27 / 57

第27話 酬い

  ひとつき前にみたあの夢はほんとうに正夢に近いモノがあった。流石に、革紐で拘束されることはなかったが、生死をさ迷うことにはなったのだ。 僕が入院して、その日の内に父さんは僕を見舞いにきてくれた。だが、星玻は僕が手術をする日になってもきてくれなかった。色はずっと泊まり込んで僕の傍から片時も離れようとしなかったのに。 星玻はやっぱり僕のことなんか………そう思うと胸が凍りつくように冷たくなって、気が沈んだ。こんなふうになっても、まだ僕は星玻のことが好きなんだと母さんは呆れるが、頭がそうだというのだから仕方がない。時間が経てば、この胸が凍りつくような痛みもなくなるんだろうと、僕は色の優しさに甘え続けるのだった。 「色、心配しないで。手術はそう難しいモノじゃないっていってんだ。合併症や感染症はちょっと怖いけど、色が心配するようなことにはならないよ」 麻酔のギリギリの時間まで僕は色を慰めて、手術が終わったらまた会おうねと色と約束して別れた。母さんは父さんとなにか話していたようだけど、結局星玻は最後まで顔をみせにこなかった。手術室の中に入る前、母さんに星玻?と訊くと、母さんはそんなこと心配しないで、いまは自分のことを心配しなさいというのだ。腹部の痛みは日に日に増して、仰向けで寝られなくなっていた。嘔吐や吐き気、背中の方まで痛みが走って、痛み止めが切れるとのたうち廻るくらい激痛が走っていた。 「月坡、頑張るのよ!」 母さんはそういうが、なにに頑張るんだろうと思った。僕はタダ手術を受けるだけで、頑張るのは医師の方だと思ったからだ。 取り敢えず当たり障りがないように母さんの後ろに立っていた父さんに「いってきます」と、挨拶をして母さんと父さんとも別れた。 手術台に運んでくれる看護師に「全身麻酔ですから目が覚めたら病室にいますよ」と声をかけられ、僕も「そうですね」と返したところで意識が途絶えてしまった。多分、その挨拶が麻酔が投入される合図だったのかもしれない。  

ともだちにシェアしよう!