は物凄く素直で色を求めているのだが、どうも頭だけがソレを理解してくれないようである。
消化にいいと大根菜で炊いた粥をだされ、母さんもソレなりに気を使ってんだと僕は温かい内にソレを食べた。薄味でちょっと軟らかすぎるソレはそう美味しいモノでもなかったが、僕のためにわざわざ時間をかけて炊いてくれたことが嬉しくって、お腹いっぱいだったがぜんぶ残さず食べた。
「母さん、ありがとう」
と、僕の柄ではないことをいうと母さんは後ろを向いた儘早く歯を磨いてらっしゃいといって、キッチンから放りだされた。色に横抱きにされた儘脱衣場にいくと、僕のベッドのシーツが洗濯機で廻されていた。
「父さん、そう気にすることないのに」
ほとんど使ったことがないシーツを洗われて、僕は複雑な気分になった。色は僕の歯を磨くといってきかなかったから、色のすきなようにさせた。
大学は友人たちに代弁を頼んで、レポートの提出は後日にして貰った。実習はなかったから、ソレだけは幸いだったと思った。
母さんと色につれられて、かかりつけの病院に向かう。色が入院して以来の外来だったから、ちょっと気恥ずかしかった。
「あら、月坡くん、ひさしぶり」
顔馴染みの看護師にそう声をかけられて、僕は少しだけ安堵した。今日はどうしたの?と色の定期検診はまだ先よねというから、色はこのひとつきちゃんと受診していることに安心する。
「ちょっとわけがあって、CT検査を受けに」
と、言葉を濁すと看護師もそうなの?とあまり深く追求はしてこなかった。が、どういう感じなの?と腹部辺りを指で触ってきたから、誰かにぼろくそに殴られたか蹴られたことは容易に推測されてしまったようだ。
「かなり腫れてるようだけど、鈍い痛みとかそういうのはないかしら?」
看護師にそういわれて、おへその上辺りが痛むことを伝えると、急に順番飛ばしにされて、CT検査を受けることになった。診察も急患扱いで順番が早まって、僕より先にきた患者に申し訳ない気持ちになってしまった。
CTの結果がでたとたん呼ばれ、誰もが驚くスピードで入院と手術の日取りが決まってしまう。長期入院になるとは思わず、大学をどうしようと思っていたら母さんが休学扱いにして貰ってくると色をおいて病室をでていってしまった。
検査の結果、膵臓損傷で放置しておくと急性腹膜炎になって、命が危ないらしい。早期発見が難しいらしく、激しい腹痛が生じてから発見する例が多いらしいのだといわれた。すぐに発見できてよかったと医師はいっていた。
そして、手術に関して詳しい説明を聞いたが、僕には理解できなかった。兎に角、手術をしないとダメだということしか、解らなかった。
色は落ち着かないようでそわそわしていたから、大丈夫だよ、そう大したことではないよとはいってみたが、そういって、陽香さんが亡くなったことを目の当たりにしているから、僕はソレ以上なにもいえなかった。
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